「そういえば、いつもの狩りで行く範囲はどれくらいなんだ?」
先頭を歩くサーミャに、俺は尋ねた。俺は基本狩りにはついていかない。一度サーミャと2人で出かけたことはあったが、その時も思い切って遠くに行ったりはしなかった。
確か、普段の狩りよりは遠くまで行っていなかったような記憶がある。主に俺の体力の問題があるのだが。
サーミャの耳がピコッと動いて、頭だけ振り返る。
「あんときも言ったかもだけど、そんなに遠くには行ってないな」
「そうなのか」
俺が言うと、サーミャと一緒にリディも頷いた。
「獲物を運ぶ問題もありますからね。クルルちゃんのおかげで遠くでも平気ではありますけど」
「ああ、なんかそんなことを聞いたような気もするなぁ」
ぐるりと周りを見回してから、アンネが言った。
「あちこち回っていくから、動いてる時間の割には移動してないはずね」
「じゃあ、サーミャ以外が〝黒の森〟を遠出するのは初めてか」
全員が大きく頷いた。なんとなく皆から伝わってくるワクワク感は、初めて行く場所への期待感もあるってことだな。
まぁ、かく言う俺もそうなのだが。
本来は「恐るべき場所」であるところの〝黒の森〟を警戒しつつも旅行気分をまじえて進んでいく。
荷車にはハヤテ以外誰も乗っていない。ルーシーとマリベルも乗せようとしたのだが、2人とも歩く(マリベルはちょっと浮かんでいるが)ほうを希望したので、特に止めることなく皆と歩いている。
流石にハヤテは地面を歩くことには向いていない。かなりヨタヨタと歩くことになるし、大変そうなので本人は歩きたがったのだが荷車に乗って、クルクルと忙しなく首を巡らせてあちこちを見ている。
俺たちが荷車に乗らないのはクルルの負担はもちろん、荷車の負担も考えてのことだ。
森の中は当然ながら街道のように道が整備されている訳ではない。元々ガタガタの地面に石や木の根が露出していて、より荷車に衝撃を与えてくる。
いくらサスペンションを搭載していても、吸収できる衝撃には限度がある。
なるべく軽くして、故障するリスクを減らし、少しでも遠くまで修理なしに荷車が使えるようにしておくべき、となったので皆降りて歩いているわけだ。
行く先々がガタガタなのは皆承知しているから、サスペンション付でもいかんともしがたい乗り心地よりも歩いた方がマシ、と思っている可能性も充分あるのは否定できないが。
小鳥のものだろうさえずりを聞きながら、少し暗い森の中を進む。日が中天に上ればもう少し明るくなるのだが、それにはまだまだ時間がある。
「この暗さは地の利がある俺たちには有利かな」
「多少はな」
俺がボソリと言ったのを聞いたヘレンが答えた。
「暗いと進もうって気が削がれるのは確かだけど、あの家まで来る連中だからな、どこまで効果があるかは……」
「微妙な面もあるな」
「うん」
ヘレンは頷いた。あの家までも充分に薄暗く、とてつもなく危険だと言われている中を進んで来ないといけないわけで、そこから逃げる連中を追うのにその時点で怖がるのは今更か。
僅かばかり見覚えがあるような森の中、俺たちはのんびりと進んでいった。