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第11話

 ゼノはティナの頬を見ると、額が割れんばかりに地面に打ち付け謝罪した。必死にユリウスを宥めてくれたおかげで、その場は何とか収まった。


「あ~あ、可哀想に。駄目だよ?お嬢さんには番犬よりもおっかないのが付いてるんだから。下手したら死神より厄介だからね?これに懲りたら、お嬢さんと旦那には近づかない事。分かった?」


 口を塞がれていたオリビアの傍に寄り、優しく声をかけながら解術するゼノ。頬の傷も綺麗に治してもらったオリビアは、熱を帯びた目でゼノを見つめていた。


「あ、ありがとうございます」

「いいえ。可愛い顔が元に戻ってよかったよ」


 ポンと頭に手を置かれた瞬間、オリビアは全身を真っ赤にさせ卒倒してしまった。完全に心を持っていかれた様子。他の令嬢もキャァキャァ言って興奮状態。


 伊達に女遊びを熟知していない。褒めれたことではないが、今回ばかりは助かった。


(今の内に…)


 全員の気が逸れている内に、この場からとんずらしようとティナは足音を立てぬように慎重に踵を返し、一歩を踏み出した。


「──ティナ」


 名を呼ばれ、チラッと振り返ると逃がさんとばかりに肩を抱かれた。


「何処に行くんです?」

「……試合はどうしたんです?」

「気になりますか?」

「別に」


 どうせ勝敗は決まっている。毎年、決勝戦は団長とユリウスの一騎打ちだと決まっている。大抵は相打ちで引き分け。ユリウスも団長相手では簡単には勝てないらしい。


「お嬢さん諦めな。逃げるだけ無駄だよ」


「よいしょ」と気を失ったオリビアを抱えると、他の令嬢達を引き連れて立ち去ってしまった。


 逃げ道を塞がれ崖っぷちに立たされた状況のティナは、覚悟を決めたように盛大な溜息を吐いた。


「分かりました。今更逃げも隠れもしませんよ」


 片手を挙げて降参だと宣言した。


「ふふっ、往生際が良い子は好きですよ?」

「……貴方に好かれる為に言ったんじゃありませんから。それと、歩きにくいんで離してくれます?」


 肩を抱いている手を叩き落した。ユリウスは怒ることなく、案内するようにティナの前を歩き、時折振り返りながら足を進めた。


 暫くして着いた場所は、城の屋上階。


「この場所は特定の者しか入れないんです。今回、に陛下の元へ直々に赴き、お願いして鍵をお借りました」


 にこやかに言っているが、この場所はそう易々と貸してもらえる場所では無い。

 この場所は、現国王が王妃にプロポーズをした思い出の場所。一時王都でも話題になっていたから、流行りの話に疎いティナでも知っている。


 いくら気を引きたいからって、国王や王妃にとって思い入れのある神聖な場所を借りるなんて…


(馬鹿なの?この人…馬鹿なの!?)


 この男に常識は通用しないのでは?と心配になってくる。


「さあ、こちらへどうぞ」


 促された先には立派なソファが…あまりにもユリウスが我が物顔で言ってくるので忘れそうになるが、ここは王様の特別な場所。このソファーだって、王妃の為に用意されたものに違いない。


「大丈夫ですよ。これは私が用意したものです」


 座ることに躊躇っているティナに声をかけた。


「あ、それなら」と迷うことなくドカッと腰を下ろすと、ユリウスから「くくくっ」と笑いが漏れていた。


 上を見上げると満天の星が輝き、手を伸ばせば届きそうだと手を伸ばした。


 その手をユリウスが優しく包んだ。


「私がここまでするは貴女だけです。貴女の為なら我が身も喜んで差し上げます」


 ティナの手にキスを落としながら、真剣な眼差しで言ってくる。


 キメ顔と言うのは、こう言う事を言うのか。……不快感極まりないな。


 ティナは「あのねぇ…」と溜息混じりにユリウスを見た。


「そんな重い感情を無理矢理押し付けられても、ただただ迷惑です。いい加減、現実を見たらどうです?」

「私は常に現実思考ですよ?貴女を手に入れる為ならば、なんだってします」


 それが無駄な時間だと言うことになぜ気付かん?


「何度も言うようですが…」と気怠げに言いかけた瞬間


 ドンッ!!


 大きな音ともに、夜空を覆い尽くすように華やかで美しい花火がティナの瞳に映った。


「わぁ……」


 目を奪われた瞬間、今までの憂いが頭からすっぱ抜けた。


「ユリウス様!!見てください!!凄いですね」


ユリウスは「綺麗…」と囁きながら、満面の笑みを向けてきたティナの方に目を奪われて離れない。初めて自分に向けられた笑顔に鼓動が早くなるのがよく分かる。


 つい数秒前まで苦虫を潰した顔で見ていたのに、今はどうだ?満天の星をバックに咲いた華よりも、眩しく美しい。


「ああ…綺麗だ…」


 ユリウスはティナを見つめたまま傍に寄った。


「そうでしょ?」と傍に寄ったユリウスを見上げながら言うと、ユリウスの瞳に自分の姿が映るのが見えた。


 ドンッ!!と大きな音を立てて休みなく上がる花火の下、抱き合いながら口づけ合う二人の影を映した。





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