「コホン。なあ、俺と取引をしないか?」
「……取引?」
「そうだ。“みこ”は命を狙われ、処刑されるのが決まりだ……だが、俺がお前を教団から守ってやる」
「あなたが、あたしを助けてくれるの?」
「お前を処刑台から救ったのは、俺だったろう? 最初から助けるつもりでなければ、あんなことしないさ」
少女の瞳が揺れるのがわかった。
俺のことを信用してもいいのかと、思案しているのだろう。
「その代わりだが、お前の力を俺に預けてくれ」
「あたしの力を? どうやって?」
「まずは、教団の
「あんな力、誰かに見せるものじゃないけど……あなたがそう願うなら」
彼女は一瞬
けれども覚悟を決めたのか、すぐに目を開いて真っすぐに俺のことを見定める。
「でも、どうなっても知らないわよ」
彼女が両手を前に差し出す。
次の瞬間、まぶしい炎が彼女の手から吹きあがった。
「手から火が……!」
「そう、これがあたしの力よ」
彼女の手から噴き出た炎が、室内を包み込む。
その灼熱の火炎は、個や全体へと燃え移った。
「なんて火力だ……!」
「どう、これで満足した?」
少女がゆったりと手を動かすと、それに呼応するように炎が燃え盛る。
一瞬のうちに、室内が真っ赤に染まった。
ライターの火をつけたとか、調理用のバーナーを使ったとか、そういう次元ではない。
人が簡単に黒焦げになり、炭のようになってしまう火力。
この威力は、兵器といっても過言ではなかった。
普通の人間が扱えるような代物ではない。
これが、“みこ”の力……!
「あ、熱っ!」
火花が体に当たった。
部屋が灼熱の炎に包まれ急激に温度が上昇したことにより、一気に汗が噴き出る。
このままここにいたら、焼け死んでしまう。
それがわかっていても、超常の炎を操る魅惑的な少女から目が離せずにいた。
──なんて、綺麗な炎だろう。
生命力にあふれる、活力ある緋色の光。
触れれば火傷してしまう危険な炎だということはわかっていても、まるで灯台の灯火のように目を奪われてしまう。
それは、少女がこの世界で生き延びるための希望を象徴しているかのようだった。
そんな炎の中に、少女は立っている。
自身の体が焼けてしまうことも恐れずに、ただ、じーっとしていた。
その不思議な光景をぼうっと眺めていると、小屋の扉が破られる。
「若、大丈夫ですか!」
家老の伝助が、部屋に突入してきたのだ。
伝助はすぐさま、俺の体を外へと引っ張る。
「若、早く逃げましょう。ここにいては、焼け死んでしまいます!」
「あ、ああ。でも、あの子がまだ中に」
「いいから、早く!」
外へと脱出した俺は、燃え崩れる小屋を傍観することしかできなかった。
中にいるはずの少女を助けに行きたかったが、伝助がそれを許さなかったからだ。
しばらくすると、小屋は完全に焼け落ちた。
火事にしても、これほど早く家が無くなってしまうことは珍しいだろう。
それほどまでに、あの“みこ”が放った炎が、凄まじかったということだ。
火が完全になくなった瞬間に、俺は真っ先に廃墟へ飛び込む。
だがそこには、驚くべき光景が待ち受けていた。
灼熱の炎のように真っ赤な髪色の少女が、焼け落ちた廃墟に立ちすくんでいる。
あの少女が、生きていた。
しかも、まったくの無傷で。
小屋を丸ごと燃やし尽くしてしまうほどの炎の中にいたというのに、火傷のひとつもない。
それだけで、少女が普通の人間ではないことがうかがえる。
虚ろげな表情を見せる彼女が、俺のことを視認する。
そして、どうだと見せつけるように小さく微笑んだ。
その瞬間、俺の中で何かが弾け飛ぶ音がした。
反射的に、灰の中で立ち上がっていた少女の手を掴む。
「契約を結ぼう。これからは、俺のために働け」
「け……契約って、なに?」
「言っただろう、お前のことは俺が守るって。ところで、名前は?」
「……
その時、『鑑定スキル』によって少女の隣に浮かぶ文字に変化が起きた。
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みこの資質:炎
近接戦闘力 C (→ A)
遠隔戦闘力 D(→ B)
俊敏力 C(→ A)
最大魔力 C(→ S)
学習能力 D(→ S)
成長力 C(→ S)
親密度 C【レベルアップ!】
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親密度が「D→C」に変わった。
俺に対する彼女の親密度が変化したのだ。
それがわかっただけでも、少し安心してしまう。
──この子となら、なんだか上手くやっていけそうな気がするな。
それが“みこ”の少女──灯里との出会いだった。