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053話 ネフェル(?)の学生時代(09)

「どうじゃ」


 そう言ってスレキアイが間近で自分をじっと見つめるので、ネフェルは動悸が早まってしまった。

 こんなにも間近で男性にじっと見つめられたのは初めてだった。


「あ、あの、効果があるようです。腕の腫れが少しマシになりました」


 そう言ってネフェルは腕を見せたが、先ほどよりはマシになっていたが、それでも通常の3倍位の太さに腫れあがったままだった。


「まだまだ回復薬ヒールポーションが必要そうじゃな。待っておれ。あと2~3本、回復薬ヒールポーションを調合するゆえ」


 そう言ってスレキアイは薬草の束を取り出したが、葉を刻もうとするスレキアイの手に自分の手を添えて、ネフェルはスレキアイに待ってもらうように頼んだ。


「お待ちください、スレキアイ様。薬草の効果を高めるのであれば、葉を刻んではいけません。草花の葉は金物を嫌います」


 そう云われてスレキアイは怪訝な顔をした。


「そうなのか? しかし、ナイフで刻まねば葉を摺り下ろすことができぬではないか」


 ネフェルはスレキアイの言葉はごもっともですと肯定した上で「ですのでこうするのです。こうして葉を一枚一枚、手でちぎって細かくしてやるのです」と実演して見せた。


 スレキアイは目から鱗と言った様子でネフェルが葉をちぎるのを見つめた。

 その手つきはとても慣れた様子で洗練されていた。


「こうしてちぎってやればすり鉢で摺り下ろすことができます。もちろんナイフで刻む程には細かくなっておりませんので、摺り下ろす時間はかかりますが、薬草の効果をより多く引き出すことができます」


 ネフェルは数回に分けてスライムの体液スライムジェルを薬草に垂らし、ゆっくりと押し込むように摺り下ろした。

 そして出来上がった回復薬ヒールポーションをスレキアイにみせた。


「ほう。なるほど。確かにな」


 ネフェルの作った回復薬を見たスレキアイは納得した。

 自分が作った回復薬と明らかに見た目からして違っていたのだ。

 より色が濃く、それでいて透明感があり、光に透かすと宝石のような結晶が光を反射してキラキラと輝いていた。


 ネフェルが自分で作った回復薬ヒールポーションを飲むと、先ほどより腕の腫れが治まった。

 効果も覿面てきめんだった。


「なるほどな。素晴らしい。そなたは薬の調合に長けておるのじゃな」


「はい。私の領地は田舎で、薬草となる草花が豊富です。私はそうした草花を摘み集めるのが大好きで、よく馬車ほども摘んできては薬を調合しておりました」


 ネフェルは自慢気に語った。


 スレキアイは「馬車ほど」という言葉に一瞬、違和感を覚えたが、それよりネフェルの調合の技術に舌を撒いた。


「そなたには教えられたぞ。じゃが、腕を治すにはもう少し回復薬ヒールポーションが必要そうじゃな。次はそなたの言うようにわしが作ってみよう」


 そういってスレキアイは薬草の葉を手でちぎり始めた。


「あっ。お待ちください、スレキアイ様。手でちぎればなんでもよいというものではありません。こうして葉の葉脈を断たないようにちぎるのです」


 そう指摘されたスレキアイだが、俄かには上手くいかず、悪戦苦闘した。


「葉脈を断たぬようにというが、葉脈など見えぬではないか」


「ここです。ほら、このように葉の伸びる先に向かって葉脈は走っております。ですので、その流れに逆らわぬように葉をちぎってやるのです」


 ネフェルはスレキアイの手を取り、一緒に薬草の葉をちぎってみせた。


「なるほど。確かにまるでほどける様に葉がちぎれるな」


 スレキアイは感嘆した。

 そのように感嘆されてネフェルは嬉しくなった。


「でしょう? ここなんかは葉脈が複雑ですが、このような場合はここから縦にねじるのです。するとほら、このように───」


 そこまで言ってネフェルはスレキアイの手を握り、一枚の葉を一緒にちぎっている自分に気付いた。

 はっ気付いて顔を上げたネフェルの目の前に、スレキアイの顔があった。

 スレキアイはじっとネフェルを見つめていたが、ふっと笑うと目じりを下げて柔和な笑顔をネフェルに見せてくれた。


「そなたは本当に薬の調合が好きなようじゃな」


 ネフェルは身動き一つできなくなってしまい、手を離す事も出来ず、ただただ顔を紅潮させた。



***


心優「はぁぁあぁ~……。なんですかお母様。もう尊すぎます。少女マンガの世界じゃないですか」


 あまりの尊さに私が身をくねらせると、お母様も平静を装おうとしていましたが、お口がムズムズとにやけてしまっているようでした。


心優「あっ! お母様っ! さては自慢したかったんですねっ!? 自分の尊い恋バナを話したかったんでしょう!?」


ネフ「良いではないか。辛い話をするのじゃ。これくらいのご褒美は許してもらわねばな」


 私は「もう、やめて下さい。こっちがあてられちゃいます」と口を尖らせたが、その実、内心では「いいですよお母様。もっとやってください」と思っていました。

 美しい恋バナは大好物です。


心優「それで「それをされるともうその相手に嫁入りするしかない」という行為は手を握って見つめ合うということだったんでしょうか?」


 そういえば、と思い私はお母様に尋ねてみました。


ネフ「おお。そうであったな。そのタネ明かしがまだであったな。すまんすまん。その事について話そう」


心優「お母様ったら私との約束を忘れて……。そうまでしてこのことをお話したかったのですね」


 私は意地悪くお母様を責めてみました。

 お母様は笑いながら「すまんすまん」と繰り返し、お話の続きを聞かせてくれました。

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