カーテンの隙間から朝日が差し込み、寝ているティナを照らしている。
「眩しッ」
重たい瞼を開けようとするが朝日が眩しくて、うまく開けれない。それになんだか体が重い……何かがのしかかっているような……
きっと昨夜飲みすぎたんだろう。頭も痛いし、まだ眠たい…もう少し寝ようかな。と寝返りを打った。
すると「ん……」と小さな声が聞こえた。ティナは全身の血が抜けるような感覚に陥り「まさか、そんな」と心の中で何度も呟く。
目を開けるのが怖い。けど、確認しないことにはどうしようもない。
覚悟を決めたティナは、そっと目を開けてみた。
「…………」
視界に飛び込んできたのは、見目麗しい貴人…ユリウスが寝息を立てていた。枕だと思っていたのはユリウスの腕で、重いと思っていたのはユリウスの腕…今のティナは上半身裸のユリウスに抱かれている状態。
ティナはその現実を見て、一瞬で全身の毛穴から汗が吹き出した。そして、真っ先に確認したのは服を着ているかどうか。
布団を捲り確認すると、服はちゃんと着ている。ユリウスは上は裸だが、下はしっかり着衣している。不幸中の幸いとはこういう事。
とはいえ、このままではまずい。
(誰かに見られたら、それこそ大惨事!!)
いくら何もなかったとこちらが主張しても、男女が同じベッドで朝を迎えたと言う事実は覆されない。
(やばいやばいやばい……!!)
ユリウスを起こさないようにゆっくり慎重にベッドを出ようとした。
「どこに行くんです?」
「ひょッ!!」
突然腰を抱き着かれ、おかしな声が出た。
「黙って行くなんて寂しいじゃないですか」
「いや、あの、えっとぉ……」
しどろもどろになりながら言葉を探すが、意識してなくても視界にチラつくユリウスの姿に顔が赤面し、更に困惑するという負のループ。
「おやおや、いつもの強気はどうしました?そんなに怯えていては、悪い狼に食べられてしまいますよ?」
おもむろに手を取り、ほくそ笑みながら掌にキスをしたかと思えば、ペロッと舐められた。
「ッ!!!!」
慌てて手を振りほどき睨みつけるが、ユリウスは涼しい顔して慌てふためくティナを愉快そうに眺めている。
その顔のムカつこと言ったら…
ティナは枕を手にすると、ユリウス目掛けて叩きつけた。
「冗談言ってる暇があるなら早いとこ服を着てください。そして、早急ににこの場から立ち去れ。今すぐに」
血走った目で訴えると、ようやくベッドから体を起こし、床に落ちたシャツに手を伸ばした。
「やれやれ、もう少し一緒にいたかったんですが…」
「丁重にお断りします。そんな事より急いで!!誰か来ちゃう!!」
のんびりとボタンをしめるユリウスを急かすように、ティナもボタンを付けるのを手伝う。
「なんか……新婚みたいでいいですね」
「んなッ!?」
頬を薄く染めて嬉しそうに目を細めて言ってくる。
人の手を煩わせておいて何を言ってんだ?と、苦虫を嚙み潰したような顔になる。またそれが楽しいらしく、クラウスは上機嫌に着替えを済ませていく。
「ほら、早く、急いで!!」
ティナは躊躇なく、窓から追い出そうとユリウスの肩を押した。まさにその時
「ねぇ、お嬢さん。こっちに旦那──……」
木の枝に飛び乗ってきたゼノと目が合った。
時が止まったかのような静寂がその場を包んでいる。それと同時に、尋常じゃない汗も吹き出している。
「──ぷはッ!!驚いたッ!!驚きのあまり息するの忘れてたよ!!あぁ~、死ぬかと思った」
沈黙を破ったのは、この手の修羅場に長けているゼノ。いちいち大袈裟にリアクションしてくるのが、ウザったい。
「いやぁ、ごめんごめん。邪魔したね。まさかこんな事になってるなんて思わないじゃない?そうかそうか。今日はお祝いだね!!」
親指を立て、ウィンクしながらいい笑顔を向けてきた。
見られたのがゼノで良かったと思う一方、ニマニマといやらしい目付きをしながら揶揄って来られれば、非ッッ常に不快極まりない。
「もお、嫌だ嫌だって言いながらやる事やっちゃうんだもんなぁ。もしかして、お嬢さんってツンデレ系?いいなぁ、俺も見て見てみたいな、お嬢さんのデレ。あぁ、当然ベッドの中──ブフッ!!」
「……ペラペラと良く喋る口だこと……いい加減、黙らないとその減らず口一生開けないようにするわよ……」
ティナは禍々しいオーラを纏いながらゼノの頬を鷲掴みし、脅しと取れる言葉を吐いた。
「ちょっと待って。たんま。怖い怖い。瞳孔開ききってるって。冗談だよ、冗談」
鬼気迫る表情のティナに流石のゼノも白旗を上げた。
「ティナの言う通りですよ。お喋りが過ぎると自分の首を絞めることになります?──で?ティナの何が見たいんでしたっけ?確かベッドでどうと聞こえましたが?」
ティナが離れたと思えば、今度はユリウスがユラッと前に出てた。ゆっくりと剣を抜きゼノの首元に突きつけながら問う。その目は冗談なんて言えないほど恐ろしい。
「はいはい。俺が悪ぅございました。っていうか、この状況で勘違いしない方が可笑しいだろ?」
清々しい程の逆ギレ。
まあ、ゼノの言い分も分かる。ゼノ側だったら私も絶対に同じ反応をするに決まってる。
「ねえ、本当になにもなかったの?酒のせいにすることも出来たでしょ?」
チラッと空になったワインの瓶を眺めがら疑うように聞き返してくる。言っている事がクズでしかないが、ゼノだしな……と思えば納得できてしまう自分がいる。
「いくら恋焦がれている相手でも、自我を失っている相手に手を出すことはしませんよ」
人として当然の事を自慢気に言われても好感度は変わらんぞ?
ティナは呆れながら、ゼノと散らかっているテーブルの上を片付けようと背を向けた。
「……まあ、私のものだという
「なんか言った?」
「いいえ?」
何か言った気がして聞き返したが、ユリウスは誤魔化すように笑顔で応えた。