■フィオレラ村 教会
騒がしいシーナを連れて、俺達は教会へと戻ってきた。
もう教会というよりかは俺の家の様な気がしてきている。
立った数日しか過ごしていないんだが、いろいろあったおかげで愛着がわいていた。
「あら、キヨシ様。おかえりなさいませ、そちらの女の子は?」
「あたしはディーナ・シーのシーナよ。マスターの剣よ」
「ディーナ・シー! また新たな精霊を仲間にされて……キヨシ様は伝承の使者様で間違いないでしょうね」
「俺はそんなにすごい奴じゃないんだがな……」
ホリィの出迎えを受けた俺はこそばゆい気持ちを味わう。
農家を継げず、初恋の人を兄に奪われて逃げた派遣社員として生きて来た俺がここではもてはやされている。
素直に喜べないのは三十路も過ぎて偏屈になっているからだ。
「パパはすごいよー」
「ええ、自信を持つといいわ」
俺の手を引っ張るドリーに偉そうに鼻を鳴らすシーナ。
娘が二人できたみたいで、なんだか嬉しくなってきた。
あとは嫁なんだが……。
「なんや、そうしているとあんたら家族みたいやなぁ」
「こら、リカード。無粋なことをいうな。私も思っていたが言わなかったんだぞ」
俺らの様子をみていたリカードがボソリとつぶやくとセリアが肘でリカードを小突いていた。
「そそそそ、そんな!? キヨシ様はもう神様のようなものなので、私ごときが伴侶になるなどっ!?」
ホリィが顔を真っ赤にしてリカードの言葉に過剰に反応する。
この反応は完全に脈がないわけではないが、さすがに一回り近く下のホリィを嫁に貰うのは
「まぁ、夕飯にしないか? シーナは何を食べるんだ?」
「精霊は人間のようにものを食べたりしないわ。しいていうならばマスターの水が欲しいわね」
「ドリーと一緒か、でも食卓には一緒にいようか。食べる食べないはおいておいて、【家族】なら一緒に食卓を囲むものだ」
俺の言葉にみんなが笑う。
何かと思っていたら、俺が【家族】と無意識のうちに言ってたからだ。
「そうか、俺はホリィやドリーたちを家族と認めていたんだな……」
結婚とかそういう形式的なことではなく、気持ちとして受け入れているのであれば俺はこの家族のために頑張ろうと思う。
家族は大切にするものだと祖父もよく言っていた。
「なら、今日は家族記念日ってことで肉と酒をだすわ。外で宴会しよか」
「リカードがただ飲みたいだけだろ、肉も保存期間が切れそうだから……」
「無粋なのはどっちや!」
ハハハと俺は心の底から笑う。
随分と笑ってなかったが、今日からはもっと笑えそうだ。
――そのころの街道
「なぁ、リカード」
「どないしたん?」
行商のための馬車に揺られているとき、思いつめた様子のセリアがリカードに話し始めてきた。
今朝がたフィオレラ村を出発して、見えなくなってから話しだすタイミングに深い意図が見える。
「あのキヨシという男はなんだろうな?」
「悪い奴には見えへんけど……正体が知られたらトラブルの元になりそうやなぁ。世間知らずっぽいとこあるし」
「そうだな。あの村にいるから何事もないが精霊と親しくなれること、瘴気を浄化できることなどは神の御業と言われたって信じてしまう」
「せやなぁ……それにあのキヨシはんの発想は新しいものやから、そこからも厄介事になりそうやなぁ」
二人の間に少しの沈黙が訪れる。
「リカード」
「ええで」
「まだ、私は何も言っていないぞ?」
「奴隷契約の解除やろ? 今のままじゃ逃走防止の魔法がかかっていてワイと離れられへんからなぁ」
セリアはリカードがさらっと答えたことに驚くも、目を細めて微笑んだ。
そして、決意に満ちた目をリカードに向けて言葉を紡ぐ。
「本来やりたかったエルフの里の復興をあの村の近くでやりたい。あの場所は私達が守るべき場所だ」
「さよか、ちいっとばかし寂しくなるなぁ」
「ちょっとだけなのか?」
「ワイは商売人や、感傷に浸る趣味はあらへんのや。儲かることが第一やからな」
ひょうひょうとした表情を崩すことなくリカードは告げ、馬に鞭を打った。
(すまない、お前には感謝しているが……私は私の一族を守ることが第一なんだ)
セリアはそう思いながら、馬車の中に戻りこれからの計画を練りはじめる。
エルフの里を再び作り上げるため壮大な計画を……。