「不審者だーーー!」
「出会え出会え! パンツ一丁の猥褻物陳列罪未遂者が現れたぞーーー!」
レオンはミルキーとともに衛兵たちに取り囲まれた。彼女の実家は広すぎる庭園付きの優美な屋敷だった。
だが、レオンのパンツ一丁でマントを翻す姿を見るなり、衛兵たちがこちらに槍の穂先を向けてきた。
レオンは念のため、善行スクリーンを開く
A:やってよし:☆☆☆☆☆
B:骨も残すな、蹴散らせ:★★★
女神と魔王からのお墨付きをもらったので、左手から黒い雷を放った。もちろん、直接、当ててはいない。
美しい庭園に生える草木ごと、レオンたちを取り囲んでいた衛兵たちが宙を舞った。レオンはククッ! と不敵な笑みを浮かべた。
「ひぇぇぇ!」
「安心しろ、みね打ちだっ!」
地面に背中から着地した衛兵たちが我先とばかりに、任務を放棄して、その場から逃げ出していく。彼らの背中に向かって、左手が自然と向いていく。
(おっと。魔王、お前の好きなようにはさせないぜ?)
レオンは右手で左手を抑えつける。破壊衝動が左腕を中心にして湧き上がったが、今のレオンは至って冷静だ。魔王の力を完全にコントロール下に置いていた。
「んじゃ、前菜代わりの衛兵をぶっ倒したし、次は屋敷をぶっ壊しちゃっていい?」
「レオンさん、屋敷の左側を壊してね」
「なんで?」
「右側にパパと私の部屋があるの。左側は継母と義妹の部屋よ」
「OK、把握した。ライトニング・メガ・キャノン!」
レオンが左手を前へと突き出す。その左手の前に真っ黒な雷球が出現した。レオンはまったく躊躇せずに、その雷球を発射した。
黒々とした雷球が屋敷の左側へとすっ飛んでいく。ガラガラドッシャーン! という音が響き渡ると同時に、立派な屋敷は半壊してしまった。
ミルキーの手を強引に引いて、屋敷へと乗り込む。瓦礫を前にして、踏ん反り返る。すると、衛兵が再び現れた。その衛兵の中心には2人の女性がいた。
豪奢なドレスはボロボロになり、身につけていたであろう装飾品の数々が吹き飛んだ哀れな女たちである。
「なんザマス! いきなり攻撃を仕掛けてくるとは、ここをどこだと思っているザマス!」
「お母さま! あの女を見て! ミルキーよ! ミルキーが恩知らずにも、わたくしたちに攻撃してきたのですわ!」
衛兵にしっかり守られた状態で女2人がギャーギャーとうるさくわめいている。まったくもって威勢がいい。彼女らをもっとびびらせる必要があるとレオンは判断した。
左手の人差し指を衛兵のひとりに向ける。パリパリ……と静かに電流が集まる音がした。
「ライトニング・バレット!」
「うぎゃぁ!」
小さな雷の弾丸を放つ。それが衛兵のひとりに当たる。それと同時に落雷が起きて、ブスブス……という音とともにその衛兵はその場で崩れるように倒れてしまう。
「ひぃぃ! なんザマスの! ら、乱暴狼藉が許される場所だと思ってるの!?」
「ん? この世界の法は俺そのものなんだぞ? 俺は魔王レオンだっ! そっちこそ、何を勘違いしてるんだ?」
「きぃぃ! 話にならないザマス! お前たち、やっておしまいなさい!」
ヒステリックな壮年の女性が衛兵たちに号令をかけた。衛兵たちは互いに顔を見合わせている。
それもそうだろう。明らかに勝てる相手ではないことを衛兵たちは理解してくれているようだ。
彼らが職務を放棄しやすいように、さらにこちらの力を誇示してみせた。
「ライトニング・バレット!」
次の瞬間、雷の弾丸が衛兵の兜を宙に舞わせた。それと同時にその衛兵の髪の毛までもがキレイに吹き飛んだ。
「あっ! ごめんっ! 髪の毛までやっちまった!」
「そ、そんなぁ!」
「毛根は殺してないと思うから、安心して!?」
「ひぃぃ! もう、こんな仕事、辞めてやるぅ!」
衛兵のひとりが泣きながら、その場から逃げ出していく。やりすぎた……と反省している間に、他の衛兵もその場から退散していった。
少しだけ手違いが起きたが、残すは継母とその連れ子のみとなる。首をわざとらしく動かし、首の骨をゴキゴキと鳴らす。さらには手を合わせてベキボキと指の骨を鳴らしてみせた。
その途端、へなへなと継母と連れ子がその場でへたり込んだ。
「俺のミルキーを無能扱いして、さらには使用人の身へと落とそうとしたのはだーれですかー?」
レオンの声は恐ろしく低かった。継母と連れ子が互いに身を抱き寄せながら、震えあがった。
「ちょっと、私たちが悪者みたいじゃない! それと……私、まだレオンさんのカノジョじゃないわ!」
「むっ。先を急ぎ過ぎたか……」
レオンはさも残念といった表情になる。ミルキーはまったくもう! と言いたげな仕草を取っている。
「まあそれは置いといて。これだけは覚えておくんだな。何かの策略でミルキーを貶めるのではあれば、今度は天国へ送ってやる(にっこり)」
レオンがそう言うと同時にショロショロショロ……という液体があふれ出す音が継母と連れ子のほうから聞こえてきた。
(あっ。やべえ、さすがに脅し過ぎた! まあ、これくらいやっておけば、二度とミルキーにひどいことはしないだろ……)
継母と連れ子へのお仕置きは完了だ。レオンは清々しい顔をして、ミルキーへと顔を向ける。彼女は苦笑していた。彼女としては少しやりすぎだと感じているようだ。
レオンもまた苦笑するしかなかった。継母と連れ子の方へと顔を向け直す。
「んじゃ、いつでもお前たちの悪事は魔法で監視しておくからなっ。次からは清く正しく生きるんだぞ! 移動魔法ランラン・ルー!」
レオンは右手でミルキーを手繰り寄せ、しっかりと自分の身体へと引き寄せる。彼女とともに元居た馬車へと移動魔法で戻る。
「すっきりしたー! 継母と義妹には腹が立って仕方がなかったの! ありがとう……。私のために怒ってくれて……」
「ご褒美がほしいニャン」
「ん~~~。どうしようかなぁ? 私、新しいローブも欲しいなぁ?」
「ちっくしょぉ! 俺、頑張ったのにぃ!」
荷馬車の護衛の依頼をこなしても、それでも自分の装備を買うことは出来そうもなかった。まだまだパンツ一丁で、ふりかけご飯のみの生活からは抜け出せそうもなかった……。
(んま、いいかっ! 5月に入って、気候も安定してるし。パンツ一丁でも風邪は引かんだろう! ミルキーに魔法使いのローブを買ってあげて、ご褒美をもらうニャン!)
§
荷馬車の護衛が始まって、三日目。ようやく街道に件の盗賊が現れた。盗賊はざっと20人。こちらはたったの4人。数の上ではこちらが圧倒的に不利だった。
しかし、そんな数の不利をあっさりと覆す人物がレオン側にいた。
「アイス・ボール! アイス・ロック! アイス・ストーム!」
「うぎゃぁ!」
「やっぱり俺も巻き込まれるんだよなぁ! うぇーーーい!!」
「ふっ。おれっちも巻き込まれてるぜ? どっひゃー!」
ミルキーは自信を取り戻したのか、襲ってきた盗賊相手だけでなく、レオンとバーレへと存分に魔法を叩きこんでいた。
しかしながら、それでもミルキーの魔法が味方に誤射されることは2分の1にまで減っていた。以前は3回に2回は仲間へとぶち当たっていた。
それに比べれば、ミルキーは確かに成長したと言ってもよかった。土砂とともに宙を舞い、氷漬けにされながらも、レオンは満足げな表情であった。
レオンの見込んだ通り、ミルキーは超一流になれるだけの魔法使いの才器を持っていた。それが嬉しくてたまらなかった……。
◆ ◆ ◆
「レオンさんに買ってもらったこの杖のおかげね。すごく魔法の威力があがったの!」
盗賊を駆逐した後、ミルキーは興奮した顔つきで、こちらに駆け寄ってくれた。
しかしながら、自分は身体の半分が氷漬けであり、がくがくぶるぶると氷の冷たさに震え上がっていた。
「よ、よかったね……」
「うん! ありがとう、レオンさん! 私、もっともっと戦いたいなぁー! 他にも盗賊さんたち、現れてくれないかしら!?」
ミルキーはガンギマリした目をギラギラと輝かせていた。鼻の穴からフンスフンスと熱い鼻息を吹かせている。
こちらとしては盗賊が現れないことを願うしかなかった……。
その時、『テッテレー! ニセ勇者レオンくんはレベルアップ~♪』といつも以上に明るく大きな音が鳴った。
・今回、貴方が獲得した善行は105ポイントです。
・これまでの蓄積は5ポイントです。
女神からのコメント:ミルキーちゃんのトラウマを払拭してくれてありがとうねっ。彼女からのご褒美、楽しみにしてなさい?
(うおっ、まじですかっ! めっちゃ善行ポイントもらえちゃった! これはもう大勝利ビクンビクン!)
思わずテンションが上がる。口元がニヤつくのを抑えられない。それと同時に、愚息も元気いっぱいに――
(いかんいかん! ここは健全な全年齢対象の世界だ! 発射しちまったら、女神様に存在を消されちまう!)
なんとかして、頭を冷やそうとするが、それを許さないかのようにガンギマリして、興奮を隠しもしないミルキーが突っ込んできた。
「レオンさん、もっと敵を呼んでほしいのぉ! 身体が火照っちゃってるのぉ!」
「お、落ち着いて!? 俺も落ち着かせてる真っ最中だからっ!」
興奮冷めやらぬミルキーの姿を見ていると、こちらも嬉しさが込みあがってくる。彼女が喜んでいる。それだけで愚息が再びギンギンになってしまう。
その時、善行スクリーンが開いた。
A:今なら口説き落とせる。なんなら押し倒せっ!:☆☆☆
B:そんなわけねーだろこのバカ、調子こくな:☆☆☆☆☆
C:お買い物デートで点数をしっかり稼ぎましょう:☆
D:
そっと善行スクリーンを閉じた。
(ミルキーは大切な仲間なんだ。いかがわしい気持ちを抱くのはダメだ!)
(それに、俺はキミに恩を着せて関係を迫るようなクズにはなりたくない!)
次の瞬間、『ブッブー! レオン、アウトー』という音が聞こえてきた。
唐突に、どこからともなく響くブザー音。そして、何もないはずの晴れ渡った空に現れる金ダライ。カーーーン! という衝撃音とともに、見事に金ダライが頭頂部に直撃した。
(痛ぇぇぇぇ!?)
ぐらつきながら、うめく間もなく、さらなる通知がやってきた。
・今回、貴方が獲得した善行はー30ポイントです。
・これまでの蓄積は-25ポイントです。
・創造神からのコメント:ええい、まどろこしい! 今すぐ押し倒せ!
・女神からのコメント:創造神のことは無視してください。
・破壊神からのコメント:今度は正々堂々とデートにお誘いしたまえ。あとは成り行きだ。
・魔王からのコメント:だからこそ、舞踏会デートだと言っておるだろぉ!?
(……え? 創造神に破壊神!? あと、なにしれっと魔王まで参加してんの!? 女神様、どういうことぉ!?)