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050話 ネフェル(?)の学生時代(06)

 カーコスの腕を掴んだのは姿だった。


 ドレス姿だったので一瞬、女性かと思ったが、その人物はだった。


 男性のドレスは胸元がとても開放的で、逞しい胸板があらわになっていた。スカートのスリッドも大きく、筋肉質だがしなやかなが露わになっていた。


 とてもだった。


 ドレス姿は女装とかそういう趣向で着用しているのではなかった。

 この美しい男性は、自分の魅力を十分理解して自分に最も似合う、最上の衣装を身につけているのだとネフェルは瞬時に悟った。


 ネフェルはその男性の美しさに目を奪われてしまった。


 ドレス姿の男性は、自ら光を放っているかのように輝き、その動きは細部までがまるで時間の流れが違うかのようにゆっくりと移ろい、その一瞬一瞬がネフェルの瞳に鮮明に刻まれた。


 その美しい男性は想像通りの美声でカーコスに問い質した。


「なんじゃ、カーコス。朝っぱらから何をしておる」


 カーコスも自分の腕を掴んだ相手が誰かわかったようだった。そして親の仇でも見るかのように相手を睨んだ。


「誰かと思えば貴様か。手を離せ。お前には関係ない。これは家族の問題だ」


 カーコスとこの美しい男性は知り合いのようだった。


「家族じゃと? この者はまさかおぬしの妹か?」


「そうだ。俺の妹だ。だからお前は口出しをするな。妹に何をしようと兄の勝手だ」


 カーコスは腕を振り払おうと力を込めたが、カーコスの腕を掴む美しい男性の腕は微動だにしなかった。


「馬鹿を申せ。この者がお前の妹であるならなおさらこの手は離せぬ。兄ならば、一番に妹を守ってやらねばならぬ存在だ。その兄が妹を殴るなどもってのほかじゃ。

 そしてそのような愚行が眼前で行われる事を、このスレキアイ・バアル・アスタロッドは絶対に看過せぬぞ」



***


心優「ぅあぅ〜、あぅあぅあぁぁぁ~ん……」


 私は号泣していました。


ネフ「なんという声をあげて泣くんじゃ。それにおぬしがそんなに泣きじゃくってどうする」


心優「だっで……だっでおがあさまががわいそうで~……あぅあぅあぁぁ~ん」


 大口を開けてわんわん泣きじゃくる私をお母様は懸命になだめて下さいました。


ネフ「まったく。この話をして泣きたいのはわらわじゃというのに。ほれ。鼻をかめ。涙と鼻水で顔がグシャグシャじゃぞ。妾の顔をそんなに汚すな」


 お母様にそう促されて私はハンカチを取り出すと盛大に鼻をかんで涙をぬぐいました。

 もっとも今の私の身体はお母様の身体なので、傍目には泣きじゃくったお母様が盛大に鼻を噛んでいるように見えるでしょうが。


ネフ「どうじゃ? 少しは落ち着いたか?」


心優「ビッグ……。はい”……お”ぢづぎま”じだ……。お見苦じい所をお見せじてしづれいしまじだ」


 私はお水を一口飲んで、さらに自分を落ち着かせました。


心優「お母様、すみません。私が教えて欲しいと申したばかりに、こんな辛いことをお話しいただきまして」


ネフ「よい。もとよりこれはわらわの方こそ最初におぬしに言っておくべきだったことじゃ」


心優「そう思っておられてもやはり話すのは気が引けたのですね」


ネフ「そうじゃな。だがこれ程の辛い話じゃ、わらわが躊躇ったとしても責めることはできまい?」


 そう言われて私はもちろんですと大いに頷きました。


心優「そしてスレキアイさんは、確かマルフィスさんの……」


ネフ「そうじゃ。先代魔王にしてマルフィスの父、そしてわらわの夫じゃ」


 それを伺うと私の口角はグググッと引き上がりました。


心優「ほっほ~ぅ。この方がお母様の旦那様なのですね。へぇ~、ほぉ~、これはこれは……」


ネフ「なんじゃ。ニヤニヤとだらしなく笑いおって」


心優「いやだってとてもハンサムで綺麗でカッコ良くて。お母様もしっかり目を奪われてしまってましたね」


ネフ「よさんか。気恥ずかしい。窮地を救ってくれた事を有難いと思っていただだけじゃ」


心優「えぇ~? そうですかぁ~? でもこの方とご結婚されてますよねぇ~?」


 私はからかい半分で意地悪くお母様に詰め寄りました。


ネフ「まったく。こういう話には貪欲に喰いつきおって。まあ、確かにこのあとスレキアイにをされてな。ヤツに嫁入りするしかなくなってしまったのじゃ」


心優「……ですか?」


ネフ「そうじゃ」


心優「───……」


ネフ「こら。破廉恥な行為を想像するな。そのような淫らな行為ではない。つまりはアレじゃ。魔界的なお作法で、それをされるともうその相手に嫁入りするしかないというそういう行為じゃ」


 魔界的なお作法で相手に嫁入りするしかないという行為───


 それがなんであるか私はとても興味を覚えました。

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