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052話 ネフェル(?)の学生時代(08)

「え? 保健室ですか?」


「そうじゃ。これは一刻を争う。命にかかわるかもしれんぞ」


 そういうとスレキアイは軽々とネフェルを抱き上げ、そして肩に回すようにネフェルを担いだ。


 いわゆる「俵担ぎ」―――またの名を「お米様抱っこ」だった。


「───っ、あ、あのっ! スレキアイ様っ! !」


 ネフェルは驚いて声を上げたが「しゃべるな。舌を噛むぞ」とスレキアイに制された。


 ネフェルを担いだスレキアイは全速力で走り出した。


 長いドレスは足元に絡み、踵の高い優美な靴はいかにも走り難そうだったが、スレキアイは驚くべき速さでネフェルを担いで駆け抜けた。


 人混みを縫うように走り抜けるスレキアイとネフェルを多くの学生が何事かと振り返った。

 自分が注目される事に慣れていなかったネフェルは、ただただスレキアイにしがみつき、顔を赤らめるしかできなかった。


 すぐに保健室に到着したスレキアイは、ネフェルを保健室のベットに放り込むように寝かせると、薬品棚をあさり始めた。


「なんと。いかんな。回復薬ヒールポーションがないではないか。おのれ保健医め。ちゃんと薬の管理をしてておらんな」


 スレキアイはイライラして悪態をついた。


「止むを得ん。今ここで回復薬ヒールポーションを調合するぞ。すまんがしばらくそこで待っておれ」


 スレキアイはベットの上のネフェルに向かってそう告げると、慣れた手つきで薬草の葉を摘み、二本のナイフをリズミカルに振り降ろし、瞬く間に葉をみじん切りにした。

 次にそれをすり鉢に入れると呪文を詠唱しながら丁寧に摺り下ろし始めた。


「幸い上位スライムの体液スライムローションが残っておった。通常のスライムの体液スライムジェルより、より薬草の効果を高めてくれたはずじゃ」


 そういって出来上がった回復薬ヒールポーションを小瓶に入れると、ネフェルに差し出してくれた。

 ネフェルは小瓶を受け取って飲もうと手を出したが、それはスレキアイに押し留められた。


「だめじゃ。腕を動かすでない。わしが飲ませてやるのでおぬしはじっとしておれ」


「───えっ? い、いえ、それは、あの……。スレキアイ様、そのような事をされては……」


 恐縮したネフェルは薬を飲むくらい大丈夫ですと断ろうとしたが、スレキアイに「ほれ。口をあけい。焦らず少しずつ、ゆっくり飲むのじゃぞ」と言われ、命じられるまま薬を口に注がれてしまった。



***


心優「お薬を飲ませてもらうお母様が可愛いですね~。うっとりです。そしてスレキアイ様は素敵ですね」


 私はお二人のやり取りを聞いてキャッキャッしていました。


ネフ「よさんか。まあ、わらわも男性に薬を飲まされるなど初めての経験でな。正直、ときめかなかったわけではない」


 意外にもお母様が素直に認められたので、私はさらにお母様を囃し立てた。


心優「ということはこれですね。お母様が仰ってた「それをされるともうその相手に嫁入りするしかない」という行為とは、こうして薬を飲まされることですね?」


 私は、正解を言い当てた確信がありましたが、残念ながらお母様の答えは違いました。


ネフ「残念じゃが、そうではない」


心優「え? あ、そうなんですね。では……あっ。わかりました。ベッドに放り込まれるように寝かされることでしょうか? なんとなく、それっぽいですし……」


 最後の一言は少し恥ずかしくて小声になってしまいましたが、これも違うとのことでした。


心優「それではこの後、そういった行為をされるということですか?」


ネフ「いや、それも違う。ここまでですでにその行為をされてしまっておる」


 お母様がそうおっしゃったので、私はお話をもう一度思い返してみましたが、そうしているとお母様が話を続けるぞと私をせっつきました。


ネフ「続きを聞けば、どの行為がそれにあたるのかわかるはずじゃ」


 お母様がそうおっしゃるので、私はお話を聞く体制に戻りました。

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