〝黒の守り人〟。この〝黒の森〟の守護者たる称号であり、この森では精霊達から恩恵を受けられ、他の森でも一目置かれるという。
恩恵を受けられる、ということはそれに対するリターンを提供する必要がある、ということだ。
普段は守護者であること自体がそれに該当しているのだろうし、実際「妖精族の医者|(のようなもの)」であるから、半ば責務を果たしてはいるだろうが、いざことあらば対応するのも立派な責務ではあるだろう。ちょうど邪鬼を倒した時のように。
つまるところ、今目の前でペコペコしている女性……。
「まだ何も伺ってないですし、とりあえず頭を上げてください」
のペコペコを俺はまず止めさせることにした。
頼まれごとはうちの家族が大きく不利益を被るようなものでなければ基本うけるつもりをしているが、逆に言えば不利益を被りそうなら称号を返上してでも断る可能性がある。
〝頭の下げ損〟なんてことにはしたくないので、あまり畏まって欲しくはないものである。元々頭を下げて貰うこと自体、俺としては遠慮したいことなのだ。
「す、すみません……」
俺に言われて、そうっと、そしておずおずと女性は頭を上げた。
長い緑の髪に緑の瞳。衣服も緑だが、肌の色は透き通るような白である。気弱そうに眉尻が下がっているのと、ペコペコと頭を下げていることがなければ、アンネ以上にぽわぽわした人だなと判断したかもしれない。
「それで、助けて欲しいことというのは? もしかして魔物ですか? ええと……」
俺はまだ彼女の名前を聞いていないことを思いだした。
「あ、私はラティファって言います。木の精霊です」
「木の精霊……ってことは
やっほーと手を振るリュイサさんの姿が俺の脳裏をよぎる。しかし、ラティファさんは首を横に振った。
「いえ、そこまでのものではないです。もう少し若いというか何というか……」
「なるほど、いや、仰りたいことは分かりました」
彼女は未熟だったりするのだろうか、ということは呑み込んで、つまりはまだ樹木精霊にはなっていない、いわば見習いとかそういうもののようだ。
リュイサさんは〝黒の森の主〟だし、なにより「大地の竜」の一部だから格が違うんだろうな。その割にはやたら気安いが。
「ありがとうございます。あ、それで、お願いというのがですね……」
そう言って、ラティファさんは俺たちに話しはじめた。
つっかえつっかえではあったが、彼女の話を纏めると、やや魔物化しつつあるものが存在するらしい。
「で、それが」
「ええ、樹木がそうなってしまって……」
「それをなんとかして欲しいと」
「はい。私たちも主も、直接手を出せないですし」
ションボリと俯くラティファさん。どうやら〝黒の守り人〟としての初仕事は、樹木の魔物退治になったようである。
さて、どう対応したもんかな。俺は頭をかきかき、皆に相談を始めるのだった。