抱きしめられたティナは、一瞬息が止まった。
いくら毛布越しだとは言え、お互いに素肌を晒している状態。心臓の音がダイレクトに伝わってしまう。
「…確認だが…お前はユリウスとの婚約を解消したいんだよな?」
耳元で喋られると、息がかかってくすぐったい。
「と、当然よ」
「そうか…」
今更なに?と思いながら振り返りながら応えた。
「なあ、それはそうと俺も寒いんだが」
「あ、ごめん!!」
毛布は一枚しかないと言っていた。その毛布を独り占めしてしてしまっている事に気が付き、慌てて毛布に手を掛けた。
(ちょっと待て)
はたと気付き手を止めた。
この毛布を渡してしまったら、自分のあられもない姿がギルベルトに見られてしまう。けど、自分だけ毛布にくるまっている訳にもいかない……
ティナは顔を青くしたり赤くしたりと忙しい。ギルベルトは「プッ」と堪らず吹き出した。
恥しさと申し訳なさで一杯だが、どうすることも出来ない。そんなティナを見て、ギルベルトは毛布に手を掛けた。そして、躊躇なく毛布を剥いだ。
「きゃぁ!!」
身体を隠すように小さく蹲った。
だが、すぐにフワッと暖かい腕に包まれた。ゆっくり顔を上げると、毛布を被ったギルベルトにティナが包まれている形になっていた。
「ほら、これならいいだろう?」
随分と得意気に言ってくれる。これならいいだと?これだとお互いの肌が直に当たって恥ずかしさ倍増なんだよ……!!
耳まで真っ赤にしているティナを見て、ギルベルトは満足そうに微笑んでいる。
「ヒャッ!!」
無防備なティナの背中を見ていたら、少し悪戯をしてやりたくなったギルベルト。ツーと首筋を指でなぞって見れば驚いたように顔を振り向かせた。
「何してんのよ!!」
睨みつけられるが、それすらも可愛いと思えてくる。
「なんだ?首筋は弱いのか?」
「ちょ、ん──……」
面白がって首筋や背中に唇を這わせる。ユリウスの付けた
「も……やめて……」
──ゾクッ
目に涙を溜めて訴えてくるティナを見た瞬間、何かが外れた気がした。
「……ティナ。すまん。……嫌なら俺を殴って逃げろ」
「は?」
返事を返す間もなく、その場に押し倒され唇を塞がれた。茫然とする間もなく、唇を押し開けて舌が滑り込んできた。
「ん……んんん~!!」
驚きのあまり、我に返ったティナが必死に抵抗を見せる。殴って逃げろと言っていた癖に、手を拘束しているので殴る事も出来ない。
(言ってることとやってることが違う!!)
唇が離れた頃には息を荒くして、蕩けるような表情で見下ろすギルベルトがいた。
初めて見る余裕のない表情に目が離せない。
「ティナ。好きだ」
この状況で言うのは狡い。こんなの、まともに考えられない。
ティナの腹の上に置いてあった手が、肌を滑らせて登ってくる感触に「ん…」と小さな声が漏れる。その度に、ギルベルトが嬉しそうに頬を緩める。
(このままじゃ…)
そう思った時、拘束していた手が緩んだ。この機会を逃せば、後は無い。ティナはグッと手に力を込めた。
「お嬢さん、みーっけたって……あれ?」
飛び込んできたゼノが見たものは、半裸で覆い被さるギルベルト。そのギルベルトを同じく半裸の状態で殴ろうと手を振りかざしているティナ。
「……デジャブ……?」
ゼノは苦笑いを浮かべて首を傾げた。
❊❊❊
「ええ~…それじゃなに?
「「………」」
ゼノの問いかけに、二人揃って気まずそうに目を逸らした。
半裸では碌に話ができないと、ゼノが濡れた服を乾かしてくれた。落ち着きを取り戻した所で、これまでの経緯を話して聞かせた。
「う~ん。まあ、深く追求するつもりは無いけど、その言い訳が通用するのは俺だけだと思った方がいいよ?」
それは重々承知。誰がどう見たって雨宿りな状況じゃなかった。
こういう時、ゼノの対応は本当に神だと思う。
単に面倒臭いだけか、巻き込まれたくないってだけかもしれないが…
「本当、ここに来たのが旦那じゃなくてよかったよ。あの人がキレたら俺でも止めれないからね」
しみじみと言うゼノだが、その言葉がやけに重い。これ以上なにか言われる前に話を変えた方がいい。
「…で?何か私に用があって探してたんじゃないの?」
「あぁ、そうそう」
思い出したようにティナに向き合い、一言伝えた。
「あの女が消えた」