基本の素振り、ミット打ち、模擬試合。
毎週の稽古を繰り返しを重ねていくと――。
「今度、大会があるので出場してみましょうか」
「大会?」
「スポーツチャンバラの大会のことです」
ある時に先生が『大会』への参加を促してくれるようになりました。
大会とは勿論のことではありますが、スポーツチャンバラの大会のことです。私、というよりも、当時の私は小学生ですので大会への出場の決定権は父にあります。私自身も大会といってもピンと来ませんので、そのまま流されるままに大会への出場を決めました。
大会といいましても、都道府県で行われる地方大会のものではありますが『初参戦』。多少なりとも緊張はしておりましたが、その緊張も学校で行われる運動会で上手く走れるか、ダンスなど集団での発表が上手くいくか、といったものと同程度の感覚でした。
(うわあ……凄いなあ)
しかし、いざ大会が行われる会場に入ってみると大きな広い板の間の会場が広がり、そこには結構な人数が集まっておりました。
場所は某大体育館の武道場。集まってる各道場の選手達の服装は全員違っていて、おそろいの空手着を着る人達もいれば、動きやすいTシャツ姿、私服姿の人までいました。
ちなみに我々ですが、この中でいえば私服姿。私服といっても、動きやすい運動着に近いものです。普通でしたら空手や柔道などの武道着が相応しいのでしょうが、この時代はスポーツチャンバラが誕生して10年と少しで黎明期に近いものでした統一感がない時代だったのです。
統一感が取れていないということは、それぞれの地域や個人間でバラつきがある時代でしたので――。
「浅い! 一本を取りません!」
と――なでたような一撃では一本を取ってくれない審判がおられたり、経験年数の上の審判がいれば判定が覆ってしまうことがままありました。
これを読まれた人の中には「そんな理不尽な」と思うでしょうが、当時の我々も同様な気持ちがあったり、悔しい思いをしたことがありましたが「そんなもんだ」と割り切りあったり、一種の諦めによる再スタートをしていました。
最近思うのですが、昔でしたらその場で流していたことだったり、時を重ねることで忘れたりすることが出来たのですが、現在はインターネット社会で自分の気持ちをSNSで容易に発信出来てしまう時代となりました。特にスマホの登場により、簡単に写真や動画を撮影出来るようになってしまったので所謂『バズる』や『炎上』というものが起きるようになりました。
それがいいか、悪いかは一先ず置いておいて、現代人はその場の感情を匿名を隠れ蓑にして爆発させることが多くなったような気がしないでもありません――と文化人気取りの感想はここまで。
「これより! 第○回スポーツチャンバラ選手権を始める!」
厳めしい声が会場を包みます。カジュアルな服装の道場もありますが、この時代は武道的な要素が強く一種の厳しさがありました。
今は多少なりともスポーツ的な要素が強くなり、穏やかで爽やかな雰囲気がありますが、我々がやっていたときは殺伐としたものがあります。
「上席に注目ッ!」
「上席に礼ッ!」
「休めッ!」
その声に合わせて、会場に設置されていた太鼓が鳴り響きます。今は多少なりともスポーツ的な要素が強くなり、穏やかで爽やかな雰囲気がありますが、我々がやっていたときは殺伐としたものがありました。
「解散ッ!」
協会会長、理事長の挨拶、来賓の紹介、審判の説明など重く太い声でのアナウンスが続き、会場は次第に緊張感に包まれた余韻を残して解散、つまり大会開始の合図です。
「小学生高学年の部の小太刀を始めますので、集まって下さい」
私の出場する種目は「小太刀」と「長剣」の二種目だけだった記憶があります。スポーツチャンバラは各得物ごとに種目があり、大会によって異なりますが自分が出たい種目に出場することが可能です。もちろん全ての種目に出場は出来ません。
大会によって、一人二種目だけだったり、この年代が出場できるのはこの部門だけ、と決まりがあります。私が最初に出場したのは「小太刀」の部門です。この頃は道着やおそろいのクラブTシャツを着用した人は殆ど少なく、運動着姿が多かったと記憶があります。
(緊張するなあ)
横一列で出場する出番を待つ私は座って、緊張を紛らわすために遠くの方で行われてる大人の試合を眺めておりました。
大人の部門は我々のような運動着姿ではなく、きちんと清潔感溢れる白い道着や黒騎士を連想させるような真っ黒な道着を着用する武道然とした服装をしており「面」だの「ヤア!」だの気合を出しながら攻防しております。
やはり、大人達の道着姿はカッコよく映るもので、私も早く着て見たいなと憧憬の念を抱いておりました――。
「次、出番だよ」
大会を手伝うスタッフに声をかけられました、いよいよ出番のようです。
試合の際は剣道のように、判定しやすいように赤や白に別れます。もうかなり昔のことなので、私が赤か白かは忘れました。
兎にも角にも、私は面を被り、これまで先生達に教えられたように試合場に一礼してから入ります。
「お互いに礼、構えて!」
主審の号令に合わせ、対戦相手に礼をしてから小太刀を正眼(剣を中段に置く基本の構え)に構えます。
「始めッ!」
試合開始。
私のスポーツチャンバラのデビュー戦が始まりました。