遠くへ行かないように、との言いつけを守って、俺たちから見えるところを娘達が駆け回っている。
それを眺めながら、汲んできた水を鍋に入れて火にかけて、塩漬けの肉の塩を払ったものを切って放り込む。
塩味はこれで調整し、あとは干し肉と野菜を切って放り込めば、そこからの旨味で食べるのには困らないくらいになる。
これくらいの準備ならそう長くはかからずに出来る。焼いて食う肉は獲ってきて貰うので賄えるだろう。
すぐに消費するのは幾分味は落ちるが、食うには困るようなこともないので、今日食べる分はそのまま焼き、残りは焚き火の遠火で乾燥させて干し肉にし、明日以降の食料にするのだ。
「じゃ、頼んだ」
「はい、任せてください!」
リケに火の管理を任せて、俺はほんの少し周囲を彷徨くことにした。散歩ではなく、焚き火にくべる薪を更に集めるのだ。
野営地の近くにも、鹿か熊か猛禽類か、はたまた強風によるものかは分からないが、そこそこ太い枝が折れた跡を見せながら地面に転がっている。
「おっと、なるべく乾いたやつにしないとな」
適当に集めて、乾燥していない生木が含まれていると、それには火がつきにくいし、爆ぜて危ないことがある。
なので、乾いているかを見た目と触るのとで確認し、最近折れたらしい乾いていないものは避けて、乾いているものだけを集めては焚き火のところまで持っていく。
「なにしてるの?」
2、3回ほど繰り返したところで、マリベルに声をかけられた。結構走り回っていたはずだが、息があがっている様子がない。
それが精霊だからなのか、純粋に有り余る体力を消費しきっていないからなのかはわからない。
見ればクルルもさほど息が上がっていない。彼女の場合は純粋に体力があるからだろう。
ハヤテは木の上で周囲を警戒しつつ、時々地面に降りる、というのを繰り返していたので、運動量的には大したことがないからか、彼女も平然とした顔をしている。
「こうやって乾いた枝を集めてるんだよ」
俺はさっき拾った薪をマリベルに見せた。
「やっていい?」
「もちろん」
キラキラと目を輝かせるマリベルに、俺は頷く。
「よーし、それじゃあクルル、ハヤテ、競争ね!」
「クルルルル」
「キュイッ」
マリベルに言われた2人が同意したように声をあげた。俺は慌てて付け足す。
「遠くに行くんじゃないぞ。近くにも充分落ちてるからな」
「わかってる!」
そう言って俺にブンブンと手を振って、うちの娘たちはそれぞれ散っていった。
いや、散っていったと言うには多少の語弊があるかも知れない。クルルとハヤテはすぐにマリベルのところまで行けるような位置を常に保っているようだ。
俺はその様子を微笑ましく見守りつつ、娘たちに負けないよう、頑張って乾いた木の枝を探すのだった。