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倒し方

「元はあんなに動いてなかった?」

「ええ、魔物化はしてましたけど、昨日……いえ、さっきまではじっと動かずにいたんですよぅ」


 俺が聞くと、ラティファさんは完全にオロオロしながら言った。


「ラティファさんが俺たちを呼んでくるまでの間に、〝あいつ〟に何か起きたってことか……」


 俺は樹木の魔物を見ながら、小さめにため息をついた。これは誰が悪いわけでもない。強いて言えば悪いのは俺の運だろうな。


「樹木とはいえ、うちの武器なら切り倒せるかと思ってたけど、あの様子だと一筋縄ではいかなさそうだ」

「そうだなぁ……」


 既に剣を抜いて臨戦態勢になっているヘレンが頷いた。そのすぐ隣で弓を準備していたが、やはりうねうねと動くツタを見て唖然としているリディに俺はたずねる。


「火を使うのはありかな」

「うーん」


 リディは一度俺の方を見た後、再び樹木の魔物を見やって、もう一度俺の方を向いた。


「なし、とは言わないですけど、多分思ってるような効果はないですよ」

「生木は燃えにくいもんな……」

「ええ、それに」


 そう言ってリディは動くツタを指差す。


「あれを避けて火をつけるとなると、中々厄介かと」

「だなぁ」


 幸か不幸か、ツタの動きは速くはないが不規則に動いているし、どう見ても長いので、何らかの意志を持って絡まれたりすると面倒なことになるのは間違いない。

 前の世界の薄い本みたいなことになってもマズい。


「火矢を射かける……程度じゃダメそうだな」

「油……も調理に使う分しか持ってきてないですしね」


 燃えやすいものであれば油を布に染みこませた火矢で引火を狙えるが、相手が生木だと多少のことではそれは無理そうだ。

 ならば、油を直接かければいける可能性もあるが、その油は今回逃走経路の確認であることもあって、あまり持ってきていない。

 本当の最悪の場合、火で追跡を諦めさせることも考慮すべきだったかな……。そうすれば、そのための油をかけて火をつけることであっさりと片付いた可能性もある。


「アタイがツタを切ろうか?」


 抜き身の剣をぶら下げたヘレンがそう言った。彼女なら一瞬で始末してくれる可能性はある。

 だが、俺は頭を横に振った。


「いやツタを切ることで、何が起きるか分からん。下手に手出しはしないでおこう」


 相手は魔物だ、邪鬼みたいにすぐに回復する可能性もあるし、切ることが刺激になって何か別方面に進化してしまう可能性もある。なにせさっきと今で形態が変わっているというのだし。

 そうなったらリュイサさんが出張ってくるだろうが。


「でも、それじゃあ」


 サーミャが口を尖らせた。俺は言葉を続ける。


「かと言って引き受けた仕事だ、手の打ちようが無いからやっぱやめます、ってわけにもいかんだろうな」


 チラリと見ると、リケが少し目を輝かせていた。俺はまた小さくため息をついてから言った。


「本体をあっという間に仕留められるような何かを、手早く作ろう」


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