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第78話 勇気と蛮勇

 ロリ様の帰宅?時間に猶予が出来たことで、俺たちは更に先の階層を目指して進んで行くことになった。


 家(?)に遅くなるって手紙は出したけど、その事についての了承を得たわけではないという事については誰も怖くて触れることはない。


 10階層に辿り着いた時にはロリ様とバックスさんのレベルも更に上がっており、ロリ様に至っては自ら戦いたい様子で、魔物が出てくる度にナイフを握りしめて飛び出そうとするのをバックスさんに取り押さえられていた。


「だから駄目ですって!ロリ様のレベルでしたら、この辺りの魔物なら余裕かもしれませんけど、ナイフでの戦い方も知らないんですから危ないです!」


 今のところ出てくる魔物のランクはDランク程度のもの。ロリ様のレベルは21になっているので余裕の余裕ではあるんだけど。万が一、どこかが欠損するような大きな怪我を負ってしまったら、市販のポーションしかない現状では致命傷になりかねない……と思う。


 同じ敵の攻撃であっても、受ける箇所によってダメージは異なる。それはそうだと思う。頭に食らうのとお腹に食らうとのでは話が全然違ってくる。


 一応ステータスで管理されているこの世界は、自分の防御力(DEF)が敵の攻撃力(STR)より高ければ、直撃を食らったとしても大きなダメージを受けることはない。それでも、ほとんど、だ。何の防具も着けていないロリ様が首筋に攻撃を受けたとしたら大変な事になる。その一撃で死に至ることだってあるだろう。


 ゲームとかだとHP1とかになってもポーションで回復することが出来るけど、実際に高レベルのキャラのHP1の状態って手足が無くなってるような状態なんじゃないかと昔から思っている。なんでそんな状態で元気な時と同じだけのダメージを与えられるの?って。

 なので実際に人間が怪我を負ってHPが瀕死の状態になった時に、その怪我がどの程度まで回復出来るものなのか、実際に試したことがないので分からなかった。

 ただ、怪我が元で引退したという冒険者の話を聞いたことがあるので、やはりポーションは万能ではないんだろうと思う。所詮、原材料はただの薬草だしね。


「でも!せっかくなので私も戦いたいのです!」


「落ち着いてください姫様!」


 説得する俺。必死で後ろから羽交い絞めにしているバックスさん。その腕を懸命に振り払おうとじたばたしているロリ様。そして、そんな俺たちの後ろで1人で嬉々として魔物を戦っているタマちゃん。


 ダンジョンの中でなんて平和な光景なんだろうと俺は思っていた。



「タイセイさん。こっちは終わりましたよ」


 無数に飛んできていたジャイアントバット(レベル20)を汗一つかくことなく1人で倒し切ったタマちゃん。


 そんな様子を見て、ロリ様は残念そうに項垂れた。


「ロリ様。レベルが上がって戦いたいって気持ちは俺も分かります。でも、それは勇気ではなく、蛮勇というのです」


「……勇気ではなくて蛮勇」


「そうです。今のロリ様は力自慢の村人と変わらないのです。自分の力を過信して、何の準備もせずに戦いに赴く。そして死んでいった新人の冒険者なんて掃いて捨てるほどいます。本当に勇気のある人なら、退くときは退いて、戦える準備を整えてから挑むんですよ」


 それはかつての自分を思い出して胸の奥が痛んだ。

 タマちゃんやトリュフさんを危険に晒してしまった過去の自分。

 俺が傍にいる間は、ロリ様に同じような思いをさせるわけにはいかない。


「……バックス」


「は、はい!」


 俺の言葉に何か考え込んでいたようなロリ様がバックスさんに声をかける。


「城に戻ったら、私に戦い方を教えてください」


 そうバックスさんに言ったロリ様は何かを決意したような表情をしていた。


「……私でよろしければ」


 バックスさんはロリ様に膝をついてそう答えた。


「タイセイ様。我儘を言って申し訳ございませんでした。私は城に戻るまで大人しく着いていきます」


「理解してくれてありがとうございます。それと、少しキツイ事を言ってしまってすいません」


「いいえ、タイセイ様は何も間違ったことをおっしゃってはいません。私の目を覚ませてくれて本当にありがとうございます」


 自分の過ちを認め、それを素直に謝れるのは素晴らしいことだと思う。

 そしてこの堂々とした振る舞いよ。

 やっぱり王女様は違うね。


「タイセイさん。この壁少し変ですよ。何か奥に空間があるような……」


 俺たちがしんみりとした空気になっていた時に、周囲を警戒していたタマちゃんが何かを見つけて声をかけてきた。


 スキル「気配察知」が(中)になってから、その索敵範囲が広がっただけでなく空間把握能力も付与されているようで、罠の発見や建物の中の部屋数なども外から感知することが出来るようになっていた。


「この辺?」


 タマちゃんが言った辺りの壁は、軽く手で押すとその部分だけ手が壁に吸い込まれるような感じになる。


「……ナニコレ?気持ち悪っ!!」


「幻で作られた壁でしょうか?」


 俺たちのところへ近づいてきたバックスさんがそう言った。


「幻、もしくは魔法で隠蔽されている通路がありそうですね……」


 ダンジョンといえば隠し部屋に隠し通路!

 この奥にはきっと伝説のお宝が!!

 とは思ったけど、モンスターハウスの例もあるし、ロリ様のいる現状で危険を承知で突撃―!とはいかない。


「まあ、ここはいずれ別の機会に調べるとして――」


「隠し通路ですの!?」


 そんな嬉々とした声を上げながら俺の横をすぅっと通り抜けていくロリ様。

 ――って、おい!!


 慌ててロリ様を掴もうとした俺の腕は空を切った。

 そしてそのまま壁の中に消えていったロリ様。


「ロリ姫様!?」


 まさかの行動に声がひっくり返るバックスさん。


「たった今、大人しくするって言ったとこじゃん!!」


 選択肢の無くなった俺たちは、ロリ様の後を追うように壁の中へと入っていった。


 このトラブルメーカーめ!!






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