(浄化の魔法、最高では? ……はっ! そうだわ、別に魚介類にこだわる必要もないよね? この【
すごいことを思い付いてしまった。
先日、食べさせてもらったブラックブルという牛の魔獣肉。
日本のブランド和牛もかくや、というほどに美味しいお肉だったが、あれに【
(ローストビーフじゃないわよ? 炙りも低温調理もなく、生のままのお肉を美味しく食べることができるわ。牛はもちろん、馬肉も!)
以前、居酒屋でバイトしていた時に、ほんの少しだけ馬肉を味見させてもらったことがある。
冷凍のブロック肉を解凍して馬刺しとして提供するのだが、一部分だけ冷凍焼けしていたのだ。
捨てるのはもったいない、ということでバイトの美夜が食べさせてもらったのだが、あれはとても素晴らしかった。
(やわらかくて、甘くて絶品だったなー。口の中で溶けちゃったもの。夢かと思った)
あの夢のように美味しい馬肉が、この世界でも堂々と楽しめるということなのだ。
(牛刺しに馬刺しが食べられるなんて!)
召喚される前よりも今の方が確実に良い生活をしているのは間違いない。
(……待って。卵に魚介類、牛肉に馬肉が生で食べられるようになるということは、あれもイケるのでは? そう、日本では絶対に味わえない、危険な肉料理──ドイツで人気の、メット!)
なんと、生の豚挽き肉を使った料理だ。
塩や黒胡椒、ガーリックなどの薬味で風味を付けた豚の挽き肉をハードタイプのパンにのせて食べると聞いたことがある。
(みじん切りにした玉ねぎも入っていた気がするな。なんとなく生のハンバーグ? って驚いた記憶があるもの)
記憶はあやふやだが、生の豚肉を食べるという情報に驚いて、レシピを調べたことがあったのだ。
(脂肪を避けて、赤身部分の肉を使うから、意外とさっぱりと食べられそうなのよね。見た目はほぼユッケ。そのため、日本人的にも見た目が「美味しそう」な肉料理だった……)
豚の生挽き肉を使ったソーセージはハッケペーターと言っただろうか。
あれも気になる。
(異世界だから、オークみたいな豚のモンスターがいるよね、きっと。大抵の物語では美味しいと噂のオーク肉! もし、この世界にもいるなら、お肉を分けてもらえないかなー。安全に食べられる豚の生肉なんて、すごい贅沢だよねっ)
日本ではもうなかなか味わえない、生レバーだって食べられる。
そういえば、レバ刺しは父親の好物だった。どんな味がするのか、ずっと気になっていたのだ。
欲しがっても美夜だけは食べさせてはもらえなかったので、ぜひとも食べてみたい。
想像するだけで、ヨダレが溢れそうになってくる。
(これは魔王にも食べさせてあげないとね!)
お世話になっているのだ。ぜひとも、魔王に食べさせたい。
向こうの世界のレシピで作ったイモ料理を絶賛してくれたのだ。
きっと、味の好みも似ているはず。野菜料理だけでなく、お刺身やお寿司も作ってあげたい。
「どうした、勇者よ。口元が汚れているぞ?」
「うにゃ?」
おっと、いけない。私としたことが!
慌ててヨダレを【
「疲れたのか。今日はよく働いたからな。もう、寝よう」
「にゃん」
玲瓏たる美貌を誇る魔王の腕枕で、子猫は満足そうに眠りについた。
(明日も魔法の練習を頑張らないとね! それと、新しいレシピも伝授しよう)
ジャガイモ料理を試したので、次はサツマイモを使ったスイーツなんてどうだろう?
根菜が多めなので、ポトフやシチューもいいかもしれない。
(異世界のお約束ネタとして、ぜひともカレーを作ってみたいけど、スパイスの配合が分からないかー……。【鑑定】のスキルで黄金比とか分かればいいんだけど……)
ころりと寝返りを打つと、逃げるなと言わんばかりに魔王の手で引き戻された。
ついでに後頭部を思い切り吸われてしまう。
息が耳に当たって、くすぐったい。
「ふみゃ……」
人と一緒に眠ることが苦手だったはずなのに、いつの間にか魔王のぬくもりがないと安眠できなくなっていた。
自身の喉の音を子守唄がわりにして、子猫は心地よい眠りに身を任せたのだった。
◆◇◆
あらたに【生活魔法】を覚えた子猫は、それはもう張り切って魔法を使いまくった。
魔道具の灯りの代わりに、【
残念ながら、火を点ける仕事はなかったので、【
「ありがとうございます、ミヤさま。とても助かりました」
エルフのメイドさんたちはにこやかに笑いながら、お礼にとハチミツ味のキャンディーをくれた。 これがまた、ほっぺが落ちそうなほど甘くて美味しいのだ。
だけど、お風呂だけは譲れない。
水浴びが苦手なユキヒョウ族のピノなどは【
(お湯につかるのが気持ちいいんだもん! それに、お風呂上りのマッサージがまた格別なのよう! にゃんこエステ最高っ!)
申し訳ないので、ドライヤー魔法ならぬ【
そして何より、いちばん活躍したのは厨房での【
「火を通さずに卵を食べるのですか、勇者さま⁉」
恐れおののく料理長に頼み込み、ブラックブル肉を薄切りにして表面を【
残念ながら厨房には米がなかったので、カリフラワーライスで代用して、ステーキ丼を作った。
焼いたブラックブル肉をカリフラワーライスにのせて、中央に卵の黄身を添える。
(お醤油がないのが残念だけど、赤ワインベースのソースでいいかな?)
肉は塩胡椒で下味を付けてあるので、このままでも美味しいはず。
一応、生卵には【
厨房の皆とおそるおそる口にした、なんちゃってステーキ丼は震えるほどに美味しかった。
レアに近いブラックブル肉にとろりとした黄身が絡まって、まるで高級すき焼きを食べているよう。美味しくて、いくらでも食べられそうだ。
「これは、料理界の革命ですよ、勇者さま……!」
料理長を筆頭に皆が絶賛してくれたおかげで、生卵メニューの敷居が下がってくれたように思う。
ステーキ丼もどきは魔王アーダルベルトの胃袋も見事につかみ、魔王陛下お墨付きの『厨房相談役』のお墨付きを貰った美夜だった。