二代目が就任してから少しづつですが、稽古の激しさが増してきました。準備運動もそこそこに面打ちや
「これから
そして、今度行うのは『四方囲受』と呼ばれる防御の技の稽古です。これはスポーツチャンバラのディフェンステクニックである『
まずは『上囲い』。これは相手が面を打ち込んでくる際、剣を真横にして受け止める防御法です。行う際はしっかりと頭上の前方に突き出して受け止めないと、面が打たれる可能性があるので注意しましょう。
続いて『左胴囲い』。これは自分の左前方に剣を斜めに出しながら打ち止める防御法です。護る想定としては左側頭部、首、胸などです。
次に『右胴囲い』。左胴囲いが自分の左側を護るならば、こちらはその名の通り自分の右側を護る防御法です。同じく剣を斜めにしながら出して、相手の剣を受け止めます。護る想定としては胴、腰部です。
そして、最後は『下囲い』。剣を上囲いのように真横にして、突きや蹴りを払う、もしくは下からの斬り上げを受け止める防御法です。ここで『蹴り』からの防御と書かれていて不思議に思われるかもしれませんが、元来スポーツチャンバラは小太刀護身道を基にした護身術ですので、相手の蹴りといった格闘術も想定しています。
今でこそ禁止されていますが、短刀の競技には投げ技、蹴り技、捻り技などが認められていた時代があるくらい激しいときがありました。ダウンをすると一本を取られ試合が終わっていたようです。
私が昔の世界大会をビデオ(古い)で視聴したとき、ベトナムの選手が前蹴りを披露していた映像をよく覚えております。昔はそれくらい格闘性が高いのと同時に、スポーツチャンバラというカジュアルな名前に反して危険な時代があったのです。
「きちんと剣は前に出して止めて! 返して!」
私達道場生は周り稽古のように二人一組になり、四方囲受をしながら防御と返し技の反復練習を行います。このときの注意点ですが、剣で受け止めるときは前に出さないといけません。
そうしなければ、
一人が終わると二人目、二人目が終わると三人目、一周回り終えると次は『足さばき』の練習へと入ります。
スポーツチャンバラには引き足をしてかわす『引き足』、ボクシングのスウェーのように上体を後ろに引いてかわす『反りよけ』、胴打ちをかわす『胴引きよけ』、しゃがんで攻撃をかわす『伏せよけ』、足を挙げてかわす『足あげ』の五つの足さばき、防御法があります。
四方囲受の後は、その足さばきの練習が待ち受けており、こちらも一人二組となり順々に回っていきます。四方囲受、足さばき共に休憩なしのサーキットトレーニングの状態で自然と息が弾みます。自由に打ち合う模擬試合、打突はせずに延々と基本稽古を繰り返し、繰り返し鍛練していきました。
「はい、休憩が終わったら『受け』と『取り』に別れて周り稽古を行います」
お茶を飲んでの水分補給が終わると、今度は受け取りの攻防。
そして、受け取りが終わってから、やっと自由な打突が始まることになります。この受け取り、打突の手順は小太刀と長剣の二種目に分けて実施するわけです。
(し、しんどい……早く終わらないかな)
私は心の中で弱音を漏らします。
これが夏場になると猛烈な疲れと喉の渇きに襲われ、冬場は筋肉や皮膚の柔軟性が低下したり、血の循環が悪いために打たれると痛みが走るわけです。特にこの時代は、まだまだ芯の入った剣を稽古で使用しますのでたまったものではありませんでした。時代も時代でまだまだ激しい頃でしたので、頭や小手、足を激しく打ち込まれるので何度も嫌になったり、半べそをかいた記憶が残っております。
逃げ出したいときは何度もありましたが、それでも何故だかスポーツチャンバラ事態を嫌いになることはありません。きっと、この頃にはスポーツチャンバラという競技を愛するようになっていたのでしょう。
そして、火のような稽古――。
この厳しくも激しい稽古の繰り返しが、スポーツチャンバラの剣士としての技量を向上させ強くしてくれたのでした。