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第50話:病室ではお静かに(3)

 ジト目の女性陣を他所に、レオンとバーレはグータッチし合った。意気投合っぷりを女性陣に見せつける。


 こちらの雰囲気に乗って、ガンギマリの目をしたミルキーが口を開く。


「レオンさんの強さの秘密は魔王にあったわけなのねっ!」

「お、おう! 竜皇を倒せたのもこの力あってこそだっ!」

「一国の王じゃなくて、世界を牛耳っちゃいましょう!」

「なんでやねーん!」

「おねだりし放題になるかな……って!」

「ほんと、ミルキーはぶれないよね!?」


 ミルキーの口ぶりからして、自分が勇者であろうが魔王であろうが関係なさそうであった。バーレとはまた違って、ミルキーはおかしい女性だと思えてしまう。


 未だに泣き崩れているエクレアのほうがよっぽど常識人だ。彼女は女神原理主義者であり、勇者は女神の使徒であることを信じて疑わない。


 レオンは勇者ではなく魔王である。エクレアにとって、その事実は受け入れがたいのであろうと容易に想像できた。


「女神様ぁ! あたしの勇者様は魔王そのものなのですか!? あたし、勇者様と結ばれたいのにぃ!」

「エクレアちゃん、落ち着いて。レオンくんが三種の神器を集めているのは、レオンくんの中にある魔王を切り離すためなの」

「それって……! 勇者様が言っていたことは本当……だったんですね!?」

「俺、嘘言ってるつもりなかったんだけど!?」


 エクレアが希望を見出されたような顔つきになった。エクレアが勢いよくこちらへと顔を向けてきた。ひくひくと頬を引きつらせるしかなかった。


「勇者様! 三種の神器を集めましょう! あたし、魔王じゃなくて勇者であるレオンさんと結婚したいんです!」

「エクレア! 近い近い! バーレ、助けてくれっ!」

「はいよっ。ほら、エクレア。レオンが困ってるだろ。おれっちも改めて三種の神器集めに協力するから、まずは落ち着けって」


 バーレの手によって物理的にエクレアはこちらから距離を離されることになった。ホッと胸を撫でおろした後、改めて、皆と視線を交わし合う。


「バーレ、ミルキー、エクレア。今まで秘密にしてて、ごめん。ほらさ……魔王だって言ったら引かれると思ってさ……」

「まあ、気持ちはわからんでもない。陽気なおれっちでも初対面の時に言われたら、頭おかしいのか? としか思えなかっただろうし」


 バーレは正直に気持ちを吐露してくれた。バーレとの絆がぐっと深まった気がした。バーレに対して、手を差し出すと、がっしりと握り返してくれた。


「レオンさんに本当のことを言ってもらえて、安心した……。これで本当の意味で世界征服の仲間になれましたねっ!」

「ミルキー!? 俺の魔王の力、悪用しようとしないで!?」

「えーーー? だって、国ひとつ、おねだりしていいってことになりますよ?」

「……。見返りは?」

「その時はレオンさんに……」


 ミルキーがこちらの耳元に唇を寄せてきた。そして、ごにょごにょと小声で見返りの内容を伝えてきてくれた。


 ミルキーから提示された見返りはとんでもなく魅力的であった。


「マジかよっ! 俺、勇者やめちゃおうかな!?」


 ミルキーはなんと「自分の初めてをあげる」と囁いてくれた。その言葉だけで愚息はフル勃起だ!


 思考の全てがピンク色に染まってしまったためにとんでもない発言をしてしまった。本当にミルキーは悪女とも言えた。


「こらっ。レオンくん、ダメよ。魔王の力を侮りすぎっ。レオンくんの精神力じゃ、魔王に身体を乗っ取られるだけよ。その先は世界の敵になる未来しかない。わたくしとも敵対関係になるだけね」

「そうですよね……俺、そんな破滅エンドを回避するために三種の神器を集めるって決めたんでした! 反省します!」

「反省できて偉い!」


 女神がよしよしと頭を撫でてくれた。女神はいつでも自分を正しい方へと導いてくれるありがたい存在であった。


「改めてだけど……俺は魔王を俺の身体の中から追い出したい。皆、俺に協力してほしい」

「おう、おれっちは守るぜ! 全世界のおれっちの真の妹たちをレオンの中にいる魔王からなっ!」


 バーレが快諾してくれた。続けて、エクレアがもじもじとしながら協力してくれると言ってくれた。


 しかしながら、ミルキーだけは面白くないといった感じであった。


「ミルキー。出来る限りのおねだりは聞くから頼むっ!」

「あーあ。せっかく勇気を振り絞って、おねだりしたのに~」

「気持ちは嬉しいよ。でも、俺、勇者として、ミルキーとそういう関係になりたいから……」

「うん。わがまま言いすぎちゃったってのは自覚してる。でも……これだけは約束してほしいの」

「なに?」

「レオンさん……無理しないでね? 竜皇相手に死にかけたんだから」

「あー、うん。善処する!」

「んもう!」


 レオンは苦笑するしかなかった。ミルキーはコメディ担当なのに、急に真剣な顔になったのが意外だった。ミルキーはこちらの身を案じてくれている。それが嬉しくてたまらない。


「三種の神器集め。私も協力するね」

「うん、ありがとうな、ミルキー」


 チェリーと乙女の醸し出す初々しさが病室全体に広がっていく。レオンは気恥ずかしくなって、ミルキーとともにうつむいてしまった。


 そうだというのに、バーレと女神はニヤニヤとした顔つきになっている。エクレアは悔しそうに取り出したハンカチをぎりぎりと噛んでいた……。


「ミルキーさん。正式にライバル認定させてもらいます!」

「ちょっと待って!? 私、そんなんじゃないもん!」


 今まさにキャットファイトが始まりそうになっていた。女性陣に割って入ったのが女神であった。慈愛の女神の本領発揮とばかりに仲裁を買って出てくれた。


「ミルキーちゃん、エクレアちゃん、ありがとうね。こんなすけべなレオンくんだけど、2人で助けてあげてね」


 よしよしと女神が2人の頭を撫でている。それによって、女性陣はお互いににこやかに笑い始めた。


 レオンは気恥ずかしさをごまかすようにこりこりと鼻の頭を擦る。そうでありながらも、

魔王が囁いてきた。


A:ご褒美がないとがんばれないなぁ!?:★

B:魔王の力を抑えるにはエッチなご褒美が必須だって俺の中の魔王が教えてくれた!:★★★★★


(お前さぁ! 空気を読むって知ってる!? でも……今ならいけそうな気もする。本当、惑わしてくるよな、魔王、貴様ってやつは!)


 竜皇を倒すために魔王の力を使い過ぎた反動が今にして出てきているのであろう。魔王が善行スクリーンを悪用しているというのに、女神は気づいている様子を一切見せていない。


 今、目の前に展開しているスクリーンは悪行スクリーンとも呼んだほうが良いのだろう。レオンはどう扱うべきかと考えた。


 しかし、脳みそが頭ではなく下半身に移動している年頃のレオンだ……。冷静に考えることはできない。


「ごめん……俺、三種の神器を集めきる自信がない。竜皇だけでこんなことになってるんだ。ご褒美がほしいにゃん♪」


 ミルキーたちにまともに聞いてもらえるわけがないと思いつつも、魔王のお勧めに乗ってみた。


「はいはい。じゃあ、次の三種の神器を手に入れたら、水着姿を見せるってことで」

「ミルキー様! まじっすか!? 嘘偽りなし!? きわどいのを選んでもいいんだよな!?」

「う~~~ん。きわどいのはちょっと……ね。でも、ワンピースまでなら考える」

「よっしゃ! 言質いただきました! エクレアも着てくれるよね!?」

「あたしはきわどい水着だと胸がこぼれてしまいますので……セパレートでお願いします」

「うひょおおお! やる気出てきた! おい、ポチ! 今すぐ俺に爪をよこせっ! お前もミルキーたちの水着姿を見たいだろ!」


 ポチはいまだに呑気にシーツの中で女神のピンナップイラスト集を読んでいた。そのポチをシーツの中から引っ張り出して抱きかかえた。


 ポチはイヤイヤ! と自分の腕の中から逃げ出そうとした。しかし、決してポチを逃がすつもりはなかった。


「ちょっと、レオンさん。ポチが嫌がってるわよっ!」


 ミルキーが自分を止めに入った。彼女から見て、自分は動物虐待しているように見えたのであろう。だが、こちらは大真面目だ。ミルキーたちの水着姿を是が非でも拝みたいのである。


 だからこそ、ポチの正体をミルキーたちに告げてみせた。


「実は……ポチは白銀狼……なんだ」

「えええーーー!?」

「爪切りがすごく嫌いらしくて、昔はヘラクレス相手に街ふたつと城ひとつを破壊したらしい」

「いやーーー! 竜皇との戦いが終わったばかりなのに、今すぐ白銀狼と戦えるわけないでしょーーー!」


 ミルキーが頭を抱えてさらには金色の髪を振り乱した。エクレアは膝から崩れ落ちて、口から泡を噴き出している。


 バーレは「しっかりしろ!」とミルキーたちを介抱し始めた……。


「いや、そんな大層ことにならないって!? ちょっとリゼルの街が損害を喰らうだけだって!」

「ばっかやろう! ポチの爪切り禁止! 反対! ダメ絶対!」

「バーレ! さっきは俺に協力してくれるって言ったじゃんかよー!」

「無策で挑むなって言ってんだよっ!」

「無策って失礼だなっ! 俺のことをバカって言ってるのと同義だぞ!?」

「何度も言ってやるわっ! バーカ!」


 レオンを中心にして、病室はひっくり返したような大騒ぎとなってしまう。レオンがシーツの中に隠していた女神様のエッチな本が宙を舞ってしまった。


「俺のお宝がーーー!」


 レオンはエッチな本を注視した。ポチを手放し、ベッドからジャンプして、エッチな本をキャッチする。さらにはバーレへと「これがどんなに大切なものか知ってるのか!」と怒号を浴びせた。


「爪切りなんて大嫌いだワン!」

「ポチーーー! 行かないでー!」


 レオンは両腕でがっしりとエッチな本を抱えている。二度と失ってしまってなるものかとばかりに身体が動かなくなってしまった。


 そうしている間にもポチはそそくさと病室の外へと出て行ってしまった……。

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