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046話 ネフェル(?)の学生時代(02)

 バルバトス、アガリプレスト、リリスは執拗にネフェルに絡んだ。

 ネフェルはなんとか逃れようと抵抗したが、その姿がより三人の加虐心かぎゃくしんを煽り、行為を陰湿化させていった。

 ネフェルはどうしてよいかわからず困惑し、パニック寸前になったが、その時───


「やあ、バルバトス。おはよう。こんなところで何をしているんだい?」


 そうバルバトスに挨拶をしたのは金髪の優しそうな顔立ちをした糸目の学生だった。


「げっ……。ルーシファス」


 あからさまに顔をしかめたのはアガリプレストだった。


「やあ、アガリプレストも。おはよう。バルバトスと君が一緒という事はこちらの美しい御令嬢は───」


「おはようございます。ルーシファス様。プルフラス侯爵家の長女リリスでございます」


 リリスはスカートの端を少し摘まんで優美なカテーシーで挨拶をした。これにはルーシファスもボウ・アンド・スクレープで挨拶を返した。


「やはりリリス嬢でしたね。ご丁寧な挨拶をありがとうございます。でもどうかそんなにかしこまらないでください。僕たちは家同士が決めた事とはいえ、一度は婚約の儀が話し合われた仲ではありませんか」


 そう言ってルーシファスはリリスの手を取ると甲に口を寄せた。

 男性が女性に対する敬意をあらわす挨拶だったが、リリスは喜ぶどころか苦々しい表情になった。

 そしてそんなリリスより、さらに不快感をあらわにしたのは兄のアガリプレストだった。


「やめろよ、ルーシファス。今更そんなことをして妹を辱めるな。こちらが申し出た婚約の話をアスタロッド家は一蹴したじゃないか」


 厳しい剣幕のアガリプレストに対して、あくまでルーシファスは涼やかに対応した。


「まってくれよ、アガリプレスト。その話を断ったのは僕じゃないさ。あくまで家同士の話でまとまらなかっただけだよ。

 我がアスタロッド家は公爵だけど、公爵家の中での序列は高くない。対してプルフラス家は侯爵家の中で序列は高く、財力も公爵家を凌ぐほど。客観的に見ても良い縁談だと僕も思ったんだけどね」


 これ以上は辛抱できないといった様子でリリスはルーシファスの手を振りほどくとバルバトスの腕に抱きついた。


「お心遣いありがとうございます、ルーシファス様。でもどうかもうお気になさらないでください。私どもは今はバルバトス様と婚約の話を進めております。バルバトス様は夜会には私をエスコートしてくださるとお約束してくださいました。話は順調に進んでおります」


 そういってリリスは必要以上にバルバトスの腕に抱きついた。


「へぇ。そうなんだ。バルバトス、さすがだね。序列最高位の公爵家は先見の明がおありだ」


 言葉は最上の誉め言葉だったが、バルバトスは自分が見下されているように感じてならなかった。


「黙れ、ルーシファス。リリス譲と俺の婚約は兼ねてより決まっていた周知の事実だ。それを突然搔き乱すように横やりを入れてきたのはお前たちアスタロッド家じゃないか。プルフラス家がアスタロッド家に婚約の儀を申し入れただと? ふざけるな! 申し入れをさせるようアスタロッド家が圧力をかけたんじゃないか! しかもそうまでしておきながら話を一蹴するとは無礼にも程がある!」


 バルバトスにも厳しい剣幕を向けられたルーシファスは苦笑いをするしかなかった。


「まあ、そうだね、バルバトス。その件については本当に申し訳ない。でもリリス譲がこれ程までにお美しいと、無駄だと分かっていても僅かな可能性に賭けてこちらも縁談の可能性がないか探りたくなるというものさ」


 その言葉はリリスと、リリスの兄アガリプレストには嫌味以外の何ものにも聞こえなかった。


「ところで───……」


 ルーシファスは身体を傾けてバルバトスが腕を掴んで後ろに隠している新入生を覗き見て訪ねた。


「その一年生は誰なんですか?」



***


心優「ルーシファスさんは学生時代からまったくお変りありませんね。一目でわかりました」


ネフ「そうじゃな。容貌でいえば今と変わりないな」


心優「ただ丁寧な物腰が少し鼻についてしまいますね……」


ネフ「本人に悪気はないのじゃが、やはり慇懃無礼いんぎんぶれいに感じる者は少なくないじゃろうな。無自覚に敵を作ってしまうタイプじゃ。だがそれでも周囲から───特に女生徒からは慕われておったぞ」


心優「それにしても良い所に来てくださいました。この後、お母様を助けて下さったんですよね?」


ネフ「まあ、無関係ではないが直接的ではないとも言える」


心優「そうなんですか? わかりました。ではお母様、お話の続きをお願い致します」


 私はこの後の展開がどうなるのかとても楽しみになりました。

 ワクワクしながらお母様が続きをお話くださるのを、絵本を呼んでもらう子供のように待ちわびました。

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