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第35話

 まず最初に聞いたのは、本来ゼノは敵陣側の応援部隊だったという事。


「は!?そうなの!?」

「実はね」


 驚くティナを横目に、照れた素振りを見せるゼノ。どこに照れる要素があったのか…


 今や英雄と呼ばれている人物が、本当は敵だったと…?今まで私達のこと騙してたってこと?


「ゲス!!」

「うわぁ、辛辣~」


 ギルベルトの傍に寄りながら、ゴミを見るような目で睨みつけながら言い捨てた。


 最初から胡散臭いと思っていたが、最近は少し見直す部分もあった。それも今や地に落ちた。


「まあ、最後まで聞いてやれ」


 ギルベルトに言われて、仕方なく最後まで聞くことに。


 ゼノは戦地に足を踏み入れた瞬間、ユリウスに捕縛されたと聞いた。あまりにも呆気ない。

 ティナが「ダサ」と呟くと「これも策の内だったんですぅ」と苦し紛れの言い訳なのか、それとも本当の事なのか…この男の腹の中が読めない。


「まあ、その後のことは長くなるから端折るけど、最終的に旦那からある提案をされて、それを俺が飲んだってだけ」

「……その提案って、もしかして……?」

「もしかしなくてもそうだね」


 ユリウスがゼノに提案したのは、この大戦を自分が終わらせら、自分の代わりに英雄を名乗ってくれと言う何とも馬鹿げた内容。


「何でそんなこと…?地位も名誉も手に入るじゃない」


 その証拠にゼノは英雄として讃えられ、褒賞も貰っている。今やその名を使って女を引っ掛けているぐらいだ。


「分かってないなぁ。英雄なんて肩書きが付いたら、今よりも縁談が来るだろ?それこそ、断りきれないものだってくる。旦那はみんなの英雄じゃなくて、お嬢さん一人だけの英雄になりたかったんだよ」

「は?」


 ……どういう事?


「前に言っただろ?目立ちたくない奴もいるって」


 確かに聞いた。


「俺は別に目立っても良かったし、英雄って肩書きで動ける範囲が増えるって点でもメリットの方が大きいからね」


 何となく腑に落ちなくて、怪訝な表情で見ていた。


「他にも理由は色々あるけど、それは旦那に聞いてよ。……ねぇ?旦那」


 目を細めてほくそ笑む視線の先には、腕を組みながら恨めしそうに睨みつけるユリウスだった。


 えっ?なんで?率直に思った。


「ゼノがいくら待っても帰ってこないので、何かあったのかと思って来てみれば…こんな所で無駄話をしていたとは…」


 小さく息を吐くと、気恥しそうにしているユリウスを宥める様にゼノが続けた。


「ごめんごめん。けどさ、いつまでも黙っていられないでしょ?向こうさんがどう動くのかも分からないし」

「まったく、貴方と言う人は……」


 呆れながらも、叱ることはしない。


「ユリウス」


 ギルベルトが声をかけた。


「アンティカ嬢とやらを攫っている時点で、お前狙いだと言うことは容易に想像出来る。このままだと婚約者であるティナにまで危険が及ぶぞ」


 諌めるように厳しい目を向ける。


「何が言いたいんです?」


 ユリウスは噛み付くようにギルベルトを睨みつけた。


「俺が言わなくても分かってるだろ?」


 ティナに目が行く前に婚約を破棄しろと言っているのだ。そんな事、ユリウスとて重々承知している。だが、出てきた言葉は


「……婚約は解消しません」


 小さな子が駄々を捏ねるように、顔を伏せて視線を落としながら呟いた。


 ギルベルトは「お前な…」と溜息を吐きつつ、苛立ったように頭を搔いた。


「ティナの事も考えろ!!今のお前は自分の事しか考えていない!!危険な目に合うのはティナなんだぞ!!」


 ユリウスの胸倉を掴みながら怒鳴りつけるが、ユリウスは怯まない。


「分かってます。私がいる限りそんな事はさせません。絶対に」


 ギルベルトの目を真っ直ぐ見つめ、迷うことなく言い切った。二人は黙って睨み合い、今にも一発触発の雰囲気が漂っている。


「はいはい、そこまで」


 堪らずティナが間に入って止めた。


 ギルベルトはこうだと決めたら押し切る節がある。そんな状態でユリウスと話しなんてしたら一方通行のまま。共倒れの状況しか思い浮かばない。


「ティナ。お前、事の重大さを分かってるのか?」

「分かってるから止めたのよ。今のままじゃろくに話なんて出来ないでしょうが」


 長年一緒にいたティナに言われれば、ギルベルトも黙るしかない。


「私の事は元より、消えたアンティカ様の安否の確認の方が先でしょ?いくら罪人とはいえ、彼女も一人の人間よ?」


 最もな事を言われ、ユリウスも気まずそうに目を伏せたが、ティナがパンッ!!と大きく手を打ち顔をあげさせた。


「はい!!という事で、こんな所に長居は無用!!まずは自分のやるべき事を第一に!!」


「解散!!」と堂々と宣言した。


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