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第29話 紗夜という少女

「俺のことを監視していたのなら知っていると思うが、教団から奪い取って俺が保護している“みこ”──灯里あかりはいまも生きている。今後、潮見しおみ城が彼女に危害を加えることはない」


「そうでなければ、この場で貴様を殺している。それに私は、このことも知っている──この城には、あかねというもう一人“みこ”がいることもな」


俺のことを一週間も監視していたのだから、気づいていてもおかしくはないと思っていた。


皆本みなもとまもる、本題に入ろう。私がここに来た目的は、彼女たち二人を『血塗ちぬれのみこ』へ連れ帰ることだ」


「……やっぱり、それが目的だよな」


おそらくそうではないかと、さっきから思っていた。

なにせ『血塗れのみこ』は、“みこ”を探しているという噂だったからな。


「なにも悪い話ではない。『血塗れのみこ』こそが、すべての“みこ”にとって唯一の安息の地だ。そこでは差別も迫害もなく、“みこ”は力を隠すことなく生きることができる。そうした自然な環境こそが、本来の“みこ”にとって最も望ましいものだ!」


「…………お前の言いたいことはわかった。だがその提案、断らせてもらう」


俺の返答を聞いた紗夜さやが、信じられないものを見るような目で視線を返す。


「なぜだ!? 『血塗れのみこ』に所属することこそが、“みこ”にとって最良の選択だというのに!」


「たしかに悪くない提案かもしれない。けれども『血塗れのみこ』よりも、この潮見城のほうが安全だ。『紅雨季こううき』が間近に迫る、この時期は特にな」


ムスっとしたような態度で、紗夜が小さく胸を張る。


「我々『血塗れのみこ』の隠れ家だって、他よりも安全だ。なにせ我々の本拠地は海上の島にある。たとえ教団といえども、海の上までは影響力を持っていない」


「だが、荒魔こうまの危険性は上がるんじゃないか? この沿岸地域全体が危険な状況になる『紅雨季』において、防衛力を強化している潮見城と比べれば、どちらが安全かは火を見るよりも明らかだ」


というかこいつ、なんで『血塗れのみこ』の本拠地が海上にあるって、俺にバラしたんだ?

見た目は利口そうな雰囲気だったけど、紗夜はちょっと抜けているところもあるのかもしれないな。


それに、良い情報を知れた。

その危ない海の上の島には、たくさんの“みこ”が存在している。


この世界の文明を発展させ、潮見城の力を向上させるためには、異能の力を持つ“みこ”の力は不可欠だ。

そんな“みこ”が集まっている『血塗れのみこ』と、この機会に接触しない手はない。


俺は紗夜に、思い切って提案をしてみる。


「なあ、もし良かったらなんだが、そんな海の上なんかじゃなく、『紅雨季』が始まる前に潮見城へ避難してみないか? 住む場所だけでなく、身の安全は保証しよう」


「私を、この城に招待するつもりかっ!?」


俺の予想外の提案に、紗夜は本気で驚いているようだった。

“みこ”を勧誘しにきたはずの彼女が、逆に俺に勧誘されているのだから、たしかにおかしい話かもしれない。


「悪い話じゃないと思うぞ。俺は君を歓迎するし、灯里たちも喜ぶだろう」


「……皆本守の話には驚いたが、私は“みこ”だ。潮見城の民や教団が、我々を恐れていることは知っている。わざわざ“みこ”を敵視している連中の住処に入りたくはない」


紗夜の言う通り、“みこ”に対する偏見はまだ潮見城に残っている。

“みこ”であることがバレるようなことがあれば、ここは敵地のど真ん中といってもいいだろう。


「それに皆本守、私はこれも知っているぞ。灯里という“みこ”は、そろそろ成人を迎えるのだろう?」


「たしかに灯里はそれくらいの年齢だったな。でも、それがどうした?」


「成人は、“みこ”にとって最初の試練であり、そしてとても大きな試練となる。“みこ”となる覚醒が早ければ早いほど、この試練を乗り越えることが困難になるのだ」


「“みこ”の風習か? そんな話、聞いたことないが……」


「風習ではない。“みこ”であれば誰しも必ず直面することになる、試練だ」


もしかしたら、俺は“みこ”についてまだ何も知らないのかもしれない。

そう、彼女の話から思ってしまった。


「“みこ”が人々に恐れられる理由……それは、成人付近に起こる“みこ”が大きな原因だ。“みこ”が成人を迎えると、ある特異な変化が起こる」


「変化だって?」


「普通の人間には理解できないようなことだ。結果として“みこ”は異端視され、教団によって荒魔の化身として扱われるようになってしまった」


それだけ言うと、紗夜は口を閉じてしまう。

具体的にどんな変化が訪れるのか、俺に教えるつもりはないようだ。



それでも、わかったことがある。

“みこ”である灯里は、成人を迎えるにあたって何かしらの変化が起きるらしい。

そしてそれは彼女にとってとても大きなことであり、その変化こそがこの世界における“みこ”への迫害に繋がっているのだ。


そんな大事な話を、紗夜が俺に伝えた理由。

それは灯里たちを潮見城から離さない俺に対する、警告なのかもしれない。


俺は静かに、紗夜へ鑑定スキルを発動する。

彼女の能力が見かけによらず高いことを、俺は理解してしまった。



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みこの資質:影

近接戦闘力 A (→ S)

遠隔戦闘力 B (→ B)

俊敏力 A (→ S)

最大魔力 B (→ A)

学習能力 D (→ B)

成長力 C (→ A)

親密度 E


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