ティナは机に膝を置き、頭を抱えていた。原因はテーブルに置かれた一枚の招待状。
事の始まりは数分前─…
「おじょ~さん」
のんびりと本を読みながら、優雅にお茶を飲んでいた所にゼノが顔を出してきた。
至福のひとときが一瞬にして崩れた事で、ティナの顔はあからさまに曇りだした。
「そんな嫌な顔しないでよぉ。俺だって仕事なんだからさぁ」
「仕事って言ってる割には、毎晩のように飲み歩いてるようだけど?」
ジロっと睨みつけながら言う。
ゼノは毎晩、夜の街に出向いては朝日と共に帰ってくる。酒の臭いと香水の匂いを全身に纏わせて…
この間なんか、目の着くところに紅い
誰とどう遊ぼうが関係ないし興味もないが、節度は守って欲しい。
「…あんた、いつか絶対呪い殺されると思うわよ?」
「心配してくれるの?」
「呆れてるの」
「えぇ?そんな事言わないでよ」
相変わらず掴みどころの分からない男だと思いながら、なんの用か訊ねた。
「ああ、そうそう。これ、お届け物」
そう言いながら差し出してきたのは一枚の封筒。眩いぐらい真っ白な封筒に、目を引く真っ赤な封蝋。端には流麗な字でユリウスの名が記されてある。
開ける前から嫌な予感しかしない。
「受け取り拒否で」
「それは勘弁してよ。お使いも出来ないと思われるでしょ?」
封筒を突き返すが、ゼノとしても持ち帰る訳には行かない。
「お使い出来なくて上等じゃない。そのままお役御免になりなさいよ」
「酷い!!こう見えて俺、結構優秀な人材よ?」
「……………」
「無言で否定するのはやめて」
押し問答を繰り返すがお互いに引かず、痺れを切らしたゼノが「分かった」と言いながら手を離した。
「そこまで言うんなら、直接旦那に手渡してもらおう」
とんでも発言にティナの手も止まった。
「俺から渡されるのが嫌なんでしょ?なら、本人に頼むしかないでじゃない?」
そういう事じゃないと分かった上でわざと言っている。
ゼノは睨みつけるティナを嘲笑うように、ニヤッと笑みを浮かべた。
「んじゃ、まあ、善は急げって事で…行こうか?」
「は!?え、ちょ─!!」
ゼノは素早くティナを抱き抱えると、足元に魔法陣を出現させた。こうなると、流石のティナも焦り出す。
「ちょっと!!何してんの!?離しなさいよ!!」
「ん~?聞こえないなぁ?」
「耳元で叫んでるのに聞こえない訳ないだろ!!」
必死にじたばたするが、がっしり掴まれて離れる事が出来ない。そうこうしてる内に足元が光りだした。ゼノは鼻歌混じりで余裕の表情。
「~~~~~ッ、分かったわよ!!受け取ればいいんでしょ!!」
ティナは勝ち目がない事が分かり、即座に白旗を挙げた。その瞬間、魔法陣は消え、嫌味たっらしい笑顔のゼノから解放された。
「はい。これね」
その場に項垂れているティナの目の前に、封筒が差し出された。恨めしく睨みつけるが、気にする素振りはまったくない。
嫌々受けると、封を開けた。
「…………」
中には一枚の招待状が入っていた。それは、年に一度行わられる騎士らによる公開試合の招待状。
この公開試合は身分に制限がなく、誰でも見ることができる。騎士達が剣を振るう姿なんて、滅多に見る事が出来ないので、毎年大いに盛り上がっている。
なんでも、前日から並んでいる強者もいると耳にするほど。王都で一番盛り上がる祭りと言っても過言ではない。
そんな
そんなものを持っているなど知られたら…考えるだけで恐ろしい。
「あ、因みに当日は俺が迎えに来るからね。分かってると思うけど、逃げるのは無駄だと思った方がいいよ?」
とどめの一言を言い放ち、ゼノは窓から出て行ってしまった。
そして、冒頭へ戻る訳だが……
「はぁぁぁぁぁ~……」
もはや溜息しか出なかった。