中身が空の水の樽と、食料を詰めた箱を荷車に積み込んだ。水は明日の朝に詰める。
クルルが荷車を繋げと騒ぐが、今日はまだ出発の日ではないので、ディアナが宥める。
「クルルル」
「よしよし、出発は明日だから、また明日頑張ろうね」
「クルルルルルルル」
言われたクルルは大人しく引き下がった。明日には出発ということがちゃんと分かったらしい。
ルーシーやハヤテは自分たちの出番ではないことを理解しているようだし、マリベルは言わずもがなである。
「よーし、今日は俺も一緒に遊ぼうかな」
普段は仕事の片付けや、夕飯の準備で遊んでやれないことが多いし、休日もなんだかんだで家のことをしていたりして、あまり遊ぶ時間がとれなかったりする。
だが、今日は仕事の片付けもないし、夕飯の準備までには時間がかなりある。たまには娘たちと遊んでも罰は当たるまい。
告げられた娘たちは大変に喜び、俺はグルグルと肩を回して気合いを入れた。明日に響かない程度にしておかないとな……。
翌朝、水汲みをして朝食をとった俺たちは、それぞれ身支度をととのえ、いよいよ〝黒の森〟の探索へ向かう。
水瓶を荷車にあげて、そこから樽に水を移した。それでは出発、というところで俺はふと思い出した。
「ああ、ジゼルさんとリュイサさんに知らせとかないとな」
この〝黒の森〟の主であるリュイサさんなら、探せば俺たちがどこにいるかは分かるだろう。
だが、一応連絡はジゼルさん経由で、となっているのだ。
そして、その連絡方法とは、
「この伝言板を使うのも久しぶりだな」
伝言板に書いておく、なのである。レトロだが、スマホはもちろん携帯電話などというものがまだ存在しないこの世界において、一方の居場所が特定できない場合にとる連絡手段としては一番確実だろうということで採用している。
「『しばらく出かけます。ずっと〝黒の森〟にはいるので、急のご用あればリュイサさん経由でお呼び出しください』っと。これでいいかな?」
「そういえば、妖精さんって字が読めるのね」
「そういやそうだな」
何か教育を受けているわけではないはずなのだが、不思議と普通に文字は読めているし、少し先に出てくるはずの概念を教えても完全とは言わずとも理解出来ていたような。
「今度会ったらそれとなく聞いてみようかな」
文字にこめられている思いのようなものを感知しているとかだろうか。少し興味が出てきたし、失礼にならない範囲で聞いてみよう。
娘たちとのコミュニケーションにも応用できるかも知れないし。
「よし、それじゃあ行くか」
『おー』
「クルルル」
「ワンワン!」
「キュイッ!」
こうして、我ら〝黒の森〟探検隊は、その一歩を踏み出した。