「よいしょ。こう?」
「そうそう、上手だぞ」
「へへー」
石を積んだマリベルの頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。石を積んでいるのは勿論「一つ積んでは父のため」などではなく、かまどを組んでいるのである。
ほぼ煙も火も見えないようなかまども作ることは出来なくはないのだが、時間がかかりすぎるのと、本番想定ではあるが夕食時くらいはのんびりできても良かろう、ということでなしにした。
ヘレン曰く、
「本番でも1日のどこかでのんびりする時間がないと潰れるぞ」
とのことでもあったし、皆は狩りにも行くので通常のかまどを作って、そこそこ時間をかけて調理をする。
と言っても、基本的には水を張った鍋をかまどの火にかけて、そこに材料を入れて煮込むのと、余裕があれば火の周りで肉を焼くくらいのものだが。
「クルルル」
「クルルありがとう!」
「クルルルー」
クルルはかまどにする石を持ってきて、マリベルに渡している。
石を探すのはハヤテの役目のようで、クルルの背中に乗って、そこから周囲をグルグルと見回したかと思うと、
「キュ」
と鳴いてクルルに指示を出していた。
指示を出されたクルルは素早くそこへ向かって石を拾い上げ、マリベルの所へ持ってくるというルーチンが完成していた。
「よし、それじゃあかまどは任せたぞ」
「うん!」
「クルルルル」
「キュイッ」
娘達の元気な返事を背に、俺とリケは水を汲みに向かった。
泉は野営場所に決めたところからはそんなに離れていない。すぐに荷車に積んでいた樽(瓶では悪路を輸送するのに都合がよろしくない)に水を汲んで戻ってくる。
戻ってくると、かなりかまどの形ができてきていて、それを見たリケがマリベルを褒める。
「マリベルは上手ね」
「へへ、火が関係するからかも」
マリベルは炎の精霊である。その彼女が作業するとき、火に関係する何かの場合はチートのようなものが働くのかもしれない。
ちょうど俺が少しでも鍛冶や生産だと認められれば、その関連のチートが手助けしてくれるように。
「おお、これならもう鍋を置いても大丈夫そうだな」
「ほんと?」
「ああ」
嬉しそうに尋ねてくるマリベルに、俺は笑顔で答える。すると、マリベルはニンマリと満面の笑みを浮かべた。
そこらの木の枝をいくつか見つくろい、マリベルが作ってくれたかまどに入れる。
「頼んだぞ」
「任せて!」
そう言って力こぶを作って見せるマリベル。彼女が、
「えいっ!」
と気合いを入れると、あっという間に火が熾った。火はパチパチと音を立てながら大きくなる。
そこに木の枝をいくつか追加して、火は炎へと成長した。
「よしよし、ありがとう。あまり遠くへ行かないなら、遊んでても良いぞ」
「いいの?」
「おう、後は俺たちに任せとけ」
「わかった!」
マリベルはそう言うが早いか、クルルたちに「あそぼ!」と言って駆けだしていった。