レオンは気を取り直す。キリっとした顔つきで、バーレに言い返す。
「ウンコのついでに移動魔法であの洞窟へと飛んでいって、ゴブリンを一匹残らずを駆逐してきた」
「はぁ!? ウンコのついでレベルでゴブリンの巣を潰してきたって、どういうこと!? しかも、ひとりで!?」
「ふっ……ウンコする方が難しいレベルだったぜ? エクレアが描いてくれた聖なる魔法陣に自分の雷魔法を乗せてきた」
「で、どうなったの?」
「大爆発した。肥溜めに火をつけたレベルの100倍だっ! ゴブリンたちは洞窟の崩落に巻き込まれていったぞ! ぐぅ……俺は悪くねえっ! あいつらに同情なんかしないんだからねっ」
バーレはあちゃぁ! と天井を仰ぐ。ミルキーはキラキラとした目でこちらを見つめてくる。エクレアはクネクネと身体をよじらせている。
エクレアが性的に興奮しているのは聞かなくてもわかる……。
(ふっ。ツライ。そうじゃなくて、なんとなく察して慰めてほしい)
レオンがそう思っていると、恥ずかしそうに身体をくねらせながらエクレアがぴったりとくっついてきた。僧侶服越しに大きなおっぱいの谷間に右腕を沈めさせてくれる。
「がんばったあたしだけの勇者様にご褒美です……」
「うおおお! がんばった甲斐があった! 女神様、ありがとうございます!」
・女神からのコメント:報酬はこれだけではないわよっ! さあ、受け取りなさいっ!
(えっ? まじですか!? これ以上だと、俺、イッちゃいますよ!?)
レオンは驚きの表情になりながら、善行スクリーンを見ていた。すると、ちょんちょんと指で肩を触られた。
そうしてくる相手の方に顔を向ける。受付のお姉さんがこちらへとウインクしてくれて、さらにパンフレットと冊子を渡してくれる。
「これ、良かったら、あげるわよ」
「何です、これ?」
「ふふっ。開いてからのお楽しみっ」
「どれどれ……うひょぉ!」
受付のお姉さんが手渡してきたのは冒険者パンフレットとピンナップ原本だった。その冊子には受付のお姉さんたちの水着イラストが描かれていた。
女神からのコメント:ニセ勇者レオンはエッチな本をゲットした!
(うひゃぁぁぁ! 女神様、ありがとうございます! でも……女神様の水着姿も見たい……です!)
女神からのコメント:じゃあ、三種の神器のひとつを手に入れられたら、ご褒美にそれをあげるわよ♪
レオンはやる気を100倍にした!
パンツの前部分がもっこりとふくらみ、レオンの愚息もやる気100倍となった!
パンツの膨らみに一瞬だけだが、視線を感じてしまう。どういうことだと視線を感じた方へと顔を向けてみた。
ミルキーとエクレアたちと視線が合ってしまった……。彼女たちは驚きの表情となり、次の瞬間には急いで、顔を背けてしまう。彼女たちの顔は赤くなっている……。
(静まれ、我が愚息! 女性陣を前にして、勃起するんじゃない!)
レオンは急いでトイレの個室へと駆け込んだ!
◆ ◆ ◆
レオンはトイレで昂る気持ちと愚息を静めた後、もう一度、受付のカウンターへと戻ってくる。
カウンターの上には膨らんだ革袋がドスンと置かれていた。それを見て、目をキラキラと輝かせてしまった。
ゴブリンの巣を潰したことによる報奨金であることは一目瞭然であった。カウンター前であるというのに興奮で盛り上がってしまった。
特に戦士バーレと僧侶エクレアはハイタッチしている。そんな大はしゃぎの中、魔法使いミルキーは浮かない表情である。
ミルキーの顔を見ていると、失礼ながら、こちらは訝しげな表情になってしまうしかなかった。
「私、あんまり活躍できなかったな」
「おいおい。活躍してただろうが。まあ3回に2回は俺とバーレに魔法がぶち当たったけど」
「こんなんじゃダメ! 私も皆の役に立ちたい! 命中率をあげたいっ!」
「命中率に関しては……問題ない気がしますけどぉ? しっかりミルキーの魔法をぶち当てられたし」
「うぅ……そうじゃなくてっ。敵に当てたいの、私は」
ミルキーの言う通りであった。敵に当てるという意味であれば、ミルキーの魔法の命中率は3分の1しかない。
顎に指を当てつつ「ふむっ」と息をつく。どうすれば、ミルキーの敵への攻撃回数が増えるのかを真面目に考えてみた。
(俺はイメージが大事派なんだよな。それに比べて、ミルキーは真面目派だ。きっちり、計算したうえで、俺やバーレに魔法を当てる……。ん、ちょっと待て。どういうこと!?)
考えれば考えるほど、わからなくなってきた。良い案なんぞ、まったく浮かばない。レオンは直感タイプだ。魔法の目測も直感で決めている。
ミルキーとはタイプが違う。だからこそ、助言らしい助言などできるはずもない。そして、ここは安パイな台詞でごまかすことにした。
「応援するぞ!」
・女神からのコメント:いくらなんでも適当すぎない?
(ツッコミはやめてください?)
レオンは善行スクリーンから目を背け、しっかりとミルキーを見つめた。彼女は口をもごもごさせている。さらにはうつむき加減になって、指をモジモジさせている。
(あっ察し)
レオンはこの時、すでに大失敗していた。オダーニ村のマグリ村長が口酸っぱく言っていたことを思い出す。都会の女性に簡単に気を許してはいけないのだ。
レオンはこの場から逃げ出そうとした。だが、両肩にガシッとミルキーの手が置かれてしまった。
おねだりする気満々の女性からは逃げられない!
すでにレオンは退路を断たれていた!
「あの……そのね。私ってすぐにテンパっちゃうの。それが原因だって分析できてるの」
「えらい! 自分を冷静に見れるってのは才能だ! その才能を伸ばそう!」
「ううん……私はそっちの才能よりも自信をつけたいかなっ!」
「そ、そうかっ。自信かっ! 俺みたいに根拠がなくても自信満々になる方法を伝授するぞ!」
口から出まかせを言っている自信は十分にあった。この自信を分け与えたい。未だにこちらの肩へと手を置いて、自分を逃がすつもりがまったくないミルキーをどうにか諦めさせたい。
そうしなければ、ゴブリン退治の報奨金で、パンツ一丁の姿から卒業することは出来なくなってしまう。
だが、そんな思惑など無駄無駄無駄と言いたげにミルキーがにっこりとほほ笑んできた。先ほどまでの憂い顔など、どこかへすっ飛んで行ってしまっている。
「私は根拠が欲しいタイプニャン♪」
(助けて、女神様!)
レオンの気持ちが通じたのか、いつものように善行スクリーンが開いた。
A:いいか? 自信ってのは経験を積むことだ。物に頼るんじゃない。
B:何か買いたいものがあるのか?:☆☆☆
C:おじさんがいいもの買ってあげるよー? なんでも言ってこらん?:★★★
(どうする? いつもの俺ならAを選ぶ。でもだっ! Bを選べば、ミルキーとの距離はグッと縮まる!)
これ以上、考える必要はなかった。エクレア・トゥルーエンドルートではなく、おねだりミルキールートを選んだ。
「何か買いたいものがあるのか?」
「うん……買いたいというか、買ってほしいニャン♪」
汗がタラリと流れた。こめかみから頬、さらには顎の先から雫となって、床にポツンと落ちた。自分とミルキーの間に静寂が訪れた……。
そんな窮地のレオンを救うように、さらに善行スクリーンが開いた
A:今更だが聞かなかったふりをしろ:☆☆☆★★★
B:自分が相談に乗れるなら……。
迷った。Aが絶対的に正しいのであろう。
だが、勇者ならば逃げてはいけない。善行ガイドブックの第3条には「勇敢さ:危険や困難に立ち向かう力を持つ」と書かれている。
困難に立ち向かってこそ、勇者なのだ!
◆ ◆ ◆
「レオンさん、こっちこっち!」
「お、おう! そんなにはしゃがなくても……」
冒険者ギルドから外に出た後、レオンはミルキーに手を引っ張られて、魔道具ショップの前まで連行された。
そこまでの道中、後ろをついてくるバーレとエクレアへとちょいちょい顔を向けたが、彼らは自分を助けてくれるような様子を見せてくれない。
バーレたちは明らかに「こいつ、やらかしやがって」という表情になっている。それでも仲間との絆を信じた。どこかのタイミングで助けてくれるはずだと、そう強く願った。
そうこうしているうちに、ミルキーの足は魔法の杖が並ぶコーナーで止まった。彼女は顔を上下左右に振っている。せわしないことこの上ない。
そんなミルキーであったが、お目当ての品が見つかったのか、ホッと胸を撫でおろしている。そうした後、こちらに顔を向けてきた。彼女の顔はほんのり赤くなっている。
(くそっ! 可愛い顔しやがって! チュゥしたくなっちまう!)
オダーニ村で生活していた時は、ミルキーレベルでおねだりしてくるような女性はいなかった。
しかし、都会の女は違った。こういう場合において、彼女たちは全力で愛嬌を振りまいてきやがった。
「ねえ……この杖、前々から欲しかったんだ」
ミルキーの目が潤んでいる。彼女の碧眼から目を逸らすこと自体が罰のように思えてしまう。
ミルキーは金髪ツインテールで碧眼だ。もうこれだけで、卑怯だと言ってやりたくなってしまう。
「どれどれ……うわっ、良い杖だ」
「でしょ? これが欲しいニャン♪」
ミルキーに促されて、自分もその魔法の杖を見た。ミルキーが今まで使っていたのは指揮棒タイプのいわゆるワンドだった。
だが、今回、見せられた魔法の杖は先端に宝石がついた棍棒タイプであった。さらに杖の値札をちらりと見た。
(30万ゴリアテ……正直言って、高い)
助けてもらおうと仲間の方を見た。バーレはジト目。エクレアはゴミを見るような目だった。
彼らから視線を外す。次に善行スクリーンに視線を移した
A:腹くくれアホが:☆☆☆
B:退路はすでにない:★★★
C:自分で蒔いた種は自分で刈り取れ。
(ですよねー)