鍋の中もすっかり空になり、焼いていた肉もすっかり姿を消した頃、ふと空を見上げるとそこには満天の星が見えていた。
まぁ、満天といっても木々の枝にいくらか阻まれているのだが。
それでも、見えない部分にも沢山の星があることは容易に想像できる。
「うちの外のほうが星は見えるんだろうが、ここで見るのもなんだか雰囲気が違って良いなぁ」
うちの周りには木が生えていない。その分、空が見える範囲は広いわけで、当然見える星の数も多い。
見える星座というか、星の並びもそう大きく変わらないはずなのだが、枝で隠れて普段と違った見え方になることで、また新鮮な星空に見える。
いささか前の世界の感覚すぎただろうか、と少し不安になっていると、
「そうねぇ……」
ディアナがそう言って空を見上げる。僅かばかり残っていたのだろう水分で木の枝が少し爆ぜてパチンと音を立てた。
「実のところ、前は星を見て『ああ綺麗だな』ってのはよく分からなかったのよね」
うんうん、と皆が頷く。娘たちも理解しているのか、皆に合わせただけなのか頷いている。
「でも、エイゾウが時々星空を見上げてるのを見てると、良いものなのかなって」
「だなぁ」
立って腕を組み、空を見上げるサーミャ。
「アタシもこの〝黒の森〟に住んでたから、ずーっと見てたけど、そんなに感動するもんとは思ってなかった」
「え、俺、感動してたか?」
いや、感動した記憶はある。前の世界では光害で特に明るい星しか見たことがない(残念ながら、キャンプで星空を眺めるような時間はなかった)ので、こちらに来てから星空を見たときはかなりの数が見えて感動したものだ。
しかし、それを誰かに言った記憶はない。
もしかしたら口に出していたかも知れないが、この世界で「満天の星空を一度も見たことがない」というのは有り体に言って嘘にしかならないので「はじめて見た」とは言ってないはずだ。
「うん。ありゃどう見ても感動してただろ。めちゃくちゃ目がキラキラしてたし」
どうやら、口には出さないが全力で表情に出ている瞬間があって、それを見られたらしい。
俺は頬を掻きながら言った。
「そうか? 覚えてないなぁ……。でも感動はしてたな。あっちとは見えかたがかなり違うからな」
嘘はついていない。見え方があっち――前の世界――と違うのは確かなのだから。
「ま、それはいいんだけど、それでアタシも見るようになったら……」
そう言ってニッとサーミャが笑った。
「ああ、近くにこんな綺麗なもんがあったんだなぁって思うようになった」
「……そうか」
家族の皆はニコニコと笑顔を浮かべて頷いている。
俺はなんだか気恥ずかしいような気分になって、
「さ、それじゃあ片付けるか」
そう言って、片付けを始めるのだった。