「さて、そろそろ大休止かな」
少し立ち止まっての休憩は何回か挟んだが、完全に止まって休止はしていない。逃亡中の想定とはいえ、補給せずに進んでいくのも現実的ではない。
本当に逃亡中で、サーミャやヘレンの助言があればずっと歩くことを選択することもあるだろうが、そうでない限りはちゃんと飯を食う時間は確保していきたい。
飯のありなしは、その後の行動に大きく影響するからな。
ただ、かまどの準備をしている時間は流石になかろうということで、しっかりと煮炊き……というわけにはいかず、干し肉と乾燥野菜を水と一緒にとることになった。
「これはこれで旅行の途中感があって良いな」
俺は口の中の野菜を呑み込んでから言った。
こう、前の世界で新幹線に乗っている間の弁当というか、サービスエリアで食べる軽食というか、そんな風情がある。
サービスエリアでは地元のものを食うのも良かったが、フランクフルトが妙に美味かったんだよなぁ。
「ちょっとのんびりしすぎてるかな」
俺がそう続けると、サーミャが小さく笑う。
「まぁ、今は〝本番〟じゃないんだし、多少はいいんじゃないか。なぁ」
そうサーミャが言うと、話を向けられたクルルが、
「クルルルル」
と高らかに同意の声をあげて鳴き、俺たちの間にあまり大きくない笑い声が生まれた。
「エイゾウは行軍についていったんだっけ?」
「ん? ああ、そうだな」
ヘレンに話を向けられて、俺は頷いた。
リディの住んでいた森で魔物が発生し、それを討伐するためにマリウスが率いた魔物討伐隊に鍛冶師として従軍したことがあった。
ヘレンは続けて俺に尋ねる。
「そんときはどんくらい休んだ?」
「そうだなぁ、あの時は1時間より短いくらいだったな」
急がないわけでもなかったが、別に逃走でもなかったし、何より人数がこんな小規模ではない。
ちょっとした軍隊規模(実際にちょっとした軍隊ではあるのだが)での移動だったので、そこそこの時間を休んだような記憶がある。
とはいえ、あの時も悠長にかまどを組んで煮炊きするような時間はなかったので、昼の休止では簡単なものしか食べていない。
ただ、1時間あっても結局身の回りの点検やらもしていて、完全に身体を休めていたのは30分か45分程度だったように思う。
その辺りも説明すると、ヘレンは納得するように頷いた。
「じゃあ、アタイたちもそれくらいまでには切り上げたほうが良さそうだな」
「そうなのか」
「そんなことないっていうやつもいるんだけど、アタイの経験上、あんまり休憩が長いと今度動くのが大変だからな。まぁ、うちの面々なら平気かも知れないけど」
「へぇ」
確かに前の世界でも、小学校だか中学校だかくらいに、山登りが趣味の先生からそんなことを聞いたような記憶がうっすらある。
いかんせん30年は前の話なので記憶がかなりあやふやだが。
「移動することが目的なんだし、野宿するところを決めるまでは休憩は早め早めに切り上げていくか」
「だな」
再びヘレンが頷く。彼女がチラリと皆を見回すと、家族の皆はクルルやルーシーも含めて了承の頷きを返すのだった。