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第5話 緋色の少女

色香いろかにあてられて、俺は思わず唾を飲み込む。

少女のあられもない姿に、俺はただ見惚れることしかできなかった。


だが、これはいったいどういうことだ?


なんで彼女は下着姿なんだ?

さっきまでは、こんな扇情的せんじょうてきな格好ではなかったはずだ。


これじゃ“みこ”と面会するというより、まるで──



「おい、これは一体どういうことだ? なぜ彼女が下着姿で布団の上に横になっている?」



混乱している俺に、部下の男がそっと耳打ちする。


「城主様のご命令の通り、ご準備させていただきました」


「俺の命令通り!?」


「はい、『俺の女だ。俺以外の誰にも渡すなよ』と城主様がわざわざ担いでこられたので、さっそく夜伽よとぎの準備をさせていただきました」


「よ、夜伽って……」



俺、そんな意味で言ったわけじゃないぞ!


部下の気遣いが、逆に気まずい。

“みこ”を教団の手の者に渡さないように念入りに忠告したつもりが、まさかこんなことになってしまうなんて。


自分がこの国の国主一族の貴族であり、そして一つの城の城主であることを失念していた。


いまになって思う。

主が女を運んで「俺の女」だと宣言すれば、そう勘違いするのも仕方なのない話だ。



事実、俺の後ろに控えている家老の伝助が、「若が奇行きこうだけでなく、ここまで堕落だらくしてしまわれたか……」と、なげいていた。



とはいえ、まさかこのまま目の前の少女を抱くわけにもいかない。

いったいどうすればいいんだと思ったところで、少女が俺を見ながら俺を嘲笑いを始めた。



「アッハッハ、誰かと思ったらさっきの若殿様わかとのさまじゃないですか……!」



“みこ”の少女は手足を縛られたまま、必死に体を起こそうとする。

冷たそうなその声には、俺に対する侮蔑ぶべつの声色が含まれていた。



「最初は、あなたのことを尊敬していたの。あたしを救って連れ去ってくれたときは、絵巻物に出てくるどこかの貴公子だって思っていたのに……」



彼女は自らの胸を強く抱きしめた。

まるで自分の体を守るように、俺に憎悪の感情を向けてくる。



「でも結局、あなたも他の貴族や僧侶と変わらないんじゃない。欲望のままにあたしたちの尊厳と自由を奪い取ろうとする、ただのろくでなし!」



少女の声音には、落胆の色が混ざっていた。


白馬の王子様だと思っていた俺が、実はただの女好きだった。

そう彼女が勘違いしていることを悟ってしまう。



「いや、違う。これは誤解だ!」


「誤解なんてないわ。“みこ”の力に目覚めたうえに父さまに裏切られて、もうあたしには生きる意味なんてない。だから、あたしのことを慰めものにするなり、好きにすればいいじゃない!」



強がっている彼女の頬に、一滴の涙が流れる。

処刑場で見た、すべてに絶望したような表情だった。



「でも、できればこのまま楽に死なせて欲しい……もしダメでも、あたしを抱いたら、ひと思いに殺して……」



虚ろな目で言い放つ少女は、言葉とは裏腹に体が震えていた。

そんな彼女に対し、俺は真剣な眼差しを向ける。



「本当に生きたいと思わないのか?」


「……ええ」


「そうか……なら、お望みとおり好きにさせてもらうぞ」



少女が強く頷くと、俺は表情を一変させた。


にやりと笑みを浮かべながら、俺は突然少女に手を伸ばす。

その瞬間、彼女の目に恐怖の感情が浮かぶのがわかった。


少女は必死に体を捻って抵抗しようとするが、手足が拘束されているため逃げられない。

暴れる彼女の下着が崩れ、隠されていた肌が独りでに露わとなった。



そんな彼女に対し、俺は丁寧に上着を着せる。

同時に手足を拘束していた縄を解いてやった。



俺の行動が予想外だったのだろう。

少女が「えっ?」っと、驚きの声を上げる。



「抵抗する意志があるなら、心はまだ死んでいない。二度と『死にたい』なんて軽々しく口にするな」



俺の発言に、少女は言葉を失ったように黙り込んだ。


日本からこの異世界に転生した今だから、ハッキリと言える。

命は粗末にするものじゃない。


まだ生きるチャンスがあるなら、諦めるなんてもってのほかだ。



「あたしを助けたのは、体が目当てじゃないの……?」


「俺がお前を助けたのには、別の理由がある。断じて襲うつもりだったわけじゃない」



しっかりと誤解を解いておかないと。

そう思っていたのに、先ほどの部下が言わぬことを口にする。



「城主様、さすがでございます! 無理矢理手籠てごめにするのではなく、側に置いて囲うつもりだったのですね!」


俺は変なことを口にする部下を、即座に小屋の外へと蹴り飛ばした。

そのついでに、伝助も追い出しておくことも忘れない。


どうしよう。

せっかく格好よく決めたところだったのに、また誤解されてしまいそうだ。

こうなってしまった以上、あえて腹を割って話すのがいいかもしれない。



「コホン。なあ、俺と取引をしないか?」


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