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第51話:新たなトラブル

 レオンは白銀狼のポチに逃げられることになった。しょげていると女神がよしよしと宥めてくれた。


「あの子、ほんと、爪切りだけは大嫌いなの。レオンくん、何か考えておいてね? じゃあ、わたくしはリゼルの街の復興のお仕事に行ってくるわね」


 女神はそう言うとその場から消えてしまう。レオンは照れ笑いしながらバーレたちの方へと顔を向ける。


「丸投げされちゃった!」

「やれやれ……まあ縁があればまたシヴァ犬に会うだろ」

「でも、どうやって爪切りすればいいのか……? エクレア、案をどうぞ!」

「えっと……ぱふぱふしてる間に爪を切るってのはどうでしょう?」

「さすがはGカップのエクレアだぜ! それだーーー! 天才すぎるだろっ!」


 ポチの爪切りの方法を思いついた。ならばとレオンたちは逃げたポチの情報を手に入れるために冒険者ギルドへと向かう。


「お姉さん! すけべづらしたシヴァ犬がどこに行ったかわかりませんか!?」

「ちょっと!? うちは迷い犬相談センターじゃないわよ!?」


 受付のお姉さんは戸惑っていた。当たり前の話だ。お姉さんに事情をかいつまんで説明した。それでもお姉さんは困り顔である。


「うーーーん。にわかには信じられないけど……そのポチって子が白銀狼なのね?」

「はい! 女性のショーツが大好きで、エッチな本も大好きなすけべな犬です!」

「それ……レオンくんのことじゃ?」

「失敬なっ! 俺はショーツをくんかくんか嗅ぐような変態にまで堕ちてません!」

「じゃあ、お姉さんのショーツをあげるって言ったら?」

「ぐわぁ! 俺は変態だった!」


 お姉さんはクスクスと笑っている。都会の女性というのはチェリーボーイの扱いが上手すぎると感じてしまう。


 お姉さんは「ちょっと待ってね。何か情報が入ってないか調べてくる」と言って、受付の奥へと消えていく。その後ろ姿を見送りながら、お姉さんの肉付きの良いお尻に視線を向ける。


 むふふ……と目の保養をしていたら、バーレがこちらに寄りかかってきた。


「よう、ヒップブラザー。シヴァ犬の行方がわかったら、すぐに直行するのか?」

「そりゃそうだろっ」

「病み上がりだってのに元気なもんだぜ。竜皇を倒した報奨金も出たんだし、その金でしばらく養生してりゃあいいってのに」


 バーレにそう言われたのはいいが、こちらとしては動揺するしかなかった。竜皇を倒したとなれば、目が飛び出るほどの報奨金をもらえるはずだ。


 そうだというのに、そのことを今になって教えてもらった。自分の取り分をもらおうと、バーレに聞いてみた。


「ミルキーが預かってるぜ」

「オーマイ女神様! それ、俺に一銭も返ってこないじゃん!」

「失礼です! まだ手をつけてませんっ!」

「ミルキー……信じていいんだよね!?」

「……」

「無言はやめてよっ!」

「えへへ……。はい、レオンさんの取り分です」


 ミルキーが虚空の先に手を突っ込み、そこから革袋を取り出した。革袋はパンパンに膨らんでいた。


 それを手渡してもらった瞬間、ずしりとした重さを感じた。レオンは思わず、ニンマリとすけべ全開の顔になった。


「おだいじーん、おだいじーん!」


 ミルキーがこちらを囃し立ててくれた。ますます頬が緩んでしまう。革袋の中身を確認するまでもないくらいの大金を手にいれることができた。


「おーーーん。ミルクくん。何を買ってほしいんだい? お兄さんが好きなモノを買ってあげようではないか」

「魔法使いのローブでしょ。魔法使いの帽子でしょ。それに魔法使いの腕輪!」

「がーははっ! 好きなものを買ってやろうではないかーーー!」


 金で幸せを買うことはできないと言われている。しかし……だ! 金が笑顔を運んでくることは事実である。


 レオンは浮かれっぱなしとなっていた。そんな自分の頭頂部にコツンッと衝撃が走る。思わず、頭を抱えて、その場で身体を屈めることになった。


「ほっほっほっ。相変わらず賑やかじゃな」

「謎の老人さんかよ……説教はよしてくれよ?」

「そこまで無粋じゃないわい。ニセ勇者よ。改めて礼を言わせてほしい」


 杖をついた謎の老人はいつもの飄々とした態度とは変わって、礼儀正しく、こちらに頭を下げてきた。こちらは戸惑ってしまう。


 受付のカウンター前で騒がしくしていたのだ。咎められるとばかり思っていた。こちらの予想を裏切る行動を取ってきた、謎の老人は。


 好々爺こうこうやの雰囲気を崩さずに、こちらを歓待してくれた。


「よくぞ、竜皇を退治してくれた。約束通りランクアップを認めよう。今度からは『おふざけ勇者』と名乗るがよい」

「え? そのおふざけ勇者になると、どんな特権がもらえるんですか?」

「ほっほっほ。戦闘中のおふざけを許してもらえる特権じゃ!」

「それ、今でもやってますよ!?」

「戦闘中に踊ってもいいんじゃぞ?」

「女神様から踊りは封印しろって言われてますーーー! こんな特権なら他人の家のタンスを漁り放題になるタンス漁り勇者のほうがよかったよー!」


 レオンはランクアップを果たしたが、素直に喜べるものではなかった。自分は戦闘中、至って真面目に頑張っているつもりだ。


 結果として、おふざけ全開となっているだけだ。せっかくランクアップしたが、それで何かが変わると思えない。それが『おふざけ勇者』という言葉から受けた印象であった。


(俺は踊りを封印するしかないんだよな……竜皇相手にいちかばちかで妖しい踊りを披露したら、マジで悪魔を召喚しちまったし)


 レオンは窮地を脱するべく、竜皇相手に自分の踊りを披露してみせた。予想が的中してほしくないという思いはあった。だがオダーニ村を襲った山羊頭の悪魔が戦場に現れた。


(オダーニ村の皆、ごめんな……悪魔の襲撃は俺が原因だったって判明した。もうオダーニ村には帰れないな。皆に合わせる顔がないよ、トホホ……)


 しくしくと嘆きながら、他にも特権が無いか謎の老人に聞いてみた。謎の老人は顎の白い長髭を手で触りながら、こちらの問いに答えてくれた。


「国王に謁見し、さらには意見できるほどになったぞ。どうじゃ? 嬉しいじゃろ?」

「えっ。国王よりも可愛い子に会いたい……はっきりと言えばお姫様がいいっ」

「こいつっ!」


 謎の老人の顔には青筋がくっきりと浮き出た。どうやらお怒りに見える。レオンは苦笑しながら老人に平謝りした。


「まったく! おぬしと話していると血管がキレそうになるわいっ!」

「どうどう……そういう時は深呼吸が一番ですよっ」

「……まあいい。それよりもシヴァ犬に擬態した白銀狼の行方を追っているとのことじゃったな」

「爺さん。何か知ってるの?」

「うむ。最近、女性のショーツを頭に被った怪しげなシヴァ犬がリゼルの街に出没しているという怪情報がちらほらと冒険者ギルドに届けられておったのじゃ」

「……ポチ。何やってんの!?」

「あまりにもくだらぬ怪情報じゃったから、無視していたのじゃが……」

「気持ちは痛いほどわかります、はい」


 謎の老人の話は続いた。頭にショーツを被った怪しげなシヴァ犬は特にセントラル・センター付近で見かけるという話だった。


 謎の老人の推測では、意味もなくセントラル・センターに出入りしているわけではなく、明確な理由があって、そうしているのであろうとのことだった。


「爺ちゃんの推測とポチがやりそうな行動をまとめると……ポチが次に狙っているのは町長のご息女のショーツか」

「わしはそう思うのじゃが、レオンはどう思う?」

「うん、普通なら一蹴するけど、ポチならやりそう……」

「では決まりじゃな。さっそく、おふざけ勇者の特権を使って、町長に会いに行くがよい。アポ無しでも問題ないぞ」

「改めて考えると、なかなかにすごい特権ですね」

「そうじゃろ? 悪用もできるぞ。町長のご息女に夜這いをかけても不問じゃ!」

「すっげーーー! おふざけ勇者最高!」

「でも、責任はしっかり取るのじゃぞ?」

「……つかえねーじゃねえか!」


 レオンたちはポチの行方の情報を手に入れると、さっそく、この街の町長に会いにいくことになった。しかしながら、いざ出発しようとすると、謎の老人に呼び止められた。


 老人が言うには魔導爆弾の件をまとめた提出書類を町長に渡す予定であった。ついでにこのお使いクエストもこなしてくれないかと頼まれることになった。


 レオンたちは快諾するや否や、老人に分厚い書類の束を受け取ることになった。それを収納魔法で虚空の向こう側へと仕舞う。


 冒険者ギルドの外へ出る際には受付のお姉さんが「がんばってねー」と見送ってくれた。これで元気はつらつ100倍だ! 意気揚々とセントラル・センターへと向かう。


 セントラル・センターは竜皇との戦いが終わったというのに、未だに地上戦艦の姿のままであった。


 レオンたちはなんで武装を解かないのかと不思議に思いながらも、その地上戦艦姿のセントラル・センターへと到着する。


「マジで顔パスなんだな……レオン、お前、どんどん出世していくな!」

「へへ……バーレ、俺を褒めても何も買ってやらないぜ? お前は残念ながら男だからなっ!」

「お、おう。期待なんてこれっぽっちもしてないけど!? むしろ何か買ってもらうようなことがあったら、おれっち、お尻の貞操を気にしちまうよっ!」

「安心してくれ。俺はそっちの気がないっ!」


 レオンたちは他愛のないことを話しながら、地上戦艦に務める船員たちの案内に従った。艦橋に町長がお待ちしてますという言葉をそのまま信用しきっていた。


「えっと……ここ、艦橋じゃありませんよね。むしろ牢獄とかそういう類に見えますよ!?」

「はははっ。ここは艦橋ですよ。そちらこそ何を言っているんです?」


 船員は朗らかに笑みを浮かべているが、目はちっとも笑っていない。レオンたちはひくひくと頬を引きつらせるしかなかった。


 さらには後ろにいた船員たちが一斉に槍の穂先をこちらの背中へと向けてきた……。目の前は鉄格子が嵌った殺風景な牢獄。


 どうやっても衝突は避けられそうになかった。ここで大暴れして脱走を試みるのも良いが、レオンに待ったをかけるように善行スクリーンが開いた。


A:リゼルの街の状況を知るためにも虎穴に飛び込む:☆☆☆★★★

B:脱走する。


 女神だけでなく魔王もAをお勧めしてきた。町長側に何か事情があるのだろうと察した。レオンは手振りでバーレたちに自分の意思を伝える。


 臨戦状態に入ろうとしていたバーレたちが武器を収める。そうすると同時に船員たちがホッと安堵しているように見えた。あちらも無用な争いを回避したがっているように感じた。


(んもう! 俺のこのトラブル巻き込まれ体質、どうにかしたいよぉ!)


 レオンは竜皇からリゼルの街を救った英雄のはずであった。だが、それに反して町長はレオンを歓待するどころか、牢獄送りにしてくれた……。

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