「あのう、
突然、
いきなりすぎて、面食らってしまう。
「“みこ”となったわたしには、もう生きている価値はありません。岩田先生を通して私をここに連れてきたということは、無価値となった領民を処分するためですよね? わたしはもう、いらない子ですから……」
茜は目を伏せながら、顔を下に向ける。
この部屋に来てから茜が不安そうにしていた理由が、いまわかった。
「安心してくれ、俺は君を殺さないよ。首も斬るつもりはない」
「でも、わたしは“みこ”なのに……悪しき存在である“みこ”になってしまったのに……!」
「そこの
茜は静かに、灯里のほうへと視線を向ける。
彼女たちは元々、岩田さんの私塾の生徒だった。
顔見知りであり、先に“みこ”になった灯里が元気そうにしているのを見て、茜の顔が少しだけ緩む。
茜の表情が柔らかくなった今がチャンスだと、俺は話を続ける。
「そもそも、“みこ”は悪しき存在ではないし、無価値でもない。むしろ俺にとっては、価値しかないと言ってもいい」
「……皆本様は、お優しいのですね。“みこ”となったわたしのことを、無価値ではないと言ってくださるのですから…………」
茜は自分が“みこ”になったことで、自暴自棄になっているようだった。
生きながらにして、心は死んでいるかのよう。
だが、それもそのはず。
彼女はつい先日までは、ただの人間の少女だった。
それが“みこ”となったことで、この世界で忌むべき存在へと急に変わってしまったのだ。
見た目はそれまでと何も変わっていない、か弱い少女のままだといのに。
「たとえ“みこ”だとしても、俺は君を助ける。教団から守ることを誓おう」
「……“みこ”を助けるのですか? 皆本様は、城主様なのに……」
俺が“みこ”を助けると告げたことで、茜は困惑しているようだった。
そんな彼女に対して、すでに俺陣営となっている灯里が明るい声で援護射撃をする。
「若様はね、その辺の城主とは違うのよ! あたしのことも、守るって約束してくれたんだから!」
同じ“みこ”である灯里の言葉は、茜には強烈だったのだろう。
俺に対する警戒心は、かなり緩んでいるように見えた。
「それで茜は“みこ”になったと言ったが、なにか変わったことはなかったか?」
「変わったこと、でございますか?」
「“みこ”の力というのかな。これまでにはなかった力に目覚めたとか、そういうのはなかったか?」
「…………それが“みこ”の力なのかは存じませんが、傷を──癒やしたことがあります」
「どういうことだ?」
「一週間前に、岩田先生の塾の前で傷ついた小鳥を見つけたのです。翼からは血が出ており、空を飛べないのだとすぐに理解しました」
茜は思い出すように、視線を上に向ける。
「小鳥は道の真ん中で倒れていたので、そのまま放っておいたら人に踏まれてしまう。可哀そうに思ったわたしは小鳥を両手で包んで運ぼうとしたのですが──そうしたら、不思議なことが起きました」
茜はその時の状況を再現するように、両手で
そして両手をパアッと開かせた。
「小鳥が、空を飛んだのです」
茜の視線が、徐々に上がっていく。
小鳥が飛んで行ったときの光景を、思い出しているのだろう。
「その小鳥はわたしの周りを飛び回ると、手に降り立ちました。その時に気づいてしまったのです──鳥の翼の怪我が、完全に治っていることに」
「傷を、癒したのか!?」
もしそれが本当だとすると、茜の力は想像以上だ。
この時代、医療技術は極めて限られている、傷病による死亡も珍しくない。
傷を癒やす回復能力は、人々の命を救える可能性を秘めている。
「ですがその時、小鳥を癒やしたところを教団に見られてしまいました」
つい先日、茜の前に灯里が“みこ”となった。
そのこともあり、私塾が教団に目を付けられていたのだろう。
その結果、教団によって茜は追われる身となった。
私塾で力に目覚めたからこそ教団に見つかってしまったが、逆に私塾だからこそ茜は助かった。
その後は岩田さんが茜を上手く逃がし、すぐさま隠れ家に連れていったのだという。
「茜、聞いてくれ」
俺が声をかけると、茜は凛とした目つきで視線を返す。
やはり気弱そうに見えるが、ただの町娘には思えない理的な雰囲気を感じる。
「"みこ"は決して邪悪な存在ではない。むしろ、茜の力は多くの人々を救える貴重な能力だ」
「あの癒しの力がですか? 教団は"みこ"を、この世を破滅へと誘う悪しき存在だと言っていましたが……」
「教団が広めている言葉は嘘だ。彼らは自分たちの権威を守るために"みこ"を異端として迫害しているだけだ」
茜は困惑した表情を浮かべる。
長年信じてきた価値観を否定されて、戸惑うのも当然だろう。
「君の“みこ”の力は、教団とは無関係だ。それなのに、教団はその一神教としての権威を守るため、“みこ”を異端として弾圧している」
「教団の権威を守るために……」
茜も、なにか思うところがあったのだろう。
考え込むように、その言葉を唱えている。
「試してみないか? 君の力が本当に人々を救えるものなのか」
「えっ?」
「伝助、生きた鶏を持ってこい」
部屋の外へと、伝助が走っていく。
茜はいきなりのことで驚いているのか、口を大きく開きながら尋ねてくる。
「あのう……皆本様?」
「茜──君の力は、決して悪いものじゃない。それをいまから、証明してみせよう」
茜の回復能力は、灯里の炎のように敵を攻撃するためにも、科学として利用することもできない。
だが回復能力は、傷を癒やすことができるのだという。
それが真実であるならば、民の“みこ”に対する印象を大きく変えられるかもしれない。
この実験を通して、潮見城における“みこ”迫害の現状を変える、糸口を見つる。
茜には、それだけのポテンシャルが秘められているのだから。
俺は改めて、茜の姿を目に捉る。
そして鑑定スキルを使用した。
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みこの資質:回復
近接戦闘力 D (→ C)
遠隔戦闘力 D (→ D)
俊敏力 C (→ C)
最大魔力 C (→ A)
学習能力 C (→ A)
成長力 C (→ A)
親密度 D
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