「じゃあ、その勇者のお陰で、ロリ様たちの先祖は助かったんだ?」
「そうですね。勇者様たちが来られていなかったら、今この世界は全くの無になっていたでしょう」
人類はいなくなってたかもだけど、世界はあるよね?
比喩的なことかな?
『タイセイさん。王女が言った言葉の通りなのですよ。悪神ヴリトラは世界という存在そのものを喰らう存在なのです』
世界という存在……そのものを?
『これはこことは別の世界での話です。そこに現れたヴリトラは、まず最初にその世界にいた人たちを喰らいました。全ての人類が喰い尽くされてしまえば、人という存在はその世界から無くなります。次に木々のある森を、林を、山を喰らい。川を、海を、空を喰らったのです。そして最後には世界そのものという存在を喰らい尽くすのです』
「存在を喰うって……そんなことが出来るんですか?」
『出来るからこそ、「悪神」などと神の名を冠するように呼ばれるのです』
「祖先は勇者様たちが護ってくださったお陰で、今の私たちが生まれてくることが出来たのです」
「なるほど……。それは感謝しないといけないな。この世界が無くなってたら、俺もこうやってファンタジーな世界を体験出来なかったんだから」
「ふぁんたじぃ?」
「んーっと、自分たちが住んでいた世界とは別の暮らしをしている世界って感じかな?」
「なるほど……。あ!それでしたら、私もタイセイ様の元いた世界に行ってみたいですわ!」
「いや、それは……」
無理でしょ。
ここから帰る方法がまだ分かってないんだし、そもそも向こうからロリ様を召喚するとか出来るはず――
『出来ますよ?』
出来るんかーい!!
……え?!どういうこと?!
『あ、いえいえ。タイセイさんが元の世界に戻ることが出来れば、きっとそんなことも出来るんじゃないかなあ?って思っただけです』
どんどん口調が砕けていってるけど女神の尊厳とか大丈夫そ?
「元の世界には魔法が無いんだから無理ですよ。どうやってロリ様を召喚するんですか?」
「じゃあ!タイセイ様が戻った後に、こちらから魔導士を送って、それから私を召喚してもらえば!」
「落ち着いてロリ様!矛盾が渋滞するから!」
まず、俺が戻る方法を探してる途中だからさ。
それに魔導士を送れるくらいなら最初からロリ様が来れば良いじゃん!
召喚て「呼び寄せる」って意味だから送るのは無理だしね。
「……で、ヴリトラは無事に勇者に退治されたんですよね?そこからどう今の状況に繋がるんです?俺たちがここに呼ばれた理由がはっきりしてませんけど?」
『ヴリトラは滅んでいません』
「え!?でもロリ様が……」
「タイセイ様。勇者様たちはヴリトラを打ち倒しました。しかし、その全てを滅することは出来なかったのです……」
『ヴリトラは勇者によって活動を停止しました。しかし、その存在は未だ生き続けているのです』
「それはどういう……」
「その全てを滅することが出来なかった勇者さまたちは、ヴリトラの魂を3つに分け、大陸の各地に封印したのです」
魂を封印?
……いろいろ散らばっていたピースが集まってきているような。
「その封印場所が『世界の森』と呼ばれる場所です」
――!?
『ヴリトラの魂は封印されましたが、それでも世界に残したヴリトラの残滓と完全に繋がりを絶つ事は出来ませんでした。そしてその繋がりより洩れ出る魔力は次第に自分の魂を守るような巨大な森を形成しました』
「あの森がヴリトラの影響?――じゃあ、あそこにいる魔物たちは!?」
『ヴリトラの封印から洩れ出てくる魔力によって凶暴化した、元は普通の動物たちなのです』
「あれが普通の動物たち……」
モヒカンは?
あれも元動物?――いやいや!!
「ヴリトラを封印した勇者様たちは祖先の強い要請を受け、大陸の各地にそれぞれが王となる国を造りました。それが『始まりの三国』と呼ばれている『タブンナ』、『コノツギ』、『ソレカラ』の三国です」
「コノツギ王国が『始まりの三国」……じゃあ、ロリ様は勇者の末裔ということ!?」
「……そういうことになります」
じゃあ、あのタブンナのポンコツ国王も?!
……どんな勇者だったのか非常に気になるところですな。
「そして、『世界の森』はどこの国にも属せず、その動向を見守ることになりました。やがて時は流れ。ヴリトラの封印の話は伝説とすらならず消えていってしまったのです……」
「そんな大事なことが伝えられないって……」
『ヴリトラは存在を食らう悪神。彼は魂を封印されて尚、世界に残された僅かな力をもって人々の記憶にある自分の存在を喰らったのです』
自分が世界に存在したという記憶を喰らった……。
「かくして、『世界の森』をどこの国も領土としてはならないという強い掟だけが残りました」
「……今、すごーく嫌な考えが浮かんでいるんですけど」
『タイセイさんが考えていることで、ほぼ合っていますよ』
「ヴリトラの封印が解けかけている?」
『ぴんぽんぴんぽーん!!』
「大正解でーす!!」
「緊張感どこいった!!」
さっきまで泣いていたのは何だったのか……。
「それでタブンナで勇者が召喚されて、俺が巻き込まれてここに来た、と。以上ですよね?勇者たちがヴリトラをまた封印したら俺は元の世界に帰れるんですよね?あ、もしかしたら、ロリ様もその手伝いをすることが、最初にいっていた与えられた使命とかですか?」
『タイセイさん……。私は言いましたよ?あなたが考えていることでほぼ合っていると。この世界が出来てから、勇者が召喚されたのは2回のみです。最初の1回はヴリトラを封印した時、次の1回が今回です』
「で、でも!前にも魔王を封印した勇者がいるって――」
『あれは人々が呼んだ『召喚者』と呼ばれる存在です。真に『勇者』と呼ばれているのは、私たち神が世界に降臨させた『使徒』のことを言います。『使徒』は別の世界から来て、神から直接の加護を受けし者。この世界の常識の範囲外にある力をもつ『その他』の存在。――もうお分かりですね?』
「巻き込まれたと思っていた俺が……本当は勇者だった?」
『ぴんぽんぴんぽーん!!』
「大正解でーす!!」
うっせえよ!!最悪だわ!!