水を飲み切った
「これからが本番だ。溶接ができたから、次はこれを作る」
俺は
「これは『シリンダー』、そしてこれは『ピストン』と呼ばれるものだ」
「しりんだあに、ぴすとん? 前のセメントみたいなやつ?」
「セメントと同じで、これからの
「熱を使って、物を動かせるの?」
「そうだ、エネルギーは、他のエネルギーに変換できるからな。たとえば、
俺はイラストを描きながら、灯里に説明する。
「蒸気機関は、水を熱して蒸気にし、その圧力でピストンを押し動かす。ピストンの動きを回転運動に変えれば、
「熱で、車輪を動かす? そんなことが……本当にできるの?」
「できる。熱エネルギーを、運動エネルギーに変換するだけだからな」
そもそもエネルギーとは、『仕事をすることができる能力』のことをいう。
それらのエネルギーは、他のエネルギーに変換することができる。
たとえば現代日本では、日常生活にエネルギーを変換させることが当たり前だった。
電灯のボタンを押せば、電気エネルギーを光エネルギーに変換できる。
光だけでなく、扇風機をつければ電気エネルギーは風を生み出す力学的エネルギーとなる。
熱エネルギーであれば、エンジンを使って運動エネルギーに変換し、車を動かすことができる。
他にも巨大な工場の動力にもなるし、山のように大きい船舶を動かすことだってできるのだ。
「灯里の
「あたしの力に、無限に可能性が……!」
灯里の目が好奇心で輝いていた。
俺の目的は、この蒸気機関の開発にある。
そのためにも、灯里の協力は不可欠だ。興味を持ってくれて助かった。
「蒸気機関は、熱を利用して発生させた蒸気の圧力を活用し、機械を自動で動かす技術だ。だが実現するには、いくつか課題がある」
「あ、あたしにできることなら、なんでもするよっ!」
「この蒸気機関を発明するためには、灯里の力を借りることになる。そのためにも、まずは精密な部品が必要だ」
「蒸気機関の前に、部品を作らないといけないのね」
シリンダーとピストンの密閉性、蒸気を通すための配管の精度、耐圧性を確保できる素材の選定。
これらは、蒸気機関の稼働を実現するために解決すべき技術的問題だ。
この世界の技術水準では、こうした精密な加工を行うことは極めて難しい。
だけど、灯里の力があれば、この壁を乗り越えることができる。
「灯里の超高温の炎を使えば、鋳造や溶接の精度が飛躍的に向上する。これまでの鍛冶技術では不可能だった、精密部品の加工が可能となるんだ!」
灯里が不安そうに、俺のことを見上げてくる。
「あたしに、できるかな……?」
「できるとも。セメントだって、きちんと作ってみせたじゃないか」
俺は、灯里の小さな肩に手を置く。
「潮見城を守るため、蒸気の力で動く新しい武器を作る。俺の知識と、灯里の能力があれば、この世界ではまだ誰も見たことのない力を生み出せるはずだ!」
「あたしの力と、若様の知識を合わせる……」
「そうだ、俺たちにできないことはない。これまでもそうだったように、これからも二人で乗り越えて行こう!」
俺は灯里の目を見ながら、こう告げる。
「それに"みこ"の力は、単なる破壊の道具なんかじゃない。みんなを守ることができる、創造の力でもあるんだ。それを俺と一緒に証明しよう」
灯里の瞳が、炎のように輝いた。
「わかったよ若様…………あたし、そのしりんだあとぴすとんってのを、絶対に作ってみせるよ!」
作業場に火が灯され、灯里の手から青白い炎が再び現れる。
ピストンとシリンダー。
これが俺たちの、秘策の一歩となる。
これらが完成すれば、潮見城は単なる防衛のための拠点ではなく、技術革新の発信地へと変わるだろう。
潮見城を照らす、小さな灯の火がつく。
炎と鉄が交わる音が、新たな時代の足音のように潮見城に響いていた。