男らしく腹をくくった。ミルキーが杖を手にして、会計へと向かう。カウンターを前にして、彼女のすぐ横に立ち、お会計皿に金貨3枚をゆっくりと1枚づつ、惜しむように乗せた。
店員さんが「毎度ありっ! またのご利用をっ!」と朗らかに言ってくれた。しかし、それでも気持ちは沈んでいく一方だ。
(あーーー。しばらく、ふりかけご飯だよぉ。依頼の報酬でお肉を腹いっぱい食べたかったのに……)
気落ちして、とぼとぼと歩く。そうだというのにミルキーはとっても嬉しそうだ。スキップスキップランランラン♪ と、こちらにも陽気な雰囲気が伝わってくる。
「レオンさん、ありがとう!」
不意打ちであった。ミルキーが抱き着いてきた。石鹸の香りがふんわりとこちらを包んでくれる。
それだけではない。ミルキーのおっぱいの感触が彼女のチェニック越しから伝わってくる。
(あったけぇ……。柔らかい……。良い匂いっ! うひぃ! 善行って最高だぁぁぁ!)
チェニックとローブに隠れてわかりにくいが、ミルキーはこう見えてけっこう大きい。確かな柔らかさと弾力を感じてしまう。
愚息が思いっ切り勃起してしまった。ご立派な主張をしている愚息がパンツ越しにミルキーのお腹部分に当たってしまった……。
ミルキーは「ん?」と不思議そうな顔をして、視線を下に向けてきた。
その途端、ミルキーは顔から火が噴きそうなほどに真っ赤になってしまい、こちらから距離を取ってきた。
あちらへと身体を向けたミルキーが急ぎ足で、宿屋に向かっていってしまう……。
(くそぉ! 俺の身体の一部なのに、なんで言うことを聞いてくれないんですかぁ!)
悔しい気持ちを抱えながら、ミルキーの後ろ姿を見る。すると、目の前に善行スクリーンが立ち上がった。そのスクリーンで獲得した善行ポイントを確認した。
・今回、貴方が獲得した善行は4ポイントです。
・これまでの蓄積は-100ポイントです。
・女神からのコメント:ゴブリン退治に、ミルキーへのプレゼント、それと色々を加味した結果を示しておくわねっ。
(……え? 4ポイントしか増えてないんだけど!? もっとポイントをくださいよぉ!?)
レオンとしては善行しまくった気がした。ゴブリンクイーンを退治したときは70ポイントももらえたというのに、その後に関してはたった4ポイントだ。納得いくはずがない。
眉間に皺を寄せながら4ポイントしかもらえなかった理由を考えた。
・女神からのコメント:ゴブリン駆逐で+40ポイント。受付のお姉さん、エクレア、ミルキーからのご褒美で-36ポイント。納得できた?
(あーーー、なるほど。善行ポイントと引き換えにご褒美が与えられたってことか。納得しました。女神様、疑ってごめんなさぁい!)
改めて、善行ポイントを貯めることは良いことだと気付かされた。見返りのすけべイベントをしっかりと女神が与えてくれる。
(もっとだ……もっと善行ポイントを貯めよう! すけべイベントのために!)
気を取り直したレオンの足取りは軽やかであった。しかし、そんなレオンの足元にバナナの皮が落ちていた。
レオンはそのことに気付かずに、思いっ切り右足でそのバナナの皮を踏んでしまった。レオンはその場で3回転して、後頭部から石畳へと着地してしまう」
「ぐぁぁぁ!? いってぇ!」
白と黒の色が交互に入れ替わる中、レオンの頭の中に映像が流れだす。
◆ ◆ ◆
「レオン、ありがとうね。おかげで賢者に転職できたっ」
「$%▼。俺は何もしてないよ。ただ妖しい踊りを踊ってただけだぜ?」
「それでも助かったわ。ねぇ……賢者になれたら、新しい杖を買ってくれるって約束、覚えてる?」
「も、もちろん! ダッチ、セルベンス、お金貸して!」
「お前さあ……ひとの財布をあてにしてんじゃねえよ……」
筋肉隆々の戦士が肩をすくめている。そんな戦士に対して、男僧侶が「まあまあ……」と肩に手を置いている。
最高の金借り仲間たちだと思えた……。
◆ ◆ ◆
(……まただ。何の映像なんだ? 魔王、教えてくれ。これは誰の記憶なんだ?)
レオンは意識が混濁していることを自覚した。どうにかして脳内に流れてきた映像の正体を探りたかった。だが、これ以上の情報を得られることはなかった。
「おいおい、何やってんだ……」
ずっこけて後頭部を打った自分を後ろから近付いてきたバーレが介抱してくれる。まだ目がチカチカしていた。
頭を左右に振りながら、バーレに肩を貸してもらい、その場で立ち上がる。その態勢のまま、バーレとともに宿屋へ向かう。
頭を強く打ったので、今日は安静にしておくようにと、道すがら回復魔法をかけてくれたエクレアにそう助言された。
宿屋に着いた後、バーレにベッドの上へと放り投げられた。バーレはさっさと部屋から退出していく。
部屋に残ってくれたのはエクレアだけである。エクレアはベッドの横に椅子を移動させて、そこに着席し、自分を介抱してくれている。
「ありがとう、エクレア。もう大丈夫だから」
「いけません。大事を見て、あたしが一生、お世話してさしあげます」
「いや! だから、そういうのが嫌だから、大丈夫って言ってるの!」
「ひどい! そんなに邪険にしなくてもいいじゃないですか!」
「俺が寝ているうちにいやらしいことをする気なんでしょ?」
「……黙秘させてもらいます」
「ほらーーー! やっぱりそうじゃーーーん!」
介抱してもらえること自体はありがたいが、丁重に一生お世話してもらうことを断った。部屋から退出していくエクレアは「くぅ……」と悔しそうにしていた。
(悪い、エクレア……俺、初めてはミルキーがいいの。ミルキーだったら、そういう関係になっても、俺に重すぎる感情をぶつけてこなさそうだからっ!)
宿屋の一室で、ようやくひとりになれたレオンは考えごとをしていた。仲間たちとのゴブリン退治やその後の仲間とのやりとりを思い出す。
すると、自然と顔がにやけてきた。
「いろいろあったけど、良い仲間に恵まれたな、俺。女神様、ありがとうございます。そして、おやすみなさい……」
長いようで短い1日が終わろうとしていた。レオンはエクレアに言われたように、ベッドの上で安静にしていた……。
そして、陽が沈み、また昇る。新しい1日が始まろうとしていた。レオンはベッドから跳ね上がるように起き上がる。
頭痛はすっかり消えていた。気分は上々だ。ベッドの上で腰に手を当てつつ、仁王立ちして見せる。股間の愚息も朝から元気に勃起している。
「体調よしっ! 愚息も元気いっぱい! さっそく朝の清掃活動にいきますかっ! 次のすけべイベントのために善行ポイントをしっかり溜めておかないとなっ!」