目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第33話 風間城の反応

広場での演説が終わり、俺は自室に戻る。

すると三人の"みこ"に出迎えられた。


広場での出来事を部屋から見守っていた灯里あかりあかね、そして新たに仲間となった紗夜さやだ。

俺が部屋の扉を閉めると、灯里が心配そうに声をかけてくる。


「なんとかうまくいったみたいだね。さすがは若様」


「ああ、これで潮見しおみ城は一つにまとまる。紅雨季こううきもきっと乗り切れるだろう」


「でも若様、食料は確保できたけど、実際に荒獣こうじゅうが来たらどうするの? いくら石垣が丈夫で籠城ろうじょうできても、敵を倒さないといつかは……」


「安心してくれ、その対策も考えている。灯里の火の能力と紗夜の影の能力を組み合わせれば、かなりの数の荒獣を倒せるはずだ」


「まあたしかに、あたしたちの力があれば、荒獣くらいやっつけられるよね!」


灯里の明るい発言に対し、紗夜が冷静に指摘する。


皆本みなもとまもる、はっきり言っておこう。いくら"みこ"の力があったとしても、全ての荒獣を倒せるとは思えない」


「わかっているよ紗代、もちろん他にも手は考えている。パールの海潮かいちょう族としての戦闘能力も大きな武器になる。それに、これから領民たちを訓練して、戦闘能力を底上げするつもりだ」


「皆本守……それで本当にうまくいくのか?」


「うまくいかせる」


俺はきっぱりと言った。


「俺たちには知恵と団結力がある。潮見城が一つにまとまった今、俺たちならきっとやれる。それに──俺には、秘策があるからな」


灯里が「秘策ってなに?」と尋ねてきたが、俺はそれ以上は何も言わずに、窓の外の景色を眺める。

窓から見える海は穏やかで、まるで来たるべき嵐の前の静けさのようだった。


「さて、俺たちの準備は整った。それで風間かざま城は、どう出るかな……?」




風間城に、一人の男が戻った。

先日、潮見城で皆本守と会談を行った長谷川はせがわ昌治まさはるだ。


彼は風間城に帰還すると、風間城を支配する六大武家「六川ろくせん」の当主たちに報告をしにいく。

風間城の大広間には、昌治の父である長谷川家当主を含む六家の貴族たちが集まっていた。

彼らは華やかな装束に身を包み、高価な酒を傾けながら、昌治の報告に耳を傾けている。


昌治が潮見城での報告を述べ終わると、六家の貴族たちはいっせいに嘲笑を漏らした。

そして六家の一人が、昌治に尋ねる。


「それで、皆本守は本当に潮見城で紅雨季を過ごすつもりだと?」


「はい。城主が領民の前でそう宣言しましたと、報告が上がっています」


「馬鹿げた話だ! 潮見城の資源が我らの手から離れることなどありえない」


それは、ここにいる風間城六家の共通認識だった。

貴族たちが、鼻で笑うように次々と声を上げる。



「皆本の考案した防衛計画など、何の価値もない。未加工の石と湿った泥を積み上げただけの石垣が、一体どれほどの防御力を持つというのか」

「雨に打たれれば崩れる程度の代物だろう」

「すぐに皆本は、我々へ許しを請うことになるだろう」

「いくら国主の息子といえど、若造に城主など勤まらん」

「何を思いついたとしても、しょせんは若者の戯れよ」



潮見城の防衛計画は完全に見下されていた。

彼らの目には、皆本守が行おうとしている新たな防衛計画は、ただの素人の試みにしか映っていなかった。


しばらくすると、最初に声を上げた男が、こう切り出す。


「もし皆本が潮見城を放棄し、風間城に逃げてくるのであれば、我々の思い通りに扱うことができる。仮に奴が潮見城で命を落とすならば、それはそれで都合が良い」


六家の貴族たちは、彼の発言に同意の笑みを浮かべる。

いずれにせよ皆本守の行動は無意味であり、遠からず終焉を迎えると彼らは確信していた。


「長谷川、お前はこの先も潮見城の様子を見張っておけ。あの若造がどのように滅びるか、詳細に報告せよ」


「承知しました」


昌治は頭を下げる。

しかし、その目には計算高い光が宿っていた。


風間城の貴族たちが皆本守の失敗を笑い、酒を酌み交わす中、昌治の心の中には別の思いが芽生えていたからだ。



──果たして、皆本守の計画は本当に失敗するのだろうか?



昌治はその考えを胸に秘めながら、広間の貴族たちの様子を静かに眺める。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?