「足りそうか?」
「これだけ持ってきてくれれば大丈夫だと思いますよ」
火の番をしていたリケに尋ねると、返ってきたのは笑顔と頷きだった。いくらかは既に荷車に積んだが、それでも充分なようだ。
この辺の塩梅について、俺はよく分からない。
魔物討伐遠征隊のときと、ヘレン救出作戦のときに野営した経験はあるが、焚き火は慣れている人に任せきりだったからな。
こういうことがあると分かっていれば、慣れていなくても後学のためにともう少し探りながらできたのだろうが、後悔先に立たずである。
今回のこれで慣れていくしかないだろうなぁ。
リケはドワーフの風習でうちに来るまでに、そこそこの期間を旅していたので、こういったことに関しては俺よりも経験値が高い。
流石に傭兵稼業が長かったヘレンほどではないが、それでも経験者のリケが太鼓判をおすなら平気そうだな。
「よし、それじゃ、仕上げるか」
「お願いします」
俺は火にかけられて、その中身をぐつぐつと煮えたぎらせている鍋の中身をかき混ぜた。
ごくごくシンプルな肉と野菜の匂いが漂ってくる。匙を使い、少し掬って味見をする。
完成だと言っても問題はなさそうだが、チートが僅かな改善の余地を示してくれたので、それに従って少しだけ持ってきた香辛料で味を調える。
「飯の味は士気に関わる」
とのヘレンのアドバイスもあって、俺が持ち運んでも問題ないくらいの量だけは香辛料を持ってきているのだ。
「うん、こんなもんかな」
シンプルな肉と野菜の出汁というか、旨みというか、そんな感じのものが出ていて、これだけでも腹を満たして満足するには充分だろう。
「おーい、これくらいでいいかー?」
スープを完成させて、うんうんと一人で味に頷いていると、サーミャの声が聞こえる。その手には大きめの塊肉を提げている。
「おー、立派立派。みんながそれくらいで良いなら問題ないだろ」
俺が言うと、サーミャは「分かった」と言って、俺に塊肉を差し出した。
サーミャから受け取った塊肉を一旦木皿に置いておき、人数分(もちろん娘たちも頭数に入っている)に切り分け、先を尖らせた細めの木の枝に刺し、塩を振ってから焚き火のそばに肉が地面がつかないよう設置した。
この後「上手に焼けましたー♪」になるかどうかは俺の腕にかかっているが、まぁチートの手助けもあるのでそうそう失敗はするまい。
少し待つと、肉はチリチリと声をあげはじめた。直火で一気に、というよりは少しだけ離してややじっくりと火を通していく。
全部の肉の向きを変えて、まんべんなく火が通るように調整していると、明日の準備をしていたヘレンがやってきた。彼女はこういうことに慣れているからいち早く終わったのだろう。
「どうだ?」
「んー、まだかかるかな」
ヘレンに聞かれ、俺は肩をすくめて答えた。
肉は表面の色こそ変わってきたが、まだまだ中までは火が通っていないだろう。
流石に野生動物の肉を非加熱で食う勇気は俺にはない。前の世界でも充分に危険だったが、ここは魔力が満ちる〝黒の森〟である。どんな寄生虫がいるか分かったものではないからだ。
「そうか……」
「まぁ、ここまできたらそんなに時間はかからないから、もう少しだけ待ってくれ」
「わかった」
ものすごく真剣な表情で頷くと、ヘレンは他の皆の準備を見に戻っていった。