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第45話:竜皇襲来(6)

 鉄の床に倒れ伏すタンス漁り勇者を前にして、レオンはこの後、どうしたものかと考えた。そこに念話が飛んできた。


『聞こえるか、ニセ勇者レオンよ。タンス漁り勇者から今こそドラゴン・バスターを奪うのじゃ!』

(その声は……受付の謎の爺さんじゃんかっ! 俺、罪に問われないですよね?)

『……』

(だから、無言はやめてくださいます!?)


 謎の老人は多くを語らない。だが、レオンは竜皇をリゼルの街へと墜落させた責任を取らなければならない。竜皇を倒すためには雷魔法に耐えれるであろうドラゴン・バスターが必要だ。


「俺を恨むなよっ! これは俺に課せられた使命なんだーーー!」


 レオンは倒れているタンス漁り勇者に近づき、彼の革ベルトへ手を掛ける。革ベルトを外す。一振りの剣ごと、それを自分の腰へと巻きつける。


「勇者様! これで竜皇を倒すための武器は手に入りました! 素敵です!」

「エクレア……これは立派な窃盗な気がするけどなっ!」

「違いますわっ! 立派な決闘の結果ですっ! 見届け人のあたしが保証しますのっ!」


 エクレアは女神教会の僧侶だ。女神の使徒である勇者の行いが正しいか間違っているかの判断をしてくれる存在でもある。


 エクレアからお墨付きをもらった以上、罪悪感を抱く必要はなさそうであった。レオンは腰に手を当て、胸を張ってみせた。


 ミルキーがふんすふんすと鼻息を荒くして、興奮してくれている。ミルキーは認めてくれているのが見て取れる。


 バーレは苦笑いしていた。そうでありながらも、こちらにグータッチを望んできた。差し出された拳に自分の拳をコツンと当てる。


 その後、バーレがこちらの首へと腕を回してきて、空いた手でくしゃくしゃと髪を撫でまわしてくれた。


「レオン、良い物、手に入れたじゃねえかっ」

「ああ、これで竜皇を倒せるな」

「んで、どうやって、竜皇に近づくわけ?」

「そこは大砲から発射される砲弾に乗って運んでもらう! そして、竜皇に一気に接近して、俺の雷魔法とドラゴン・バスターで竜皇をぶった斬る!」

「アホかっ! 死ぬわっ!」


 ナイスなアイデアだと思ったが、バーレに一蹴されてしまう。


(あれ? 俺、何か間違ったこと言った?)


 次にミルキーたちの方へと視線を向けた。ミルキーは興奮冷めやらぬ顔をしている。


「さすがはレオンさんなのです! 勇者の力で無事に砲弾に乗って運んでもらうんですよね!?」

「いや、違う。ギャグ補正で乗る」

「……え? ギャグ補正って何です?」

「知らないのっ!? ギャグ補正がかかっていると大概のことでは死なないんだぜ!?」

「すみません、初耳です。私の勉強不足なのかしら」


 怪訝な表情となってしまった。自分の考えが正しいはずだ。だが、ミルキーの言っている感じだと、どうやら自分の考えは今更ながらに危険な香りがプンプンとしてきた。


 念のため、エクレアに確認してみた。


「どうなんでしょうか。ギャグ補正スキルが存在するのは確かなのですが……」

「適当なこと言ってみたけど、あるんだんな!?」

「はい。でも勇者にはいろんなタイプがありますので。ニセ勇者にギャグ補正スキルがあるかどうかは調べてみないとわかりません」

「そっか! じゃあ、やめておこう!」

「でも、そこまでハズレの案じゃない気がするのです」

「え? そうなの? どこを改良すればいいわけ?」

「えっと……ニンゲン大砲……」


 エクレアがこちらから視線を外した。無茶苦茶なことを言っている自覚が彼女にはあるのだろう。


 艦橋の窓ガラスの向こうでは轟音とまばゆい光が未だに立て続けに起きていた。レオンは窓の向こう側へと視線を向ける。


 自分たちの存在を無視するかのように艦橋にいる艦長が「右舷弾幕薄いぞ! 何やってるの!」と船員たちに発破をかけている。


 地上戦艦は懸命に竜皇と戦い続けていた。総指揮を執っていたタンス漁り勇者がレオンに負けた後でもだ。


「あのぉ。艦長さん。ニンゲン大砲って可能なんでしょうか?」

「おーん!? 人道的にお勧めできないが、一応は可能ですぞ!」

「あ、可能なんですね。ちなみに命の保証は?」

「断じて無いっ!」

「そうですよねーーー!」


 地上戦艦の甲板に設置された大砲から次々と極太の魔法ビームが発射されている。艦長が言うにはその大砲には実弾も発射できるタイプもあるそうだ。


 タンス漁り勇者はその大砲を用いて、レオンを実弾代わりに撃ち出そうとしていた。


「ちょっと考えさせてください、艦長さん」

「出来るだけ早く話をまとめてくだされ、勇者殿! 竜皇の力はすさまじい。この地上戦艦でも抗うだけで精一杯ですぞ!」


 レオンは選択を迫られていた。命を賭けてニンゲン大砲の弾になり、竜皇との決着を着ける。


 もしくはリゼルの街が半壊したのは自分のせいじゃありませーん! 僕はこの件とは無関係ですーーー! と逃げる道。


(って、逃げる道なんて存在するわけないじゃんっ! 良心の呵責に苛まれ続けるわっ!)


 自分にツッコミを入れて、同時に喝を入れる。竜皇を雷魔法で撃ち落とした時点で、自分の運命は決まっていると力強く自分を鼓舞した。


「バーレ、ミルキー、エクレア! 俺はニンゲン大砲になるぞーーー!」

「よっしゃ! さすがはレオンだぜっ!」

「レオンさん、かっこいい!」

「勇者様、そんなあなたに痺れる濡れる抱いてほしいーーー!」

「いや、エクレアさん……濡れるよりも俺といっしょにニンゲン大砲になってほしい」

「……えっ?」


 エクレアが後ずさりした。それと同時にバーレとミルキーも彼女に追随した。だが、勇者から逃げられない!


「艦長さん! 俺、勇者です! 勇者の権限を今こそ使わせてもらいます! 俺の仲間たちもニンゲン大砲にしてくださいっ!」

「わかりましたぞ! 貴方たちの雄姿は後の世に必ず伝えますぞっ!」

「てめえ、レオン! この件は絶対に許さないからなっ!」

「いやーーー! 私、実家に帰るーーー!」

「ふふっ……結婚式の祝砲だと思えば……ふへへっ」


 エクレアだけは前向きに捉えてくれているのがありがたい。船員たちの案内に従い、レオンたちは艦橋から甲板へと移動する。バーレとミルキーは逃げ出さないように船員たちに拘束されながらだ。


 その移動中にも地上戦艦は大いに揺れた。轟音が鳴り響くと同時に地上戦艦そのものが大きく揺れた。


 甲板に出るといくつもある大砲のうち、2つが大破していた。竜皇が放った冷気ビームで破壊されたのであろう。


 レオンはごくりと息を飲むしかなかった。甲板に出ると嫌でも竜皇の巨大さが目に映った。


「レオン、武者震いだよな? それ」

「ちげーよ! 普通に怖いわっ!」

「ちなみにどっちが怖い?」

「大砲で撃ち出される方」

「ははっ! さすがレオンだぜっ! んじゃ、竜皇を倒したら、祝勝会をするぞっ!」


 バーレがそう言いながら、大砲の弾込め部分から大砲の中へと入り込んでいった。お次はミルキーが目をギンギンにしながら、別の大砲の中へと消えていく。


 エクレアがチューしてほしそうにこちらへ唇を突き出してきたので、目を瞑ってくれている隙をついて、大砲の中へと押し込んだ。


 あとは自分が大砲の中へと入るだけだ。撃ち出してもらう順番はここにやってくる間に決めておいた。


『大砲の角度を合わせよっ! 勇者たちの命を決して無駄遣いするではないぞっ!』


 艦橋にいる艦長の声が甲板にまで届いてきた。レオンはもう一度、ゴクリと息を飲む。狭くて暗い空間の中に押し込められている中、お尻の当たりに高エネルギーによる熱を感じ始める。


(バーレ、頼むぜっ! 一番手のお前がどうにかしてくれないと、ニンゲン大砲作戦自体が失敗しちまうからなっ!)


 レオンは別の大砲に詰められているバーレの活躍に期待を寄せた。ただ大砲に撃ち出されるだけでは到底、竜皇の膝下にもたどり着けないであろうことは予想済みだ。


 だからこそ、大砲で撃ち出してもらう順番をしっかり事前に決めている。


『1番バーレ砲! 続いて2番エクレア砲! そして、3番レオン砲と4番ミルキー砲の同時発射! 砲手、絶対に間違えるでないぞっ!』

『合点承知! 援護の魔導砲をまずは撃つ! 続けて1番バーレ砲、竜皇に向けて発射! 撃ちます!』


 甲板上にていくつもの魔導砲それ自体が細かく振動し、それぞれの砲口から極太のビームが発射された。


 続いて、ニンゲン大砲からバーレを一番手にして、次々とレオンたちは発射された。


 それに対して、竜皇がルビーのように紅い目をさらにぎらつかせてきた。首を捻り、氷雪のオーラを前面に展開させてきた。


 そこに魔導ビームが当たる。だが、魔導ビームは氷雪のカーテンにより散乱させられてしまう。


 さらに竜皇は次の一手を打ってきた。大きく息を吸い込む。その息を氷のビームとして吐き出してきた。


「おらぁ! おれっちは守るぜ!? 妹的存在のミルキーとエクレアをなぁーーー! ファイヤー・シールド!」


 バーレは大盾を構える。その大盾から赤い光が周囲に広がった。竜皇から放たれた真っ白なビームと赤くて大きすぎる盾が真正面からぶつかり合う。


「バーレさん。あたしと勇者様との結婚式には親族枠で招待状を送らせていただきます! 出でよ、霧の巨人!」


 エクレアの背後から彼女の魔力を吸った霧の巨人が出現する。その巨人の手が自分とミルキーの背中側から迫ってきた。


「行ってくださいまし、ミルキーさん!」

「任されたわっ! アイス・ビッゲスト・ハンマーーー!」


 加速力を得たミルキーは両手を振り上げる。氷で出来た巨大すぎるハンマーの柄をミルキーがしっかりと握り込んだ。


 それをミルキーは振り下ろした。竜皇が作り出した氷雪のカーテンと氷のハンマーがぶつかり合う。1000枚ものガラスが一度に砕けたかのような音がなった。


「ミルキー! さすが俺の見込んだ女だっ!」

「ご褒美がほしいニャン!」

「竜皇を倒した報奨金で何か買ってあげるニャン!」

「楽しみにしてるニャン! レオンさん、頼みましたっ!」

「おうよっ! ドラゴン・バスター、俺の期待通りの働きをしてくれよっ! 奪い取っただけの価値を見せやがれ! ライトニング・ドリル・ピアッサー!」



 レオンはきりもみ状態のまま、腰に刷いたドラゴン・バスターを抜き出す。それを雷魔法で補強した。


 構えた剣の先端が竜皇の額を覆う固すぎる鱗をガリガリと削る。どんどんと深く剣が沈み込んでいく。それと同時に竜皇が苦しみの大怒声をあげた。


「ぐぉぁ! おのーーーれーーー!」


 竜皇は額に剣が刺さったまま、もがき苦しむ。そして、奴の身体はどんどん小さくなっていく……。

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