人員の割り振りをしている間に、リディがしっかり送風してくれている火床に突っ込まれていた、斧になりつつある元両手剣であったところの鋼の塊は、しっかりと温度を上げてくれていた。
「頃合いだな」
「親方! 相槌はお任せください!」
リケが鼻息も荒く宣言する。俺一人でも十分なものは作れるのだが、やはり助手がいてくれるのは心強いな。
「うん、頼んだ」
俺は頷いて、リディに送風を停止して休んで貰うよう合図すると、石製の代用金床に鋼を置いた。
そして、手にした鎚で今度はリケに合図を送る。いつもならキンキンと金属音が鍛冶場に響くのだが、今はくぐもった音が森の中に散っていくだけだ。
しかし、リケはその音と動きを的確に捉え、叩いてほしいところを叩いてくれる。いつもなら大きな鎚のところ、今は普通の鎚ではあるが。
それに合わせて俺も叩き、かなりの音が森の中に響く。ラティファさんがまたすっ飛んでくるかも知れないなと思ったが、それは起きなかった。
もしかすると、もう「そういうもの」と認識しているのかもしれない。それならそれでいいや、うん。
こうして単純計算だが、先ほどまでと比べておよそ2倍の効率で作業が進んでいく。腕を上げたリケは、俺の速度についてきてくれていて、鋼は澱みなくその姿を変えていく。
温度が下がりきるまでに、鋼はかなり斧の形になってきた。
だが、俺とリケで2倍叩いたということは、石へのダメージも2倍であろうということだ。
温度が下がってしまった鋼を火床に入れ、リディに送風を再開して貰うように頼んでから、代用金床のダメージを確認する。
「うーん、次の1回で終わりっぽいな」
チートの手助けを借りて見てみると、やはりかなり耐久度が落ちている。あと1回作業したら、ヘレンとアンネが持ってきてくれた石のように、ヒビが入ってしまうだろう。
幸い、もう形はほぼできあがってきていて、この石で形を決めるのは終わりにできそうだ。
そのあとは細部の修正をしていくことになる。こちらはダメージも幾分かは少なくできそうだし、そのぶん代用金床も持ってくれるだろう。皆が持ってきてくれた2つめには手をつけなくて済むかもしれない。
「やっぱり勝手が違いますね」
「まぁ、鉄と石じゃなぁ。でも、リケも普通にできてたぞ」
ふうと息を吐いて言ったリケに、俺は小首を傾げる。リケの仕事っぷりは〝いつも〟とさして変わらなかった。
さすがはリケだなと思っていたところなのだが。
「かなりギリギリで頑張りましたからね。でも、こんな経験そうそうできるものじゃないですし、ありがたいです」
額の汗を拭いながらリケが言った。ひょんなところで己の限界に挑戦させてしまっていたらしい。
ちょっと悪いような気もするが、良い経験だと本人も言っていることだし、取りあえずはいいか。
「かなりいつもどおりにできるんだが、叩いた時の感覚の違いだけはどうしてもな」
「ええ、そうなんですよ。あ、でも、なるべく鋼にだけ鎚の力を伝えるように意識できるようになってきたかもしれません」
リケは作業する僅かな時間で何かを掴んだらしい。ドワーフの血なのか、それとも本人の才能と努力によるものか。たぶん両方だな。
「おお、凄いじゃないか」
「いえいえ、普通に金床でやるみたいにできる親方のようにはとても」
2人で再び温度を取り戻していく鋼を見ながら、そんなちょっとした鍛冶談義に花が咲くのだった。