くノ一からもたらされた情報をレオンは精査するために仲間たちとともに冒険者ギルドへと向かっていた。
レオンは三種の神器を集めなければならない。そのうちのひとつ、竜皇の珠玉を持つ竜皇に関して、リゼルの街にある冒険者ギルドがその情報を秘匿していると言われた。
(なんで隠す必要があるんだ? 竜皇とリゼルの街はどこかで繋がっている?)
探りを入れなければならない。そのついでに受付のお姉さんの正確な3サイズも聞きたい。
レオンは内なる野望を秘めて、仲間たちと冒険者ギルドのカウンターの前に勢ぞろいした。
「あれ? 今日も依頼を受けてくれるの?」
「はいっ! お姉さんの得点を稼ぎたいのでっ!」
「うふふっ。ほんとレオンくんは可愛いわねっ。じゃあ、この依頼を受けてみない?」
受付のお姉さんから提示された依頼は3つ。
ひとつは「荷物をセントラル・センターへと運んでほしい」というものだ。よくあるお使いクエストだ。
レオンたちはその依頼を快諾する。ふたつ目の依頼はリゼルの街近くにある村に寄って、情報収集してほしいとのことだった。
「情報収集? どういうことを調べればいいんですか?」
「んっと……詳しくは言えないんだけど、近々、大型モンスターが飛来してくる可能性があるの。その村では観測所があってね?」
(あっ察し。大型モンスターって竜皇のことだな?)
レオンは黙って、受付のお姉さんの説明を聞いた。その観測所で大型モンスターの観測データを受け取ってきてほしいとのことであった。
大きな街道から少し離れた丘上の村が観測所となっているという話だった。途中までは乗合馬車で行けるが、その後は徒歩になるとのことであった。
「ごめんねー。こんなこと、冒険者ギルドの職員がやるべきなんだけどぉ」
「事情があるんですね? 俺が受付のお姉さんの3サイズをそれとなく知りたいって感じの」
「そうそう。ん? 今、何か言った?」
「いえ! 聞き違いだと思います!」
危なかった。それとなく……という予定であったのに、直接、聞こうとしてしまった。これだから、むっつりすけべで、かつ、童貞野郎の自分はダメなのだと思えてしまう。
受付のお姉さんから問い詰められる前に、こちらから口を開き、上手くごまかしに入った。
「いろいろと忙しいんですよね?」
「そうそう。大型モンスターの飛来に合わせて、てんやわんやなの。あたしの3サイズをレオンくんに教えてる時間が取れないわぁ」
「ぐっ! なんて迷惑なモンスターなんだ! って、蒸し返すのやめてくださいよぉ!」
「もうっ、本当に可愛いわねっ」
お姉さんがカウンター越しにこちらの頬を指でつんつんとつついてくれる。こちらはデレデレな表情になってしまう。
背中にはギリギリと歯ぎしりしているエクレアの視線を感じた。後ろを決して振り向くことができない。
「お姉ちゃん! あたしの勇者様を堕落させないでっ!」
「はいはい。エクレアはお子ちゃまなんだからっ。そこはあたしの魅力で落としてみせるって意気込みなさい?」
エクレアが受付のお姉さんにたしなめられていた。お姉さんは余裕たっぷりだ。さすがは大人の女性であると感心してしまうしかない。
エクレアたちから視線を移動させた。今、目に映るのは別の受付のお姉さんから木箱を受け取っているバーレの姿であった。
縦横高さともに同じであり、ちょうどスイカ1個がまるまる入りそうなほどの大きさの木箱であった。
戦士バーレが重たそうにその木箱を抱えている。バーレでも四苦八苦しそうな重さであることは見ているだけでわかる。
ここはバーレに任せるのが正解だと思えた。それゆえに視線をもう一度、受付のお姉さんの方へと向けた。
お姉さんはにっこりとほほ笑み、最後の3つ目の依頼内容を教えてくれた。
「へぇ……大きな街道沿いに最近、盗賊が現れるようになったと」
「うん。それで荷馬車の護衛の依頼が出ててね? 頼まれてくれる?」
「はい、喜んで! 報酬はお姉さんの3サイズでお願いしますっ!」
「あら、そんなことでいいの? じゃあ、もうひとつ依頼を受けてもらえる? 報酬はあたしが履いてるショーツの情報」
「むむっ。そこは情報じゃなくて、ショーツそのものをもらえるほうが圧倒的に嬉しいんですけどぉ!」
「ダメよー。それじゃ、あたしがノーパンで働くことになっちゃうじゃないっ」
「うひぃ! ノーパンで働くお姉さま! 想像するだけで、ぐぼぉ!」
「勇者様。勃起する前に折っておきますね?」
エクレアが分厚い聖書で、こちらの股間を下から勢いよく、突き上げてくれた。それによって、むくむくと反応し始めていた愚息は無理矢理にへし曲げられてしまった。
さらには痛みに堪えきれず、よろよろと身体をふらつかせてしまった。木箱を重そうに持っているバーレに身体をぶつけてしまう。
そして、左手が自然と木箱の側面へと触れた。その途端、レオンの脳内にドス黒い感情が駆け巡った。
「ぐぁ! 俺の左手がうずく! この世界の全てを壊せと訴えかけてくる!」
「お、おい。大丈夫かっ!?」
バーレが木箱を床の上に置いて、四つん這いになっている自分を介抱してくれた。「はぁはぁぜぇぜぇ」と呼吸を落ち着かせながら、バーレに肩を貸してもらい、その場で立ち上がる。
流れ落ちてきた顔の汗を手で拭う。息を整えながら、身体を折り曲げて、床に置かれた木箱へと恐る恐る近づいた。
木箱の蓋に手をかける。ゴクリ……と息を飲む。先ほどとは違い、今は左手は落ち着いている。
「レオンくん。ダメよ。依頼主からは中身を見てはいけないって注意されてるの」
「えっ。それって見てくださいってことじゃないんですか?」
「なんで、そう受け取るかな?」
「そんなの振りに決まっているからです!」
こうは言ってみたが、お姉さんからは箱の中身を見たら、報酬は支払われないと依頼主からそう言われていると聞かされた。
逡巡してしまう。しかし、直感が囁く。1秒でも早く、この木箱の中身を確かめなくてはならない気がしてたまらない。
そして、自分の行為を後押ししてくれるかのように目の前に善行スクリーンが展開された。
A:依頼主の約束通り、中身を見ない。
B:中身を見る前に雷魔法で破壊する:★★★
C:中身を盗む:☆☆☆
選んだのはもちろん女神様からお勧めされているCだ。盗みは善行からほど遠い選択であるが、女神様からお勧めされている以上、許してもらえる行為であることは間違いない。
ちなみに魔王のお勧めは危険すぎる気がした。嫌な予感をひしひしと感じていたからだ。
ゆっくりと注意深く、木箱の蓋を取り外す……。中身を確認した。後悔した……。
「Oh……MY女神様ぁぁぁ!」
木箱の中身を見た途端、フラッシュバックが起きて、記憶が蘇った……。
◆ ◆ ◆
3人の仲間たちとともに真っ黒な物体を前にして、思案に暮れていた。男僧侶が苦々しい表情になりながら、真っ黒な物体を非難している。
「なんということをっ! 魔導爆弾ですよ、これはっ! 奴らの親玉でもこんな手を打ちません!」
「まじかよ! この国の最重要拠点を四天王に占拠されているからって、王国はその場所ごと、吹き飛ばそうとしているってこと!?」
「レオン殿、その通りです! これは非道すぎます!」
「じゃ、じゃあ、俺が怪しい踊りで、どうにかするぜ!?」
「落ち着きなさい! 貴方が混乱してどうするんですか! $%▼殿、ダッチ殿! レオンを正気に戻してください!」
自分は慌てふためきながら、魔導爆弾相手に妖しい踊りを披露しまくっていた……。混乱している自分を仲間たちがタコ殴りしてきた。
それによってどうにか、正気を取り戻した自分であった……。
◆ ◆ ◆
「そうだ! これは魔導爆弾だ!」
「ば……く……だん? えっ? レオン、マジで言ってる?」
「バーレ、マジだって! さすがにこんな時にギャグは言わねえよっ!」
「嘘……だろ!? ねえ、レオン! 嘘だって言ってくれよ!」
「俺も嘘だって言いたいわいっ! やばいよ、やばいよ。このサイズならリゼルの街が吹き飛んじゃうのぉぉぉ!」
「いやーーー! 勇者様と結婚する前に死んじゃうのはいやーーー!」
冒険者ギルド内はひっくり返したように大騒ぎとなっていた。
冒険者ギルドの外へと逃げ出だそうとするミルキー、その場で泣き崩れるエクレア、どさくさに紛れてエクレアの胸へと手を回して、でっかいおっぱいの感触を堪能しつつ、彼女を起き上がらせるバーレ。
だが、レオンだけは冷静であった。蘇った記憶のおかげで、魔導爆弾をどう処理すればいいのかというイメージがくっきりと脳内に浮かんでいた。
「ミルキー。俺と一緒に来てくれっ」
「ええーーー!? 私も逃げたいんだけどぉ!」
「そこをなんとかっ! 何か買ってあげるからっ!」
「じゃあ……魔法の指輪が欲しいニャン♪」
「もってけ泥棒! 移動魔法ランラン・ルー!」
レオンに残されている時間はなかった。蓋を開けたと同時にタイマーが起動していた。秒針のみの時計が進んでいく。
ミルキーの身体に右腕を回し、空いた左手を木箱の側面に当てた。さらには移動魔法ランラン・ルーを唱える。
光の円柱がレオンとミルキーを包み込む。一瞬でレオンとミルキーの姿は冒険者ギルドから消えた。
レオンたちが次に姿を現した場所は数日前に討伐完了した元ゴブリンの巣となっていた洞窟前だった……。