『――と、いうことなのです』
「いや、まだ何も聞いてませんが?」
大事な話をダイジェストではお送りしませんよ?
「そうだったのですね……」
「ロリ様、乗らないで結構ですよ。アルマーノ様、ちゃんと俺たちがここに呼ばれた理由を話してもらえますか?それとこのダンジョンは一体何なんです?この為に作られたわけじゃないんでしょ?」
それは流石に無駄に手が込みすぎている。
あの鳥居のワンクッションが邪魔だからね。
『……あなたは中々にせっかちなのですね』
そちらがぼけぼけとし過ぎなんだと思うけど。
『ぼけぼけ……。ま、まあ、ではおふざけはこの辺にしておいて――私があなたたちをここへ呼んだというわけではないのです。確かに王女がここに来るような仕掛けを作ったのは私ですが、そうなるように導いたということはしておりません。あなたたちが自分たちの意思でここへ至る道を辿ったのです』
「すいません女神様。俺たちは別に自分たちの意思で来たわけじゃないです。偶然隠し通路を見つけて、無理やり鳥居をくぐらされたんですよ?」
「……それがあなたたちの運命だったのでしょう」
「神様が運命とか言わないでくれます?少なくとも鳥居をくぐるつもりはなかったですから」
あれには明らかに誰かの意思が含まれていたでしょ?
『それも含めて、全ては神の導くままに――』
「やっぱりあんたがやってんじゃねーか!」
『神の言葉尻を捕らえるとは……あなた、結構やりますね』
「この世界の神様ってこんなんしかいねーのか?」
「ええと……それでアルマーノ様。結局どうして私たちがここに?それと、何故創造の神であるマルマール様の姉神である貴女様が私たちの目の前においでくださっているのでしょうか?」
ああ、早くそれを聞いて2人のところに戻らないと。
どうせ聞かないと帰してもらえそうにないし。
『ロリ王女。貴女はすでに祖先の記憶を思い出しているのでしょう?だからこそ私や、弟の事を知っている。でしたら、貴女に与えられた使命も理解出来ているのではないですか?』
「……それは」
記憶を思い出したから2人の神様の事を知っている?
どいうこと?
『構いません。そちらのタイセイさんも、貴女の使命に無関係というわけではありませんから』
「俺が?ロリ様の使命に関係しているって言うのか?」
『先ほど申し上げたでしょう?あなたも当事者の1人なのだと』
いや、それは、この場にいるっていう意味でかと……。
ロリ様が呼ばれたのに俺が巻き込まれて、ついでに来てしまったのだと思っていた。
そもそも勇者召喚に巻き込まれてこの世界に来てしまった俺に、この世界の人間の与えられている使命に関係するなんて……てか、俺って巻き込まれすぎじゃね?今度はロリ様に巻き込まれるの?いやいや、それはちょっと、ね?ほら?そういうのはさ、この世界の人たちでどうにかこうにかやってもらったりして、俺はもう少し平和に元の世界に帰るまでの時間をだね、勇者が帰ってくるのを……あ、魔王は倒せないから、自力で帰る方法を――。
『すいませんが、もう少し考えることをまとめてから考えてもらえません?ちょっと何考えているのか読み取り辛いもので……』
「混乱してんだからほっといてくれるかな?」
考えることをまとめてから考えるって何だよ?
そんな並列思考機能付いてないわ。
「タイセイ様……。これは私の遠い祖先の話です」
何かを考え込んでいたロリ様が意を決したように話し出した。
もう女神いらなくね?むしろ脱線させらる分邪魔なんだけど。
「それはこの大陸に、まだ国と呼べるものが出来ていなかった時代です。今ある『世界の森』と呼ばれるものもなく、この大陸に流れ着いた私たちの祖先は集落を森の中に作って生活していました。文明と呼べるほどのものもなく、狩猟や森の恵みを採集して糧とする生活でしたが、人々は平和で幸せな日々を過ごしておりました」
そりゃあ、文明の利器をそもそも知らないのだから、原始的といえる生活に不満を抱くこともないんだろう。まあ、今でも日本と比べると……ね。コンビニとかもない世界だし。
「そうして月日が流れます。人口は増え、集落の数もその範囲を拡大されていきました。そうすると徐々に集落同士による争いが起こるようになりました。皮肉なことに、その争いで開発されていく兵器や戦力などによって祖先たちの文明レベルが上がっていったのです」
戦争が起こると文明が発達するとか聞いたことがある。
多くの人の命の上に、今の自分たちの便利な生活が成り立っているんだとか。
「人々は争い、互いの命を奪い合う悲しい時代がしばらく続きました。人の心は廃れていき、互いに相手を信用することのない、そんな悲しい時代が……」
ロリ様の目から涙が流れ落ちる。
受け継いだ記憶……。それはロリ様自身がその時代を経験しているかのような錯覚を覚えているのかもしれない。
「そして……最悪な災厄が訪れます。それまでの人々の争いなど些事であったかのような恐怖の存在。祖先たちはそれを『悪神ヴリトラ』――そう呼んでいました」
「大河のように巨大な蛇の姿をしたそれは、祖先たちが住んでいた森を蹂躙し、集落を丸ごと飲み込んでいきました……。人々は争いどころではなくなりました。自分の、そして家族を護る為に戦います。しかし、その悪神の前に人の力はあまりにも無力でした……。ひと月も経たない間に、それまでの人口の半分が悪神の餌食となりました。大人も子供も老人も、強き者も弱き者も、富める者も貧しき者も、その脅威の前には皆平等であるかのように……」
人はただ神の前においてのみ平等である……それで悪神……。
「やがて人々は戦う事を諦め、いつか自分に訪れるであろう死を受け入れる覚悟を決めていきます……。逃げることも、隠れることも諦めて、ただ静かにその時を待つ……そんな絶望の日々を……」
ロリ様の涙は止まることなく流れていたが、それでも話を止めることはなかった。
「しかしある時、この大陸に3人の人間が突然姿を現しました。彼らは祖先とは異なった容姿をしていました。その顔も、その服装も、全てが見たことのない人たちでした」
……ん?
「彼らは悪神に戦いを挑みます。剣を振り、魔法を使い、巨大な悪神と互角に渡り合ったのです」
それって……もしかして……。
「激しい戦いは三日三晩続きました。そしてとうとう彼らは悪神を打ち倒したのです。祖先たちは歓喜しました。そして、その勇気ある者たちを『勇者』と呼び称えたのです」
……勇者召喚。
誰がやったかは知らないけど、その見たことのない人たちというのは、他の世界から召喚された勇者に間違いはないだろう。
少しだけ、俺が当事者と言われた理由が分かりだしてきた。
でもね、俺は巻き込まれてきただけの『その他』だから、関係はやっぱり無いと思うんだよ……ねえ。