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第39話:愉快な三大神その2

▼女神ユピテル


 ここはユグドラシルと呼ばれる巨大樹の頂上部にある神の間だ。この世界を司る三大神が一同に会していた。


 円卓を挟み、三柱がそれぞれに意見を交わす場であるというのに、大喧嘩の真っ最中だった……。


「いや、聞いてほしい。ここは押したら、そのままイケる。わしは間違っていない」


 創造神マルスはそう言いながら、目の前にあるボタンを手で連打している。


「ダメですね、兄さん。早とちりも良いところです。その恋愛脳を創造しなおしてはどうですか? 破壊の手伝いをしますよ?」


 破壊神クイリヌもまた自分の主張を押し通すために静かに目の前のボタンを連打している。


「ほんと、産めよ増やせよの創造神様は何でもかんでも恋愛に結び付けるわよね」


 女神ユピテルは兄の創造神マルスを冷ややかな目で見ながら、目の前のボタンを連打して、兄神の意見を全否定していた。


 創造神マルスは産めよ増やせをモットーにしている。ニセ勇者レオンと女魔法使いミルキーがくっつくのに大賛成である。


 そうであるがゆえに「今なら口説き落とせる」ボタンを連打していた。


 それに対抗するように「本当にお兄様はバカですこと……」と未だにボタンを連打し続けてやった。


 創造神マルスは「チッ!」と舌打ちした。それを合図にボタン連打合戦はひとまず終わりを迎える……。


 椅子にきちんと座り直した三柱は改めて、意見交換をし始めた。


「わたくしはレオンくんとミルキーちゃんの仲が少しづつ進展していくことを願っていますわ。クリイヌスも同意見でしょ?」

「はい、ユピテル姉さん。普通にデートを重ねていってほしいところですね」


 女神ユピテルは破壊神クリイヌスとにっこりとほほ笑み合っていた。


 しかしながら、それが面白くないのか、「ケッ」と聞き捨てならない声を出す創造神マルスだ。女神ユピテルは思わず、こめかみに青筋が浮き立ってしまう。


「何か言いたいことがありまして? マルスお兄様」

「ああ、聞いてほしい。レオンの奴はむっつりすけべの童貞野郎だ。あいつはデートでやらかす。絶対に」

「それはそれで可愛らしいと思いますけど?」

「だからだっ! そういうまどろっこしいことをするくらいなら、いっそ、酒で酔わせてベッドに押し倒したほうが……って、椅子を振り上げるでない!」


 女神ユピテルはそれ以上、言わせてなるものかと、スッ……と席から立ち上がり、座っていた椅子を両手で持ち上げて、さらには振りかぶった。


 創造神マルスは慌てふためいている。それでも、女神ユピテルは椅子を兄神に向かって、勢いよくぶん投げた。


 無意識に自制心が働いたのか、投げた椅子は兄神の顔面には当たらず、彼の頬を掠めるだけに留まった。投げた椅子はそのまま神の間の壁に突き刺さる。


 神の間に控える天使たちが「ひぃっ!」と震えあがっている。そんな彼らにニッコリとほほ笑み、新しい椅子を用意してもらう。


 持ってきてもらった椅子に着席し、乱れた銀髪を手櫛で整える。そうしていると、左側前方で床に転がっていた兄神マルスが椅子に座り直して「ゴホン……」とわざとらしく咳をついている。


「うむ。わしもレオンとミルキーを温かく見守ろう」

「わかってくださって、ありがとうございます」

「しかしだ……これだけは言わせてもらうぞ。ラッキーすけべイベントが起きた時はレオンに温情を与えてやってくれ」

「ほぅ? マルスお兄様にしては、かなり譲歩してくれますわね?」

「う、うむ。さすがにな? ブラ紐が見えたとか、パンツが丸見えになったアレで電気椅子10分は……な?」

「善処しますわ」


 創造神マルスと女神ユピテルの話し合いにより、レオンのラッキーすけべに関して、行き過ぎた神罰を与えないようにとの約束が交わされることになった。


(ここは大人しくこちらも譲歩しておきますわ。でも、段階をすっ飛ばした時には覚悟しておくのよ? レオンくん)


 理不尽このうえない三柱に見守られていることを知らぬレオンであった。彼の苦難はまだまだ続くのであろう……。


◆ ◆ ◆


 レオンへの寛大なる処置も決まり、議題は次に移った。


「さて、そろそろレオンには三種の神器のひとつを手に入れてほしいものだな」

「マルスお兄様。竜皇、海皇、白銀狼の3体のうち、レオンくんにぶつけるなら、どれがいいかしら?」


 三柱は資料を手にとり、じっくりと意見交換していた。


「海皇は今、どの辺りにいますかね? ユピテル姉さん」

「まだ5月だから、温かい南の海で休養中だったはずよ、ねえ、マルスお兄様」

「そうだったな。夏になれば北上してくるであろう」


 海皇は今、絶賛、南の大海でバカンスを楽しんでいる。炊きつけたところで、わざわざ遠いリゼルの街にまで出張ってくれるとは思えない。


 三柱は次に白銀狼の資料に目を通す。


「強さ的にちょうどいいのは白銀狼なのだが……あいつ、今、どこをうろついていたっけ?」

「お兄様のペットの居場所なんて、わたくしが知るわけがないのですわよ」

「まったく……いくら可愛いペットだと言っても放し飼いはダメでしょうが。躾は大事ですよ?」


 女神ユピテルは弟神クリイヌスと一緒になって、兄神マルスを咎めたが、当の本人はガハハッ! と笑い飛ばしてきた。


 イラっときたので、椅子を兄神マルスへとぶん投げておく。もちろん、当ててはいない。神の間の壁のオブジェクトがまたひとつ増えただけに留めておく。


 結局のところ、創造神マルスの不手際により、白銀狼の今の居場所はわからない状態となっていた……。


「さてと……残るは居場所がわかる竜皇だな。あいつなら、レオンのところにひとっ飛びしてくれるであろう」

「レオンくんの実力を魔王の力込みで考えても……竜皇に勝てるのかしら?」

「彼なら倒せないまでも、上手いこと、珠玉は手に入れてくれるのではないですかね?」

「んま、ダメージは与えられるであろう。竜皇はそれで少しは改心してくれるだろうし」


――竜皇。別名:紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンと呼ばれている。元々はこの世界の三大神の御使いであった。だが、奴は力に溺れ、三大神の言うことを聞かなくなっていた。


「では、レオンの奮闘に期待しておこう」

「そうですわね。地上を這いずり回るニンゲン如きと侮っていますもの、あいつ」

「レオンに手痛いダメージを喰らわされるようであれば、それがしが高笑いしてさしあげましょうね。やーいやーい、あんなへっぽこ勇者に傷つけられて悔しいでしょぉぉぉ! って感じで」


 神の間に集う三柱はニヤニヤと悪い笑顔を零していた。そうしながらも、丸いテーブルの上側へとスクリーンを展開させる。


 そのスクリーンには今の議題に上がっている竜皇の姿が映し出されている。見られていることに気づいたのか、竜皇が真っ赤な目をこちらに向けてきた。


 苦々しい表情だ、奴は。そんな奴に対して、こちらは余裕たっぷりの表情を作る。


「お久しぶり、竜皇」

「なんだ? 女神ユピテル。何用だ」

「つれないわね。元はわたくしたちの御使いだったのに……」

「ふんっ。恥を思い出させるな。用件を言え」


 あくまでも敵愾心を忘れない姿勢を取ってくる竜皇だった。女神ユピテルは他の二柱とともに肩をすくめてみせる。


 竜皇が「ふんっ」と鼻息を飛ばして、そっぽを向けてしまった。そんな奴に向かって、挑発の言葉を送ってあげた。


「リゼルの街で着々と貴方を討つ準備が整っていることは知っているでしょ?」

「ああ。そろそろ頃合いになったのか?」

「そうなの。今度こそ、貴方を倒してみせると意気込んでいるわよっ」

「ふんっ。脆弱なるニンゲンどもが小賢しい。女神ユピテル。お前に乗せられるのは癪に障るが、それ以上にニンゲンにおちょくられるのは我慢ならぬ」

「じゃあ、貴方の力を誇示してあげなさい」

「言われるまでもないっ!」


 スクリーンの向こう側にいる竜皇が羽を大きく広げる。ばっさばっさと羽を動かす。それと同時に竜皇の周りにある木々がなぎ倒され、山々が多大な冷気で震えた。


 スクリーンに映る竜皇はこちらを見ようともしない。女神ユピテルはにこやかにほほ笑んだ。


(さあ、踊りなさい、竜皇。わたくしが飼っている子豚ちゃんはめっぽう強いわよ? 楽しみにしててね♪)


 この世界を司る三大神は、ニセ勇者レオンに試練をお与えになられた。


 その試練にリゼルの街は巻き込まれることになる……。

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