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第29話:ゴブリン退治(3)

 レオンたちはその後、数戦、ゴブリンたちと戦うことになった。戦士バーレがパーティの肉壁を務め、ニセ勇者(むっつりすけべ)レオンが雷魔法で次々とゴブリンを打ち倒す。


 その間隙を縫って、魔法使いミルキーが仲間もろともゴブリンを氷魔法で吹き飛ばす。


「ひゅぅ~! ゴブリンなんて、おれっちたちの相手じゃねえな! うごぁ!」

「おいおい、油断してるんじゃないぞ、バーレ。うごぁ!」

「うひゃぁ! ごめんなさーい!」


 そして、僧侶エクレアがバーレとレオンを回復魔法で癒す。


 完璧ともいえる戦術だった。しかし、ひとつだけ、このコンビネーションには欠点があった。魔法の源であるマジックパワー、略してMPの消費が激しいことである。


 レオンは自分の雷魔法で自分の剣を破壊した。それによって、雷魔法に頼りきりになっている。


 さらにはエクレアもミルキーの魔法攻撃によってダメージを受けたバーレとレオンを回復魔法で治療している。


 戦えば戦うほど、MP消費が激しくなっていく。そのMPを回復させるべく、休憩に入るレオンたちだった。


「どうしたもんかな。ゴブリンの巣につく前にこちらの戦力を維持できるか、微妙だぞ」


 バーレが携帯食である干肉のブロックを噛みちぎり、それをもぐもぐと食べながら、隣に立つレオンに問うた。


 レオンはMP回復用のペロペロキャンディを舌で舐め回しながら、ミルキーたち女性陣の方に顔を向ける。女性陣はリスのように口の中で飴玉を転がしている真っ最中だった。


「ミルキー。MP回復用の飴はあといくつ残ってる?」

「私は誤射しちゃうことが多いから、50個入りの大入り袋を携帯してるわ」

「50個!? どんだけ、いつも誤射してるの!?」

「う、うるさい! 好きで誤射してるわけじゃないもーん!」


 ミルキーは3回に2回は味方に誤射する。言うなれば、1回の戦闘だけで、常人の3倍のMPを消費していることになる。


 それでも、MPが枯渇しないということは、彼女の魔法の才能がとんでもなく高いことを示している。


(もったいなさすぎる……これで命中率が100%近くあれば、ミルキーは一線級の実力者なんだけどな)


 ミルキーが腰袋に手を突っ込み、そこから飴玉を取り出す。それを口の中へと放り込み、笑顔でころころと喉を鳴らしている。


 ミルキーの口の中には3つの飴玉が踊っているようだ。その証拠として、リスの顔そのままになっている彼女だった。


 ミルキーの仕草は可愛いの一言に尽きるのだが、いかんせん、回復させた魔力の3分の2は、こちらへのダメージに変換される。


 やがて、レオンは考えることをやめた……。


◆ ◆ ◆


 それからまたしてもゴブリンと対峙することになったレオンたちであった。こちらの実力も相手に知れ渡っているのか、ゴブリンは戦う前から逃げ腰だ。


「おらぁ! レオン様のお通りだー!」

「ごふぅ!?」


 ゴブリンたちは面食らった顔になった。そこにすかさず、レオンは雷弾を叩き込んだ。1匹倒された途端、残りのゴブリンたちはこの場からさっさと逃げ出してしまった。


「ふんっ。他愛もない」


 レオンは鼻を高くして、腰に手を当てて踏ん反り返った。そんなレオンの近くにバーレが近寄ってきた。


「レオン、あいつらの後を追っかけようぜ。巣まで案内してもらおう」

「あーーー、なるほど。バーレ、賢いな?」

「お前よりかは遥かにな?」

「うるせー! 俺がアホやってるのは擬態だっつーの!」

「じゃあ、1+2+3X4は?」

「ん、24だろ」

「はいはい。お前の賢さはわかった」


 バーレはにやにやとした顔のまま、先に行ってしまう。レオンは首を傾げた。隣を歩くミルキーに自分の答えが合っているかどうか尋ねてみた。


「15よ」

「え?」


 ミルキーの答えに納得がいかず、今度はエクレアの方を見た。エクレアが瓶底メガネをクィと直す。


「15です、勇者様」

「え? なんで?」

「先に乗算からです。よくあるひっかけですね」

「ああーーー! バーレめっ!」


 レオンは汚名返上のためにも、もう1問出してもらおうと、バーレに急いで近づいた。だが、こちらが何かを言う前にバーレがこちらに振り向いてきて、唇に人差し指を当てたポーズを取ってきた。


 それに合わせて、こちらも声を潜め、さらには身体を屈めた。後ろにいたミルキーたちも静かにこちらに合流した。


 バーレが目の前の茂みを手でそっと横にずらしてくれる。茂みの隙間から向こう側を確認した。2匹のゴブリンが巣と思わしき洞窟の入り口にたむろしているのが見えた。


「ビンゴー。レオン、どうする?」

「決まってる。先制攻撃だろっ」

「よし、それで行こう」

「ミルキー行きますっ! アイス・ボール!」


 ミルキーが茂みから、いの一番で飛び出した。すでに彼女の頭上には大きな氷塊が浮かんでいた。それを2匹のゴブリンに向かって、勢いよく放つ。


 ゴブリンたちは「ごぶぅーーー!」と叫びながら、森の奥へと飛んでいった。


「えっ!? ミルキーさん!? なんでー!?」

「えっ!? 攻撃していいって……」

「そこは俺とバーレに華をもたせてくれるところじゃないの!?」

「そういうものなの?」


 ミルキーがきょとんとした顔つきになっている。こちらとしては、ミルキーの攻撃魔法がこちらに飛んでこなかっただけでもラッキーと言えた。


 そして、結果オーライという言葉もある。レオンは開いた善行スクリーンを見ながら、ミルキーになんと声をかけるのが正解なのかを思案した。


A:よくやった。次も頼むぞ:☆

B:そこは俺かバーレに命中させるとこだぞ:☆☆☆

C:俺が言いたいのは、ミルキーが怪我をすると思ってのことだ。ひとりで突っ込むのは感心しない。


(……女神様。Bを推してるけど、これ、次は俺たちが被害を喰らうのが確定になっちまうってことじゃないですかー!)


 レオンは2秒だけ考え込む。きっと、何か意味があってのB推しのはずだと期待した。レオンはBを選び、ミルキーに声をかけた。


「そ、そう? 私の魔法に巻き込まれるのは嫌じゃないの?」

「むしろ、喜ばしいことだ。俺はドMだからな。バーレもそうだろ?」

「ああ、俺もレオンと同じくドMだ。どんと誤射してくれっ!」

「もう……二人とも、私を勇気づけようとしてくれてるんだね、ありがとうっ! 気にせず、魔法を使うねっ!」


 バーレがこちらの肩にポンと手を乗せて、さらにサムズアップしてきた。こちらもサムズアップして答える。


(女神様は俺を正しく導いてくれる。ありがとうございます。でも、俺は喰らいたくないんで、バーレを盾にしますね!)


 なにはともあれ、洞窟の入り口を守っていたと思わしき2匹のゴブリンはあっさりと退治した。このまま、全員で洞窟の中へとはいる。


 洞窟へと一歩、足を踏み入れる。洞窟の入り口からその先は真っ暗闇だった。ゴブリン特有の獣臭さが暗闇の奥から漂ってくる。


 この暗闇の先にあるのがゴブリンたちの巣であることは間違いないと思えた。バーレが虚空に手を当て、その先から携帯型のランタンを取り出してくれた。


「レオン、お前は手ぶらだから、ランタンを持ってくれ」

「おう。好きでこんな格好じゃないけどなっ!」

「本当にその通りだぜ。パンツ一丁にマントを纏うだけの姿で、来る場所じゃないんだよな」

「次はスーツ姿でばっちりと決めてやるさ」

「スーツよりもチンドン屋の恰好のほうが似合っていると思うぜ?」

「モンスターが寄ってきちまうわ!」


 ランタンをバーレから受け取り、その上蓋を時計回りに捻ると光りがあふれ出した。バーレがこくりと頷き、パーティの先頭を歩く。


 レオンはバーレの右斜め後ろだ。ランタンをかざしながら、バーレの前方を照らす。ミルキーとエクレアはレオンのすぐ後ろにぴったりとついてきた。


 5分ほど、苔むした緩やかな坂道を注意して進んでいく。するとだ、洞窟の中とは思えないほどの広い空間に繋がっていた。


 その空間はランタンで照らす必要もないほど、洞窟内だというのに明るかった。レオンは「ほえ~~~」と呑気な声を出しながら、この空間をまじまじと見た。


 空間の上部から不思議な光が降りてきており、それが空間を満たしている。その光に照らされて、洞窟内に生える木々が活き活きとしているのが伝わってくる。


「なんで、洞窟にこんな空間が広がってるんだ? しかも洞窟なのにジャングルが広がってるんだけどぉ!」

「洞窟っていうより領域化してるな」

「どういうこと?」

「どういうことって……」


 バーレがぼりぼりと頭を掻いている。説明するのも面倒だという雰囲気だ。レオンはキョトンとした顔つきになりながら首を傾げる。すると、後ろからミルキーが声をかけてくれた。


「もしかして……領域化を知らないってことないよね? 冒険者教習学校で習ったでしょ」

「ん? 俺、学校、行ってない」


 バーレが腰砕けとなる。ミルキーが「あはは……」と力なく笑っている。エクレアは瓶底メガネがずれ落ちて傾いている。


「もしかして、俺、常識知らず!?」

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