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第80話 女神降臨 しかし難あり

 タマちゃんの指さした木の生えている丘は俺が思っていたよりもずっと遠いところにあった。

 木は近づくにつれてどんどんと大きくなっていき、それは大樹ともいえるほどの立派な木だということが分かってきた。


 ようやく丘を登り切り、大樹の前にいるロリ様を見つけた。


 先程の鳥居よりも大きな、見る者全てを圧倒させるであろう雄大なスケールの大樹。そして、その前で祈るような姿勢で膝をついているロリ様。


 一瞬声をかけるのを躊躇ってしまう程に、それはどこか神聖な儀式のように見えた。


「ロリ……様?」


 祈るロリ様に後ろからゆっくりと近づき、そっと声をかけてみた。

 しかし反応はない。


 軽く揺さぶってみようと思った俺は、ロリ様の肩に手をかけた――瞬間、ロリ様の身体から強烈な光が溢れ出し、それは一瞬で俺を包み込んでしまった。


 辺り一面の真っ白な世界。

 まるで最初にマルマールの奴にあった場所のようだった。


「タイセイ……様?」


 ゆっくりと振り返ったロリ様は、まるで今の今まで眠っていたのかと思うくらいのぼんやりとした顔で俺を見ている。


 今この場所にいるのは俺とロリ様の2人だけ。

 これは俺たちだけが別の場所に連れてこられたと考えて間違いなさそうだ。


「ここは……どこでしょうか?何故私はこんなところにいるのでしょうか?それにタマキ様とバックスは……」


「ロリ様。どこまで覚えていますか?」


「どこまで……。ええと、私の最初の記憶は2歳の時に――」


「あ、このダンジョンに入ってからの最後の記憶だけで良いです」


 10年分の思い出を聞いている場合じゃないからね。


「そうですか……」


 なんで残念そうなんだよ。


「確か……タマキ様が壁の向こうに何かあるとか言っていたのは覚えてます。それで私は……どうしたんでしょう?」


 あの鳥居を見たところからは覚えてないのか。

 じゃあ、あの時にはすでに何らかの影響を受けていたんだろうな。

 めちゃ力強くなってた事も踏まえると、最初からこの場所が呼んでいたのはロリ様だったという事だろうか?


「その後、俺たちはその壁の中に入りました。そこには不思議な鳥居――門のようなものがあって、ロリ様はそこに吸い込まれました」


「門……それは転移ゲートのようなものでしょうか?それでこの場所に?」


「俺は転移ゲートというものを見たことがないので何とも言えません。そこから飛ばされた先は、とてもダンジョンの中だとは思えない、空も太陽もある草原のような場所でした」


 あれがロリ様の言う転移ゲートなのだとしたら、あの場所がダンジョンの外だとしてもおかしくない。


「ロリ様はそこにあった大樹に何か祈るようにしていたんです。何も覚えてないですか?」


「……大樹に祈る」


 何かを思い出そうとしているのか、ロリ様は目を瞑り黙ってしまった。

 その間、俺はここから出るにはどうしたら良いのかを考える。

 鍵は絶対にロリ様にある。

 まあ、そりゃそうだろ。あんなシチュエーション見せられて、これがタマちゃんやバックスさんのイベントだったら、俺はひっくり返って致命傷になるレベルで後頭部打ち付けるわ。


 真っ白な空間だから悪いようにはならないと思う。


 勝手なイメージだけど、こういう場合はトラップというよりも神様的な何かに呼ばれてるパターンだと思う。


 それにこれがトラップだとしたら、こんなに手間をかけてまで何度も移動させる意味がない。最初のモンスターハウスで十分だ。


 だとしたら、ここで起こるのはロリ様に関する何か。そもそも【妖精王女】って職業だったり、「世界の声を聞く者」なんて物騒なスキルを持っているロリ様なんだから、何があっても不思議じゃない。

 きっとここで起こることはロリ様に関する重大な何か……。


「タイセイ様……。私、思い出したことがございます」


 ロリ様は今にも泣き出しそうな顔で、そう呟くように言った。


「でも……これは……」


「ロリ様?何を思い出したんですか?」


 その大きな瞳から一筋の涙が流れ落ちた。

 涙が頬を伝って足元へと落ちる。

 するとその瞬間――


 落ちた涙は地面に到達することなく、ロリ様の膝下くらいで弾け、光の波紋となって俺たちを囲うように広がった。


『よく来てくれました。我が加護を受けし愛すべき子よ』


 そしてすぐに直接脳内に語りかけてくるような女性の声が聞こえてきた。どこかで聞き覚えのある優しい声。

 どこか厳かに思えるその声を聞いて、俺はマルマールと会った時と同じだと思った。

 つまりこの声の主は――


『我はこの世界の生命を司る神、アルマーノ』


 俺たちの前に一際強い光が発生し、その中から白い法衣のようなものを着た美しい女性が現れた。

 長いブロンドの髪に、美しく整った顔。

 まさに女神といったナイスバディな風貌で、マルマールのように自分から神様と言わないと分からないような残念神様とは全くの別物。


 ロリ様を見ると大樹の前でしていたのと同じように祈りの姿勢になっていた。

 まあ、神様の前だからそれが普通かもしれない。

 棒立ちでまじまじと見ている俺の方が不敬だよね。


 でも、ロリ様イベントなんだから、俺はここでは後方腕組みおじさんを気取らせてもらおう。


『タイセイさん。一応、貴方も当事者の1人なんですけども……』


 あ、心の声が聞こえるんだった。

 アルマーノ様は片手を頬に当て、少し困ったような仕草で俺の方を見ていた。

 は?俺も当事者?


『コノツギ王国第一王女ヒューナード・ボランド・ウルフシュレーゲルスターインハウゼンベルガードルフ・ロリエレット・フィラデルナード。構いません。頭をお上げなさい』


「……はい」


『全てを思い出しましたか?貴女が祖先より受け継いだ記憶の全てを。我がそなたたちに与えた導きの意味を』


「祖先より受け継いだ記憶?」


 先祖代々語り継がれていること?


『いいえ、そうではありません。ヒューナード・ボランド・ウルフシュレーゲルスターインハウゼンベルガードルフ・ロリエレット・フィラ――』

「あ、すいません。長いんでロリ様とかでお願いします」


『……貴方、神の前でくつろぎすぎていませんか?』


「2度目なので」


 最初がマルマールだったお陰か、不思議とこの状況でも全く緊張していない。


『いえ、それでも普通はもう少しですね……。まあ、別に私は構わないのですが……むしろ私の方が戸惑うというか……』


 いつの間にか一人称が「我」から「私」になってるな。


『あ!それは私――わ、我にも神の威厳というものがありましてですね!』


「普通にやってもらって良いですか?」


 せっかく声に出してるんだから心の中を読まないでくれます?


『……ごほん!ええと……どこまで話しましたっけ?』


 この世界の神様って、みんなポンコツなのか?


『ポンコツって言うなし!!』


 言ってないよ。

 思っただけだよ。

 勝手に心の中を読んでおいて文句言うなし。




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