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第9話 エルフの願い

■教会司祭の家 客室


 1つだけある客室を訪ねるとリカードとセリアが就寝の準備をしていた。


「あー、邪魔だったか?」


 俺の言葉に二人は顔を見合わせるが、ようやく意図に気づいて苦笑する。


「気にせんといて、セリアは一応奴隷やから、ワイの嫌がることはせんし、こないな壁の薄い部屋で何かするわけないやろ」

「う……まぁ、そう……だな」


 ケラケラと軽く笑うリカードには好感が持てるし、年が近いこともあって話やすい。

 まぁ、近いと言っても10は違うんだが……。


「それで夜に何の用だ?」

「ああ、そうだ。五右衛門風呂の礼に何か俺に出来ることをしたいと思ってな」

「アイデアを売ってもらっただけでええのに……」

「いや、リカード。私に1つやりたいことがあるので頼んでもいいか?」

「セリアが珍しい……ええで」


 断ろうとしていたリカードの話に割り込んで、エルフのセリアが俺に向き直った。

 凛とした雰囲気のするスレンダーな美女といった様子である。

 エルフだから、俺よりも年上なんだろうが、見た目が若いのでどう接していいのか正直困った。


「ドリアードと仲がいいようなので、一緒に周辺の森の探索に付き合ってくれないか? この村は空気がいいし、土も生きている。周りがどの程度その影響を受けているのか調べたい」

「俺は構わないが、なんでだ?」

「エルフって種族は、綺麗な森でこそ生活して繁栄する種族なんや。瘴気が広がっている今時、綺麗な森を探すのも一苦労ってわけやね」

「そういうものなのか」

「奴隷になったのも住処を追われて弱っているところを狙われたらしいんや」

「酷い話だな……」


 リカードが簡単な説明を終えると、セリアは小さく頷く。

 もっと深い理由があるのかもしれないが、藪をつついて蛇を出す必要はなかった。


「ドリーは風呂の後にすぐに寝てしまっているから確認できないが、俺が行くと言えば全然ついてくるだろう」

「よかった。では、そのように頼んだ」

「もしかしたら、エルフが移住してくるかもしれないのか?」

「調査しだいだ。可能であれば定住先を見つけ、仲間を集めていきたいと思っている」

「そゆことや、ワイがこの子を連れて行商しているのも仲間探しと移住先探しの両方を兼ねてるんや。狩人としての腕も十分やけどな」


 リカードが自慢げに告げると、セリアの方は顔を少し赤くして耳をピコピコと動かす。

 表情は硬いが、嬉しいという気持ちがあふれているように思えた。

 ピーターといい、この世界の人間に充てられて俺も嫁が欲しくなる。


「じゃあ、翌朝な。早めに動くとしよう」

「助かる。それじゃお休み」

「ええ、夜をな」


 リカードとセリアの部屋から離れ、俺はドリーが寝る自分の寝室へと戻るのだった。


■フィオレラ村周辺の森


 翌朝、村のすぐ近くにある山から広がっている森へと俺たちは足を踏み入れていた。

 メンバーは俺、ドリー、セリア、リカードの4名と村の狩人が2名の6名である。


「俺の故郷の森に近い感じだな……知らない植物ばかりだが……」


 杉のようなそうでないような不思議な葉っぱの生えているものを触りながら俺がつぶやくと、狩人の二人とセリアが顔を突き合わせて話していた。


「この森がここまで回復するなんて……キノコも生えるようになっているぞ!」

「森が生き返ってきているというわけなんだな? やはり原因は……」

「それしかあるめぇ。やっぱりキヨシ様々じゃ」


 三人の視線が俺に向く。


「俺、何かやったのか?」


 実感がないことを言われてもわからない。

 きょとんとしている俺のズボンの裾をドリーが引っ張ってきた。


「パパ、パパのお水の力がね。広がっているの! 土を通して広がっているの!」


 俺がドリーのほうを向くと両手を広げて空中で円を描き、アピールをする。

 なるほど、毎日の水まきで<浄水>を使っているし、風呂で使った水も終わったら地面に撒いたりしていた。

 そのため、土の中から浄化とでもいうモノが起きているのはわかる気がした。


「その影響で自然が戻っているということか……森にきてわざわざ水撒きをして浄化するなんて手間をしなくていいのは楽だな」

「せやないねん! これはとんでもないことをキヨシはんはやっているんやで?」


 ケロっと何でもないように俺は言ったが、それを聞いたリカードからツッコミが入る。

 とんでもないことと言われても俺は毎日をやりたかった農業をしているだけだ。


「このまま森が復活していけば、森の恵みが多くえられて村がより豊かになるぞい」

「餌が増えれば、獣も増えるがその分、狩人である俺たちの出番もでてくるってもんだ」


 狩人の二人がキノコを採って盛り上がっている中、セリアは太い幹の木を触って見上げて感慨深く語る。


「いいところだな……この森は本当にいい森になりそうだ」


 だが、そのひと時も一瞬で終わった。

 黒い靄のようなものが森の奥から広がってきて、周囲の木が腐り始める。


「瘴気だ! 発生源がこの奥にあるということか!?」


 セリアが弓を構えて、一人先に進んだ。

 森の木々の合間を軽い身のこなしで駆け出していく姿は焦るようであり、真剣そのものである。


「あいつ……悪いけど、キヨシはん、セリアのこと頼んだで?」

「追いかけていくしかないか……瘴気を浄化できるのは俺の<浄水>だけなんだもんな。ドリーはどうする?」

「ドリーもパパといくー!」


 元気な返事を受けた俺はドリーとともに森の奥へ消えていったセリアの後を急いで追いかけるのだった。



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