「いただきます」
『いただきます』
「クルルル」「ワンワン」「キュイッ」
すっかり日が沈んでしまって真っ暗な森の中、俺たちは手を合わせて夕食を始めた。
月明かりもあまり届かない、それも危険な獣がウロウロしていて、いつ命を落としても不思議ではないと言われているようなところでは、普通なら焚き火があっても、のんびり食事をするような気分にはならないのだろう。
だが、俺たちにとっては「勝手知ったる」である。あまり恐怖心を覚えずに、いつも通りな食事の開始にはなった。
娘たち、特にクルルにとってはみんなと同じところで同じように(さすがに食器を使ったりはしないが)食べられるのが嬉しいようで、「いただきます」のあと、食べながらクルクルと器用にごきげんな声をあげている。
それはルーシーやハヤテも同じようなものらしく、クルルの隣に仲良く並んで焼いただけの肉を頬張っており、ルーシーは目に見えてウキウキで、ハヤテはそんな2人の様子を見つつも、少しテンションが上がっていることが食べっぷりから窺い知れた。
「仲良しねぇ」
そんな娘達の様子を見て、デレデレに目尻を下げているディアナ。
更にそんな様子で俺たち家族全員の顔に笑顔が浮かんだ。
「なるほど」
口をモゴモゴとさせながら、ヘレンが頷いた。野外のほとんど即席に近いような料理だが、不満がないようで何よりだ。
「限界を知っておくのはいいと思う。アタイたちのほうが足が速くて|長(・)|い(・)のは間違いないけど、知ってるのと知ってないのじゃ、いざというときに違ってくるからな」
「ただ、限界ってもどれくらいかってのがあるだろ?」
「うん」
それ以上は本当にもう一歩も歩けない、となるまで移動するのが「真に限界」といえるのだろうが、そんなことをすれば翌日に響くし、それ以前に当日に何かあった場合にそれ以上動けない、なんてことは絶対に避けなくてはいけない。
ある程度余力を残しておく必要はあるだろう。
では、どの程度がベストなのか、という話になってくるわけだが。
「理想を言えば、その日移動した分の4分の1くらい余分に動けると良いかな……」
「結構余裕を持たせるんだな」
「感覚だけどな。丈夫なのだけを集めて追っかけてきたとして、そこからそれだけ追いかけてこれるやつはそうはいない。いたとしても返り討ちにできるだけの体力って考えるとそれくらい欲しい」
「なるほど」
さすがはプロと言うべきか、俺には説得力のあるもののように思える。
「サーミャはどうだ?」
「ん? いいんじゃね?」
サーミャはあっさりとヘレンへの同意を示した。
「アタシは森の中を1人で動くのはわかるけど、それ以外は分からないから」
「それもそうか」
こと行軍、という話であればサーミャは全く経験のない話だ。厳密には魔物退治でちょっとだけやったことはあるが、まぁあれは日帰りだったしな……。
「じゃあ、明日は適度に、でもなるべく遠くまで行くってことで」
俺がそう言うと、バラバラと了解の声が返ってくるのだった。