「ここは……」
ロリ様を追って壁の中に入った俺たちは暗闇の中にいた。
いや、正確には完全な暗闇というわけではなく、俺たち4人の目の前には、ぼんやりとした光を放つ巨大な鳥居がある。
元の世界でも見た事が無いほどの、高層ビルを見上げるような大きな赤い鳥居。
それが真っ黒な床の上にどーんと建っていた。
「これは……なんなんでしょうか?」
呆然と鳥居を見上げている俺たち。
タマちゃんが誰にともなく呟いた。
「これは鳥居、かな?えっと、神様とかを祀っている場所の入り口に建っているやつと同じ形をしてる」
「じゃあ、この先に神様がいるんですか?」
「いやいや、祀っているっていうのは……えっと、こっちでいう教会みたいなもんで、実際に神様がそこにいるっていうわけじゃないよ」
「で、神様って誰ですか?」
「……え?」
そういえばこっちに来てから宗教的な何かを見た事が無い。
教会も見たこと無いし、神様の名前すら誰かが言っているのを聞いたことが無い。
あのまん丸、全然信仰されてないじゃねーか。
でもねタマちゃん。ここには神様いないと思うよ。
だってこっちの神様はふわふわした雲のあるところいるからね。
ぱんっ!ぱん!に太ってたから、きっと毎日いいもの食べてゴロゴロしてるんだと思うよ。
いつかぶん殴る。
「わたし……これを知っているような気がします」
そんなことを呟きながらふらふらと鳥居へ近寄っていこうとしたロリ様の襟首を掴んで引き留める。
「迂闊に近づいたら危ないですよ?まだこれが何なのか分からないんですから」
「でも、誰かが私を呼んでいるような気がするんです」
ロリ様は運ばれて行く子猫のような体勢でバタバタしながらそんなことを言っている。
結構レベルが上がっているので、普通の人だったら引きずられていきそうなくらいの馬力だ。
鳥居の光が少し強くなってきた気がする。
「ほら!鳥居様も私たちを呼んでいます!」
「いやいや!そんなの余計に怪しいでしょう!」
あと、鳥居に様ってつけるもんなの?
「そうです!得体の知れないものには警戒せねばなりません!」
バックスさんもロリ様の腕を掴んで引き留める。
でも、その台詞はここに来るまでにしっかりと叩きこんでおいてほしかった。
すでにめちゃくちゃ得体のしれないものに触れまくってるからね。
どんどんと光は強くなり、やがて点滅を始めた。
これをラスベガスとかに作ったら好評だろうなと思う。
「放してください!私は行かねばならないのです!」
「だから駄目だって!」
「駄目ですぞ姫様!」
そんなやり取りをしている間にも鳥居の点滅はどんどん速くなる。
ロリ様の引っ張る力も徐々に強くなってくる。
俺とバックスさんんが全力で引き留めているのに、2人とも引きずられそうなくらいのレベルを超えた力。これはどう考えても異常な状況。
そしてどんどんどんどん速くなっていく点滅。
何か鳥居がイライラしてるみたいに見えるんだけど気のせいだよね?爆発とかしないよね?
てか、タマちゃんもロリ様を止めるの手伝って。
「……タイセイさん」
「タマちゃんもロリ様止めるの手伝って!」
「いえ、そんなことよりも……」
そんなこと!?
今一番大事なことでしょ?!
「鳥居が近づいてきているような……」
「何言ってんの!?俺たちがロリ様に引きずられて近づいていってる……んだっ……て……」
あれ?それでもこんなに近かったっけ?
俺たちがロリ様に引きずられた距離は1メートルほど。
それなのに鳥居との距離はそれの何倍も縮まっていた。
「鳥居様の方も私を迎えにきておりますわ!」
迎えに来る鳥居様はすでにただの日本人なんよ。
ひさしぶりに会う友達が駅に迎えに来てるのと違うんだからさ。
どんどんどんどんどんどんどんどん……。
マズイ!マズイ!マズイ!
めちゃめちゃ近づいてくる!!
「タマちゃん!何か分かんないけど、とりあえずロリ様を止めるのを手伝って!!」
周りが真っ暗すぎて入ってきた入り口がどこなのか分からない。
それでもこんな意味分からん動く鳥居からは逃げないと!!
「は、はい!ロリ姫様!止まってください!!」
タマちゃんも加わって3人でロリ様の進撃を食い止めようとするが、それでも尚、俺たちは鳥居へと引きずられ、鳥居様はすでに俺たちの目の前まで迫ってきていた。
分かった!鳥居が近づくほどロリ様の力が上がっていってるんだ!!
まあ、今更そんなことが分かったところで意味ないけど。
俺たちは光り輝く鳥居の中へと吸い込まれていった。
光に包まれていた真っ白な視界がゆっくりと戻っていく。
そしてそこにある景色はダンジョンの中なんかじゃなかった。
一面に広がる草原。
ぽつりぽつりと青々とした葉を茂らせた木が生えていて、遠くには大きな森のようなものも見える。
上空には青空が広がり、太陽の暖かな日差しに春のような柔らかな暖かさを感じる。
前髪を揺らすくらいに微かに吹く風に乗って草の青い香りがした。
「……外に出たんでしょうか?周囲には特に何の気配も感じませんし…」
抜け目なく索敵していたタマちゃん。
ぼんやりしているように見えて、こういうところは頼もしい。
「ロリ姫様―!!」
バックスさんの声に、俺が掴んでいたはずのロリ様がいないことに気付いた。
鳥居をくぐった時は確かにこの手で……。
俺は慌てて辺りを見回す。
しかしその姿はどこにも――
「タイセイさん!あっちです!!」
気配察知でロリ様を見つけたらしいタマちゃんが丘のようなところを指さしている。
そこには周りに見える木よりもより一層大きな木が一本生えていた。
この位置からロリ様の姿は見えないが、俺たちは丘へ向かって走り出した。
何のイベントだこれ?