少女のあられもない姿に、俺はただ見惚れることしかできなかった。
だが、これはいったいどういうことだ?
なんで彼女は下着姿なんだ?
さっきまでは、こんな
これじゃ“みこ”と面会するというより、まるで──
「おい、これは一体どういうことだ? なぜ彼女が下着姿で布団の上に横になっている?」
混乱している俺に、部下の男がそっと耳打ちする。
「城主様のご命令の通り、ご準備させていただきました」
「俺の命令通り!?」
「はい、『俺の女だ。俺以外の誰にも渡すなよ』と城主様がわざわざ担いでこられたので、さっそく
「よ、夜伽って……」
俺、そんな意味で言ったわけじゃないぞ!
部下の気遣いが、逆に気まずい。
“みこ”を教団の手の者に渡さないように念入りに忠告したつもりが、まさかこんなことになってしまうなんて。
自分がこの国の国主一族の貴族であり、そして一つの城の城主であることを失念していた。
いまになって思う。
主が女を運んで「俺の女」だと宣言すれば、そう勘違いするのも仕方なのない話だ。
事実、俺の後ろに控えている家老の伝助が、「若が
とはいえ、まさかこのまま目の前の少女を抱くわけにもいかない。
いったいどうすればいいんだと思ったところで、少女が俺を見ながら俺を嘲笑いを始めた。
「アッハッハ、誰かと思ったらさっきの
“みこ”の少女は手足を縛られたまま、必死に体を起こそうとする。
冷たそうなその声には、俺に対する
「最初は、あなたのことを尊敬していたの。あたしを救って連れ去ってくれたときは、絵巻物に出てくるどこかの貴公子だって思っていたのに……」
彼女は自らの胸を強く抱きしめた。
まるで自分の体を守るように、俺に憎悪の感情を向けてくる。
「でも結局、あなたも他の貴族や僧侶と変わらないんじゃない。欲望のままにあたしたちの尊厳と自由を奪い取ろうとする、ただのろくでなし!」
少女の声音には、落胆の色が混ざっていた。
白馬の王子様だと思っていた俺が、実はただの女好きだった。
そう彼女が勘違いしていることを悟ってしまう。
「いや、違う。これは誤解だ!」
「誤解なんてないわ。“みこ”の力に目覚めたうえに父さまに裏切られて、もうあたしには生きる意味なんてない。だから、あたしのことを慰めものにするなり、好きにすればいいじゃない!」
強がっている彼女の頬に、一滴の涙が流れる。
処刑場で見た、すべてに絶望したような表情だった。
「でも、できればこのまま楽に死なせて欲しい……もしダメでも、あたしを抱いたら、ひと思いに殺して……」
虚ろな目で言い放つ少女は、言葉とは裏腹に体が震えていた。
そんな彼女に対し、俺は真剣な眼差しを向ける。
「本当に生きたいと思わないのか?」
「……ええ」
「そうか……なら、お望みとおり好きにさせてもらうぞ」
少女が強く頷くと、俺は表情を一変させた。
にやりと笑みを浮かべながら、俺は突然少女に手を伸ばす。
その瞬間、彼女の目に恐怖の感情が浮かぶのがわかった。
少女は必死に体を捻って抵抗しようとするが、手足が拘束されているため逃げられない。
暴れる彼女の下着が崩れ、隠されていた肌が独りでに露わとなった。
そんな彼女に対し、俺は丁寧に上着を着せる。
同時に手足を拘束していた縄を解いてやった。
俺の行動が予想外だったのだろう。
少女が「えっ?」っと、驚きの声を上げる。
「抵抗する意志があるなら、心はまだ死んでいない。二度と『死にたい』なんて軽々しく口にするな」
俺の発言に、少女は言葉を失ったように黙り込んだ。
日本からこの異世界に転生した今だから、ハッキリと言える。
命は粗末にするものじゃない。
まだ生きるチャンスがあるなら、諦めるなんてもってのほかだ。
「あたしを助けたのは、体が目当てじゃないの……?」
「俺がお前を助けたのには、別の理由がある。断じて襲うつもりだったわけじゃない」
しっかりと誤解を解いておかないと。
そう思っていたのに、先ほどの部下が言わぬことを口にする。
「城主様、さすがでございます! 無理矢理
俺は変なことを口にする部下を、即座に小屋の外へと蹴り飛ばした。
そのついでに、伝助も追い出しておくことも忘れない。
どうしよう。
せっかく格好よく決めたところだったのに、また誤解されてしまいそうだ。
こうなってしまった以上、あえて腹を割って話すのがいいかもしれない。
「コホン。なあ、俺と取引をしないか?」