ボロボロのレオン。レベルが足りずに戦いについてこれないバーレ。その2人をさらに追い詰めてしまったミルキー。
そんなパーティの窮地を救うべく、エクレアが動きを見せた。左手に持つ聖書が自然と開き、ページがペラペラと捲れていく。
「あたしの命を削ってでも、皆さんを回復させます! フル・ヒール!」
エクレアが右手をかざすと、レオンたちの身体が淡い光に包まれる。それと同時にレオンたちの傷がどんどんと癒えた。
「ありがとうな、エクレア! って、顔色が悪いぞっ! いつもなら恍惚とした表情で俺を癒してくれるじゃんかっ!」
「無茶しすぎました……最上級回復魔法を使ってしまったので」
「エクレアーーー! 俺のためにそこまでーーー! 竜皇、許さないからなっ!」
「いや……瀕死にまで追い詰めたのは我では無いのだが? むしろお前ら、どんどん自滅してないか?」
「正論はやめろっ! ミルキーだけじゃなくてエクレアまで傷つけるつもりかよっ! この畜生がっ!」
エクレアの気持ちに答えるためにも、禁断の力を発揮することに決めた。剣を鞘に納め、ゆったりと構えをつくる。
「俺たちをここまで追い詰めたお前の負けだっ! 俺の妖しい踊りを見やがれっ!」
レオンはタイツ1枚の姿でソウルを震わせた。それと同時に左腕がひと際大きくドクンと脈打った。
A:踊るのをやめなさい、レオンくん!:☆☆☆
B:魔王の踊りを見せつけろ、レオン!:★★★
自分の踊りは魔物を呼ぶ。だが、熱く滾るソウルは竜皇のソウルを屈服させろと訴えかけて来た。
女神の静止を振り切り、レオンは力強くステップを踏み、果敢に舞ってみせた。竜皇が「グッ!」と唸っている。
竜皇がひるむ。奴の手の上にある珠玉もまたドクン! と震えた。竜皇が驚愕の表情となった。それに合わせて、こちらはニヤリと口角を上げてやった。
白い世界に変わっていた周辺からざわめきが起きる。凍りついた静寂の世界を破壊するように悪魔たちがやってきた。
「なんだ、その踊りは!? 悪魔を召喚しただと!?」
「これが真の俺の力だっ! こいつらは俺の言うことなんて聞かないぜ!?」
「バカかっ! お前も巻き込まれるだろうがっ!」
「うるせえっ! 死なばもろともって言葉を喰らわしてやんよっ!」
山羊頭の悪魔が口から炎をまき散らしながら、レオンと竜皇へと接近してきた。竜皇がまとわりついてきた山羊頭の悪魔を迎撃する。
レオンは山羊頭の悪魔にぶん殴られながらも、その勢いすらも利用して、雷魔法を竜皇に放つ。
「貴様ぁ! どさくさに紛れて、こちらに攻撃してくるんじゃないっ!」
「へへっ……。肉を切らせて骨を断つ! ライトニング・メガ・キャノン!」
「ぐぉぁ! くそぉ! 悪魔ども、邪魔だァァァ!」
戦場はカオスとなっていた。大量の山羊頭の悪魔が暴れまわる。竜皇が山羊頭の悪魔を相手にするだけで精一杯だ。
「レオン! 無茶しすぎだろうがっ!」
「バーレ、ミルキーとエクレアを守ることに尽力してくれ!」
「お前……ちっ! わかったよっ! でもだっ! 竜皇と刺し違えようとはするんじゃねえぞっ!」
バーレがこちらへと駆け寄ってきそうになったところを言葉で制止した。バーレはこちらの思いをすぐに理解してくれた。
(ミルキーたちのことは頼んだぜ、バーレ。俺はこれから竜皇に最後の一撃を入れてくる!)
レオンは山羊頭の悪魔に横から殴られ、後ろから蹴飛ばされても倒れなかった。ゆっくりと一歩ずつ確実に竜皇へと近づいていく。
こちらに構う余裕もない竜皇に向けて、左手をそっと突き出す。その最中も山羊頭の悪魔たちがレオンを散々にぼこぼこにしてきた。
視界が揺れる。それでも照準をしっかりと竜皇に合わせた。
「まったく無茶をしでかしているワンね」
「ポチ? どうしてここに?」
「お前が呼んだのではないか、不思議な踊りでなっ。加勢してやるワン!」
レオンの足元にはシヴァ犬に擬態した白銀狼のポチがワンワン! と元気よく吼えていた。それに気圧されたのか山羊頭の悪魔たちの攻撃が止まる。
視界が広がる。レオンの前に道が出来た。竜皇は未だにまとわりつく山羊頭の悪魔の対処に四苦八苦している。
「チャンスは一度だけだワン! 絶対に外すなっ!」
「おう! ライトニング・メガ・キャノン!」
レオンは左手から真っ黒な雷球を放った。山羊頭の悪魔たちがその雷球に巻き込まれて、灰になる。そのまままっすぐに竜皇へ雷球が飛んでいく。
「舐めるな、小僧っ!」
竜皇が右手の手刀で雷球を真っ二つにしてみせた。レオンは驚愕するしかなかった。
「ゲゲーーー! 今の一撃に対応しちゃう!?」
「遊びは終わりだっ! ホワイト・ドラゴン・ブレスを喰らえ! 骨まで凍りつけぇぇぇ!」
竜皇が大きく息を吸い込んでいる。それに伴い、竜皇の胸が大きく膨らんだ。レオンは思わず「グッ!」と唸るしかなかった。
「レオン、良い一撃だったワン!」
竜皇はレオンを注視してくれた。シヴァ犬のポチがすかさず竜皇の手から珠玉をパクッと咥えて、奪い取ってしまった。
竜皇は目を白黒させている。それに対して、ポチが嬉しそうに尻尾をブンブンと振っている。
「シヴァ犬!? いや違う! お前、白銀狼か! クソォ! 珠玉を返せっ!」
「いやなこったワン!」
「おのーーーれーーー!」
多勢に無勢と知った竜皇はその場から去っていこうとする。背中から羽を生やし、空へと逃げていく。
竜皇はこちらに背を向けて、バッサバッサと背中の羽を慌ただしく動かしていた。明らかに速度が出ていない。力の源を奪われた竜皇は目に見えてパワーダウンしていた。
そんな竜皇の背中に向けて、左手の人差し指で指差してやった。右手は添えるだけ……。
「知ってるか? 勇者から逃げられないっ! ライトニング・バレット・赤玉! これが本当の最後の一発だ!」
人差し指の先から赤黒い雷球を放つ。身体の中にある魔力の全てを込めた。一直線に竜皇の背中に向かって、それが飛んで行った。
赤黒い雷球が竜皇の身体を貫通した。竜皇の胸辺りにぽっかりと拳くらいの穴が開く。竜皇は胸に空いた穴を両手で押さえながら、苦々しい断末魔を放った。
「我が敗れるだとぉぉぉ!」
「お前の敗因はただひとつ……俺に妖しい踊りを披露せたことだっ!
「この……おふざけ勇者がぁぁぁ!」
「へっ……おふざけ勇者ってか。まさに俺にぴったりだなっ!」
竜皇は力尽きたのか、地上へ向かって一直線に落ちていった。レオンは片膝をつきながら、林へと落ちていく竜皇を見つめていた。
ドスンという音が林の中から聞こえてきた。それ以上の音は聞こえてこない。
「やったぜ……俺は竜皇を倒したぞぉぉぉ!」
これ以上、身体に力が入らない。山羊頭の悪魔たちは残っているが、白銀狼のポチが味方してくれている。
(ポチ。ミルキーたちのことは……頼んだ。なんだか俺、とっても眠いよ)
レオンは見事、竜皇を倒した。だが精魂尽き果てた。雪が積もる地面に身体を預け、深い眠りにつく……。
◆ ◆ ◆
「ここは……俺は生きてる。嬉しいよぉ! 生きてるって最高っ!」
レオンは目覚めると病院のとある病室に運ばれていた。固いベッドのために寝心地はいいものではなかった。
同じ病室の他のベッドには負傷者たちがいた。彼らは傷が痛むのか、かゆ……うまと唸っている。そんな彼らから視線を外し、天井を見つめる。
物思いにふけようとした矢先、寝ているベッドが少しだけ揺れる。レオンは揺れの原因を作っている存在に目を向けた。
「生きてるだけで偉いワン!」
「ポチッ! 見舞いにきてくれたのか? てか、俺、死にかけてた!?」
「かなりヤバイ状態だったワン。お前、三日も起きなかったワン」
「マジかよ……でも、俺、天国の門をノックする夢とか見なかったよ?」
「女神に嫌われてるんじゃないのかワン?」
「ソンナーーー!」
しくしくと泣きそうになっていたところ、女神からの天啓が届いた。
・女神からのコメント:んもう! レオンくんはわたくしの可愛い子豚ちゃんなのに、ポチッたらひどいことを言うわね? 本当に困っちゃわ♪
(女神様……俺のことを可愛く思ってくれているんですね! ありがとうございます! ブヒブヒッ!)
・女神からのコメント:ポチのことは置いておいて……竜皇討伐成功、おめでとう! さあ、好きな報酬を選びなさいっ!
A:白銀狼の爪:☆
B:エッチな本:☆☆☆☆☆★★★★★
(報酬キターーー! エッチな本に決まっています、女神様ァァァ!)
レオンはまったくもって迷わなかった。わくわくで興奮しまくりのレオンの枕元に女神のエッチな本が届けられた。
「俺は女神様のピンナップイラスト集を読むっ!」
「ボクも読みたいワン!」
「よだれで汚すなよ!? 俺が発射して汚す予定なんだからなっ!?」
レオンはシヴァ犬のポチとともにいやらしい顔になりながら女神のエッチな本を読みふける。
女神が水着姿で色んなポーズを取っているイラスト集だった。ページをめくるたびにレオンの愚息もおおいに刺激された。
レオンは右手でエッチな本を抑えつつ、左手は自然と愚息の方へと移動していく。へそあたりからパンツにまで左手が届こうとしたその時であった……。
「レオンさんっ! 目が覚めたんですねっ!」
「ミルキーさん!? このタイミングで現れるっ!?」
「レオンさん、すっごいのです! 私、レオンさんを尊敬しちゃいますっ!」
ミルキーが鼻息をふんすふんすと吹き鳴らしながら、さらにはガンギマリした目でこちらへと身体を寄せてきた。
こっちは心臓がバクバクとしている。先駆け上等汁でパンツに染みが出来ているのは愚息の先端の感触から伝わってきていた。
これ以上、ミルキーに接近されたら、自分が先ほどナニをしようとしていたのか匂いでバレてしまう可能性があった……。