ネフェルは鞄を抱え、また目的地に向かって走っていた。
バルバトスに掴まれた腕はズキズキと痛み、酷い
なんとか正門の前にたどり着いたネフェルだったが、そこには「新入生初登校一番乗り」を狙う生徒で混雑していた。
そんな人混みの中で、ネフェルは必死に相手の姿を探した。
すると正門近くの時計台の下に、その人物がいるのをネフェルは見つけた。
入学初日という不慣れな学園で、心細く思っていたネフェルは、見知った相手をみつけたことで迷子の子供が親と再会したような安堵感に包まれた。
その為、ほぼ反射的に相手に駆け寄り呼びかけた。
「
息を切らせて駆け寄ったネフェルだったが、次の瞬間───
ネフェルはカーコスから容赦のない平手打ちを頬に受け、文字通り打ち倒されてしまった。
***
心優「ええっ!? お、お母様が
私はお母様が平手打ちをされたことに驚き、思わず立ち上がってしまいました。
心優「お母様っ! これは一体……!?」
ネフ「…………」
お母様は静かに目を閉じ、冷静なご様子でしたが、しかし私は、お母様の手が固く結ばれ、ドレスの裾を強く握り締めていることに気が付きました。
私は、ここで自分が取り乱してはいけないと察しました。
今、最も辛いお気持ちなのはお母様です。そのお母様がじっと耐えているのに、私が取り乱すわけにはいきません。その為、私は静かに腰を下ろしました。
このお話はお母様にとって、とても辛い過去の出来事でした。
私はお母様の手を包み込むように自分の手を重ね、お母様に感謝の意を伝えました。
心優「お母様、お話くださってありがとうございます。そしてカーコスとは……お母様のお兄さんだったんですね」
私がそういうとお母様は「そうじゃ」としっかりと頷かれました。
謎が一つ解けましたが、しかし私は同時に様々な疑問が浮かびました。
確かカーコスとは魔王と相対する勇者であったはず。なぜお母様のお兄さんが勇者に?
そしてそれより何より実の兄が妹を平手打ちするなんてどうしてそんな酷いことをするのか?
そのことを知りたくて、早くお話の続きを聞かせてもらいたいと思いましたが、今は過去の辛い出来事に対処をされているお母様に寄り添うべきだと察し、私は懸命にお母様の手を握り続けました。