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第12話 森の怪物

■フィオレラ村 名もなき森


 フィオレラ村は山間に出来た村で、山の実りと川の実りを得ている。

 ただ、実りが多いということは人間以外の動物にも狙われるということだ。


「俺のいたところでは鹿だけでなく、猿やタヌキもいたな」

「エイプはこの辺にはいねぇなぁ。いたらもっと早く村が襲われてらぁ。ああ、山の方にはゴブリンがいるって聞いてるから近づくんじゃねぇぞ、キヨシ様」

「ゴンじぃに従うよ」


 この辺に詳しいゴンじぃが先頭で、俺とシーナが続く。

 最後尾にはゴンじぃの息子がついて来てくれていた。

 息子といっても俺よりも年上で、名前はガロという。


「親父。本当に森が復活してきているんだな」

「おうよ、このキヨシ様のお陰だ。おめぇも感謝しろよ」

「キヨシ様、今後とも村のことお願いします」

「だから、俺はただのおっさんだ……」

「謙遜も過ぎると嫌味になるわよ、マスター」


 シーナにたしなめられ、俺もそろそろ認めなければいけないのかもしれない。

 聖者様というのはさすがに言い過ぎだとは思うがな。


「足跡がある。このあたりに来たのは確かだが……でけぇな」

「俺の足の半分くらいの足跡って……相当でかくないか? この人数じゃ、やばくないか?」

「これくらいなら大丈夫よ。あたしがすぐに倒してみせるわ」

「シーナが言ってもなぁ……不安だ」

「マスター、それはなんなのよ!?」


 ぶーぶーとシーナが文句をいいはじめる。

 お嬢様のような見た目をしているシーナだが、時折年齢らしい子供っぽい雰囲気をするのが可愛いと思った。


「まぁ、キヨシ様がいうように俺らはお嬢ちゃんの実力を見たことないからなぁ。信じろって方が無理だろぉ」

「う……確かにそうね。なら、見せてあげるわ……私の力を!」


 そういうとシーナは巨大な両手剣を召喚して、構える。

 重さに沿った下段の構えというのだろうか、切っ先を後ろの地面に向ける構えだ。


「せぇぇぇいっ!」


 シーナが森の中にある巨木へ向かって走る。

 両手剣の射程圏内に入ったとき、シーナが自分の身の丈ほどもある両手剣を軽々を振り上げた。

 走った加速も乗った鋭い剣閃が走り、風がおこる。

 ビュンと音が風に遅れて聞こえて来たかと思うと、巨木がググググという音と共に倒れた。


「すごいな……」

「ふん、当然でしょ!」

「こらたまげたがぁ……道が塞がっちまったから、回り道しねぇといけねぇなぁ」

「なっ!」


 ゴンじぃが困ったかのようにいうとシーナの顔がみるみる赤くなっていく。

 そして、ズズズズと地面に沈んでいった。


『もう、鹿がでるまで、あたし地上にでていかないっ!』


 穴があったら入りたいっていうのを地で行くやつを初めて見た瞬間である。


■フィオレラ村 森の水場


 あれから探してみたものの、足跡はあっても鹿は見当たらなかった。

 足跡からすれば俺よりも大きな存在のようだが、影も形もない。


「見つからねぇな……夜を見越して隠れてるのか、賢い奴かもしれねぇぞ……」

「日も沈みはじめてるが、どうする親父?」

「そうさなぁ、キヨシ様よぉ……ワシとしちゃあ一旦村に帰るのがいいと思うがどうするよ」


 ゴンじぃが息子と一緒に詳しく調べてから、俺に意見を求めたきた。

 狩りの素人の俺に聞かれも困るんだが、鹿の存在を確かめられることなく無視するのは危険だろう。


「最後に来た水場にも足跡のみか……一歩遅れた感じなら一度帰るしか……」


 俺がそう思っていたとき、水場となっている川の対岸の茂みがザワザワと揺れた。

 鹿かと思い、俺達は警戒して構える。

 ザワザワと揺れて出て来たのは傷ついた緑色の小人のような奴だった。


「ボンサイマン!?」


 思わず俺は昔アニメでやっていた、宇宙人が使う植物からできるザコ敵の名前を叫ぶ。


「マスター、あれはゴブリンよ。傷ついているということは何かから逃げて来たのかも……」


 地面から現れたシーナが俺の叫びに訂正を入れていると、それにこたえるようゴブリンの背後から3mは高さがあろうかというデカイ鹿が姿を見せた。

 体が太く大きく、体当たりされたらひとたまりもないだろう。

 その証拠に傷ついたゴブリンが転んだところを上から丸太のような足でゴブリンの背中を踏みつけた。

 それだけで、ゴブリンは沈黙して動かなくなる。


「あいつはでけぇなぁ……山の神と言われても納得しちまいそうだぜ」

「村にまであんなのを引っ張ってきたら村が終わっちまう!? どうする、親父!?」


 ふしゅーふしゅーと鼻息を荒くした鹿が俺達を見下してきた。

 よく見ればの体のいたるところに傷があり、ゴブリンに襲われたところを返り討ちにしたのが分かる。

 ガロのいうようにこんなバケモノを村にまで連れて行ったら大変だ。

 ガツガツと足音を立てて、鹿がこちらにやってくる。


「マスター、ここは私に任せて頂戴!」


 シーナが両手剣を召喚し、鹿に向かう。

 鹿の方も自分に害をなそうとする存在を理解したのかシーナの方へと駆けだした。

 早い、どちらも一瞬でお互いの距離が詰まって攻撃の間合いに入っている。


「せやぁぁぁ!」

「ギュォォォォ!」


 シーナと鹿が同時に叫び、両手剣と鹿の角がぶつかりあった。


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