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第8話 完成、キヨシの湯

■フィオレラ村 教会の庭


 俺は村長のところへ行き、酒の飲み終わった樽がないかと聞いたところビールを作っている村人を紹介してもらい、空いた樽を教会の方へ持ってきてもらう。

 我ながら、風呂に入れると意気込んでからの行動力は恐ろしい。

 いや、水で体を洗うのもいいんだが日本人としては湯舟につかりたいんだ。

 温泉があれば一番なんだが、贅沢はいえない。

 だから、五右衛門風呂にたどり着いた。


「よし、この樽に水をためてと……」


 俺は村人が運んできてくれた樽の蓋を開けてビールの香りがほのかに残る中へ〈浄水〉で水を張る。

 井戸で汲むのがこの村では一般的だが、面倒なのは避けたい。

 集まっている村人の視線が俺のやることに集中していた。


「パパ、何をしてるの?」

「風呂を作っているんだ」

「キヨシ様、お風呂なんて町でないと入れない高価なものを作ることができるのですか?」


 ドリーの問いかけに俺が答えていると、ホリィがガッと勢いよく話に割り込んでくる。

 女性な上にシスターという身を清めることが多いホリィにとって、お風呂の存在はとても興味深いものなのだろうな。


「俺の故郷での文化というかやり方でな、五右衛門風呂ってのがあるんだ」


 水を八割ほどためた樽の中に先ほどリカードからもらった温熱の魔導具に魔力を込めて投げ込んだ。

 本当なら、鉄製の窯を火であぶって沸かすのだが鉄の器などないので、湯沸かしの方法の1つである熱した石を投げこんで沸かす方式をアレンジする。

 しばらくすると、沸騰するほどではないものの湯気が立ってきて温まってきたのが分かった。


「さて温度は……ちょっと熱いか、〈浄水〉」


 女神様も俺が蛇口の水を捻るように〈浄水〉をつかうのは想定ないだろうか?

 まぁ、今更仕方ないので俺なりに自由にスキルを活用させてもらうことにした。


「いい温度になったな……入りたいが、さすがにみんなが見ている前で裸にはなれんか」

「そないなことなら、ええもんがあるで」


 俺が悩んでいるとちゃっかりとリカードが顔をのぞかせてくる。

 その顔には笑顔が浮かんでいるが、この顔は儲かりそうなことを見つけたセールスマンの顔だ。


「いいものがあるのはわかったが、金はもってないぞ」

「お金はええねん、このアイデアを買わせていただきたいんや」

「アイデアを買う?」

「せや、さっき魔導具の在庫があまってるゆーたやん? それをこないな形で空いた酒樽を使って風呂にするなんて大発見やん! 金の匂いがするでぇ~」


 そういうことかと俺は納得した。

 リカードは在庫処分する手立てができるので、いろいろと融通を利かせて使用感などを改善するつもりらしい。


「わかった。別に俺は五右衛門風呂で儲けたいとは思ってないからな、好きにしてくれ。で、脱衣所になるような囲いを用意してくれないか?」

「ほな、予備のテントの材料を使って作りましょ。セリアもてつどーてーな」

「わかった」


 こうして、教会の一画に五右衛門風呂式入浴場【キヨシの湯】が出来上がった。

 キヨシの湯がこの後、ほうぼうの教会に設置されて寄付がたくさん入るようになると噂になるのはまた別の話である。


――翌朝


 フィオレラ村の夜は早い。

 いや、昔の日本の田舎だって夜は早かっただろう。

 日も沈めば村人は仕事を終えて家に帰って家族との団らんや、内職をはじめるのだ。


「はぁ……生き返る……」

「パパ! しんじゃやーなの!」

「大丈夫だ、大丈夫だから泣くな……」


 樽風呂に入りながら、俺がぼやいた一言で一緒に入っているドリーがわめき始めた。

 まだまだ子供だからニュアンスが伝わらないのは仕方ないか。

 幼女と風呂に入るなんて、昔実家で親戚が集まった時、姪っ子に付き合わされたぶりだ。

 あの経験があるので、ドリー相手でも親子ごっこができる。


「そっちの湯加減はどうだ?」

「はい~、とっても気持ちいいですね。朝に軽くお湯で体を洗うくらいでしたが湯舟に入る気持ちよさは別格です」


 ホリィのとろけたような声が返ってくる。

 俺のいる樽風呂の隣には同じ樽風呂があり、男女別々に入って声を掛け合えるようになっていた。

 リカードの発案であり、もちろん目隠しようにテントも立っている。


「さて、風呂も入れるようになったしな……リカードの手伝いを何かしたいが……何があるんだろう」

「そうですね、いつもならすぐに帰ってしまわれるのですが、今夜は泊まられるので何かほかに目的があるのかもしれませんね」

「わかった、あとで詳しく話をしてみる。あ、肉の調達というか害獣対策を考えないといけないか」


 湯船につかるとアイデアが浮かぶといったのは誰だったか……。

 その言葉の通りに俺の頭にはいろいろなことが浮かんでくる。

 芋を育てたりしてくるなら、畑を襲うイノシシやシカなどの対策をしなければいけなくなるはずだ。


「イノシシやシカがいるなら、ジビエにしたいな」

「じびえー?」

「肉だ、肉。ドリーは肉を食べないんだったな」

「うん、ドリーはお日様とパパのお水があれば大丈夫」

「本当に植物なんだな……食費がかからなくていいんだが」


 美味しいものを食べて、お風呂にゆっくりする。

 理想的なスローライフのために俺は俺のできることをしていきたいと気持ちを新たにした。


「それではお先にあがりますね。寝る前に女神セナレア様へゴウェモンブーロができたことを報告いたしたいですし」

「ああ、お疲れ様。先に寝るなら、お休みな。ホリィ」

「はい、お休みなさいま……きゃっ!」


 そのとき、ぶわぁっと大きな風が吹いて目隠しの布がめくれた。

 俺はその隙間から月夜に照らされるホリィの白い裸を見てしまう。

 大きな胸を手で押さえていたが隠しきれていないところまでしっかりとだ。


「み、みましたか?」

「なんも……見てないぞ」


 俺は静かにそう言って湯船につかり直した。



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