「ユキメがカーコスの初恋の女性じゃと? それは初耳じゃ」
スレキアイは目を丸くした。
「はい。私とカーコス君、そしてネフェルちゃんの三人は、幼い頃から兄弟姉妹のように一緒に過ごしていました。カーコス君はいたずらっ子で、虫が苦手な私に、よくバッタを投げてイタズラをするような男の子でした。
ですがいつの頃からか、カーコス君は私を異性として意識するようになり、私にバッタを投げる代わりに花やアクセサリーを贈るようになったのです」
「私がユキメお姉さんの好みを探って、事前に兄に情報を流してたんですよ」
すかさず言葉を添えたネフェルはニヤリと笑ってドヤ顔をした。
「私もそんなカーコス君の気持ちが嬉しくて、だからホーン家の皆さん───つまりカーコス君とネフェルちゃんのお父様とお母様が、我がシュテン家に婚姻のお話を持ち掛けてくださったのは本当に嬉しかったです」
そうなのか、婚姻の申し出がされるまで話が進んでいたのか、とスレキアイはうんうんと頷いた。
「……ですが、私の父と母がその申し出を断りました」
「なんじゃとっ? ユキメとカーコスは好き合っておったのじゃろう? なぜ本人たちの気持ちが無下に扱われたのじゃ?」
「それは私の父と母のプライドです。落ちぶれたとはいえ我がシュテン家は王都中央の男爵家。伯爵とはいえ辺境伯のホーン家に大切な一人娘は嫁に出せんと言い出しまして……」
ユキメはそういいつつ、ネフェルにごめんねと謝罪した。
そこからの話の続きはネフェルが受け継いだ。
「それからです。兄が辺境伯という肩書を恥と思い、王都中央の貴族家に強い執着を示すようになったのは。
兄は野心的になり、魔界学園に入学して貴族の令息令嬢を見返してやろうと躍起になりました。
兄は勉学、運動、それに武術でも魔術でも他の令息令嬢に負けぬよう努力をしていると思います。でもその努力の源泉は辺境伯の息子という肩書の為、男爵家のユキメお姉さんを妻に娶れなかった事への逆恨みなんです」
「そうであったのか……」
スレキアイは腕組をして感慨深げに深く頷いた。